第二十夜「心を病む者の星」

 イーグルはコンタクトに成功したがその心はひどく沈んだ。コンタクトした星の人物は心を病んでいたからだ。しかし、それでも心の病に屈しない様、必死でもがいている彼らの力行りっこうに心が熱くなる。

 自分には彼を救い力付けうる力が無い。ただ、彼の話し相手になって優しく話を聞く、その程度の事しか出来ないのだ。その事実に自分の無力さと地球の技術力に失望しかけた。

「イーグルと言ったね?君はひょっとして、幸せなんじゃないのかい?」

 イーグルは彼の問い掛けに体が硬直していくのを正直否定出来なかった。彼らの言葉はひどく重く感じられ、自分が受け止めきれるかどうか自信がなかったからだ。

「おそらく、君の言う通り、僕は幸せなんだろう。そうでなければ他人の幸せを祈ったりする余裕が無いと思うから……」

 コンタクトした人物は少し考えてから、明るく答えた。

「それ、それだよ。これは僕の独りよがりかも知れないど、幸せに思う人が居ないと、余裕が有る人が居ないと僕達を包んでくれる人が居ないと思うから。」

「他人が幸せで自分だけが不幸だとは思わないのかい、それ程心をすり減らしてしまっているのに」

「だから言ったじゃ無いか。幸せな人が居ないと自分も幸せに成れないし、それこそ無駄に心をすり減らしてしまうって。僕達は幸せな人達に支えられている……あ、これは皮肉じゃ無くて、心からそう思って言っている事だよ、悪い意味じゃないからね」

 イーグルはこのままコンタクトを終了しようかと思った。何故なら、悲しくて心が張り裂けそうに成ったからだ。それを察したのか、彼は更に続けた。

「皆、幸せになって欲しい。それがどういう形の物か解らないけれど、それは権利でも有るし、義務だとも思う。だから、ね」

 無重力の空間、闇に体を委ねるイーグルの生命維持装置のヘルメットの中に、大きな水滴が漂った。イーグルは、生命維持装置の湿度を調整して、その水滴を瞬時に乾燥させた。其処には塩の結晶が微量付着した。そしてそれを見てイーグルは思った、心の底から思った。自分は幸せなんだと。暮らす場所も同居人(猫)も、きつい助言の仲間も。全てを受け入れようとイーグルは思った。受け入れられる心を持つ事が、どれだけ大切な事であるかを。そして、コンタクトしてくれた彼の為にも。

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