第35話 フリップの思惑

風呂が用意されてふかふかのベッド

温かい猪鍋は美味しく、腹いっぱい食べれた。

こんな安心感と穏やかさは、いつぶりだろうか。

マリノティス侯爵が、

「在庫の小麦や食糧を保存しなくてもこの冬は、乗り切れるから差し上げます。猪を燻製にしてどんどん送ります」

と言った。ルイーゼ嬢となんか似てると感じた。

羨ましいとも思った。

扉がノックされ、開ければ、ソリオとフランツだ。


「良かったな、どうにかなりそうじゃないか?これを渡せば、借りはなしだ」

とフランツが言った。

「そうだな、レガシー王子は、情報提供を細かくしてくれた、そのお返しは出来そうだ」

と言えば、ソリオが、

「ルイーゼ嬢には借りが二つじゃないのか?」

と言う。

「監禁を助けてくれたのと食糧支援か。しかし俺だってルイーゼ嬢が困った時、侵入して助けて証拠をあげたよ。だから今回の分はまたお返しはする」

と言えば、ソリオは、笑って

「いやいや、今回食糧を交渉に使う気だろう?クリスティーナ王女の件。あちらの国も凄いよな、ナタリア王女を押し付けて、失敗したから双子が来たわけだろう。ナタリア王女で上手くいけば、来る予定はなかったんだろう?だから転入、今の国王をしっかり操る気満々だよ、どの国も」

と言えば、フランツも

「ずっと付いていたからわかるが、クリスティーナ王女は、王族絶対主義だ」

「わかってる、王妃と俺が邪魔だと毒を混入されて気づいた。王妃も慌て癒しの魔法を俺に移した。毒から監禁になったけどな。学園卒業と同時に王太子になり、執務の全権を握る」

と言えば、フランツが

「今だって7割執務回されてるだろう?大丈夫か」

と言われれば、

「俺だって、学園に行きたいが国王が全て臣下に任せる人だからチェックが必要なんだよな。王妃も一番の要、税と食糧を担当してくれている。だからAクラスの仲間って言われて嬉しかったな」

「会えて嬉しかったんだろう。トルネス領飛ばして真っ直ぐマリノティス領地に入ったじゃないか。ルイーゼ嬢に会いたかっただけだろう?」

と言われ、

「最近バードも元気なかったから、会わせてあげたいと思っただけだ。フランツの勘違いだ」

と言えば、ソリオが

「俺は、良いと思うよ。ルイーゼ嬢ならフリップの横に立って仕事も支えられる。今の王妃のように。そして民とも目線が近い。今日なんて、村人が猪鍋作ってるから、その間の芋洗いを引き受けていたし、魔法も使える」

フランツも

「飾りよりよっぽど国のために良いと思うが、損得抜きで気持ちは決まっていたんだろう。二曲連続で踊っていたし、バードは、ルイーゼ嬢が大好きだし」

「びっくりしたよ、仮面パーティーの日、いきなりファーストダンスをレガシー王子とクリスティーナ王女にお願いして消えるから、探したら、仲良くダンスしているし」

と言われた。

「あれは、レガシー王子の話が信じられるかの検証もあって、サリバンの様子を見たりしていたら、バードが旋回していたから、見に行ったら怪我を、治してくれた令嬢だったと言うわけで連続で踊ったのは、バードが…」

「おいおい、お前ら二人して『好き』をバードに置き換えていくのか」

と指摘され、観念した。

「そうだよ、生徒会に引き入れた時から、考えてはいた。王妃の器も測ってはいた。ただ、ルイーゼ嬢は、王妃になりたがって無い。近づくと距離を空ける、近づけるのは、バードだけだよ」

と苦笑した。ソリオとフランツが

「本当にそうかな?フリップはルイーゼ嬢の中で特別だと思うよ。顔色みて心配していたし、食事や寝床、お前にとって安心出来る場を与えられるのは、ルイーゼ嬢だけだろう。監禁から助けてくれた日から。大丈夫だ、好意が無ければここまで出来ないだろう?」

と言われ、自信が出てきた。

「そう言えば、バードは?」

と言えば、

「ルイーゼ嬢のとこだろ、俺達が背中撫でようとしたら威嚇するくせに。バードが子供の頃から変わらないよな」

全くあいつは、ルイーゼ嬢に助けられたからって頭を下げるなんて。

「マリノティス侯爵様には、先に手を打った方が良いぞ、あの方飄々としているが、かなり先見の明があるぞ」

「だろうな。でも俺は夫人を囲う方が、ルイーゼ嬢の逃げ道はなくなると思う。しかし砦は侯爵だろうな。地位に執着は無いからな」

と言えば、フランツも笑いながら、

「フリップ、やっぱり逃がす気ないじゃないか」

と言い、

「この食糧支援をデマルシア帝国に届けたら、王妃とお祖母様に頼んで固める。生徒会がまた残されたメンバーが少なくなるな、悪いな」

「いや、フランツは、フリップに付くんだろう?一年生が入ってくるし、ライラ嬢の他もう一名必要か、サリバンはどうした?」

とソリオが言ったから、

「戻ってくる気配なしだな」

と答えた。


扉はノックされ、夕食の時間です、と声をかけられた。久しぶりに心配事じゃない話題を、三人で話せた。

「次から次になんかが起こるんだよな」

とこの一年を思った。

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