第8話 脱走

「どういうこと?」


びっくりした。信じられないものを見たような気持ちだ。

「見たままだ、ルイーゼ嬢。私は、フリップであのマークと偽物フリップに捕まった」

「カリバ様は?」

「どういう流れかはわからないが、あっちを本物として扱い私が偽物として閉じ込められた」

「2か月前って、入学式当たりですか?」

「入学式の日だ、あいつらは魔法を使う。顔もそれで変えている、赤い髪のマークは、幻影か惑わす力のようだ。そしてもう一人私に姿形を変えているやつはキースというらしい。あいつの魔法を見た時意識を失った。魔法使いは、君もだろう」

「はい、魔法です。まずは食べましょう、下男が来てしまいますから」


頭を整理しながら食べる。フリップ王子と名乗る人は、随分痩せてしまっていた。

同じ顔、しかし学園のフリップ王子様の

赤い眼が意識を奪った。

食べ終わり、あの二人に心当たりはあるか聞くと、

「国王の隠し子だと言った」

と苦々しく言う。

「隠し子」

お父様はそんなこと話してなかった。

「マーク様の家名は何ですか?フリップ王子様の側近ならそれなりの家格ですよね」

と聞くと、

「マゼラン侯爵に養子縁組をした親戚の子供と聞いている」

「ではこの監禁はマゼラン侯爵の仕業でしょうか?」


黙っているフリップ王子様。

階段を登る音。

また檻に戻って膝を抱えてもらい檻の鍵を閉めて、窓を直す、桶や鍋を扉の前に濡れた服や以前の服は丸めて檻に隠してもらう。服が違うことがバレるだろうか。

部屋に入ってくる男と女。男が檻の鍵を確認、女が鍋や桶を回収、

「香が効いて良かったな、桶の水で少しは洗えたか?臭いったらなかったもんな」

「令嬢だろうと世話すんだよ」

とゲラゲラ笑う男と怒鳴る女。この人達は、この方がフリップ王子様とは知らないのかと逆にどんな依頼をされているのだろう?

フリップ王子様を始末しない理由は?

マーク様は、最後なんて言っていた?

まだ頑張っちゃうかと言っていたような頑張るって何だろう。

偽物フリップ王子は、まだ譲らないのかって言っていたし、何だろう?


男と女が出ていき、鍵が閉められた。檻の鍵を開け、フリップ王子様を出し、先程の疑問を聞く。

「頑張っちゃうって何をですか?譲れよって何をですか?」

と聞くと、フリップ王子様は、両手を見ている。

「何故私が2か月もの間生き延びているか、それは私の癒し魔法だ。この魔法は、引き継ぎが出来たんだ。教会の長の継続魔法で王妃から私に引き継がれた」

「えっ、では長が亡くなったら」

「教会は次の長に継続魔法を引き継ぐのではないか」

「しかし、突然死など予期せぬ不幸もあります」

「その時は仕方がないのではないか」

そういうものなの?

突然の魔法だったけど、昔からなのね。

「魔法って聞きませんが、結構みんな使えるものなんですか?」

「王妃が聖女の癒し魔法を継ぎ、そして突然私に継続した。いや、私も全然聞かなかったが、そう言えば、こんなに魔法を使う人に会ったのは学園の入学前からだ」


また階段を上がる音が聞こえる。二人で上がってきたようだ。

また喧嘩をしている、扉の開け閉めが激しい。


喧嘩は止んだ。

「フリップ王子様身体は大丈夫ですか?考えてもわかりませんので、ここは早く脱出をしようと思います」

頷くフリップ王子様、そして

「軽い怪我なら治せる」

と言い、実行をする。まず扉のノブから鍵をずらして扉を開けた。二人で階段を降りる。音が鳴るがすぐに玄関なので扉の内鍵を音がでないように柔らかくして壊す。

外に出る。しかしフリップ王子様の足が上手く走れないようだ。

「すまない、迷惑をかけて、癒し魔法を使いながら進む、君は先に逃げてくれ。ここまでしてもらって感謝の言葉しかないが、本当にありがとう」

「この世のお別れのような挨拶なんていりません。杖なら作れますし、行きますよ」

と引っ張っていく。2か月も閉じ込められたら逃げ出せただけ奇跡だ。歩く筋力も衰える。ここは森か林の中だ。とりあえず、この馬車道をまっすぐ進もう。


「大丈夫、気づくとしたら、朝です。のんびりいきましょう」

と声を掛けた。フリップ王子様は下を向いていて表情はわからない。ただ納得してくれたようだ。

私よりフリップ王子様の方が辛かっただろう。でも休憩をしようと言っても聞かず足を引きずってでも進む。

その姿に心打たれた。

何とかしなければいけない。

その気持ちは、私も前に前に進む力になった。

怒りの矛先が燻ったまま。夜が明けていく。白いモヤの先に町がある。王宮も教会も見えた。

顔を見合わせた。

「意外に近くだった」

と声を合わせて言う。

朝日が昇りはじめ、すっかり白いモヤは晴れた。

警備隊に駆け込もうかと思ったが、フリップ王子様の顔がバレたらまた何があるかわからない。

ちょうど、マリノティオ家の御用達(母)の商会があった。商会を家に呼ぶって何だろうって思ったら、さすが母はザ貴族。こういう人間関係を築いているのかと感謝する。

扉を叩く。何度も。

「誰だ、朝から…。マリノティオ家のルイーゼ様?」

「ごめんなさい朝早く、屋敷まで送って欲しいの。御礼はちゃんとするわ。早くお父様に報告しなければいけないの」

リトマス商会はすぐに馬車を用意してくれ、屋敷に連れて来てくれた。私のお母様ってポイント押さえている人だと感心する。


「まぁまぁ、ルイーゼ、良かった」

とお母様に抱きしめられる。お母様は泣いている。お父様も泣きそうな顔に

「良かった、頑張ったね」

と頭を撫でてくれた。

「お父様、こちらフリップ王子様です。2か月もの間林の奥の山荘のようなところで檻に入れられていました」

お父様もお母様も驚いて

「何だって、今いる王子殿下は偽物なのか?」

と言い、

「すぐに山荘に男と女がいるので押さえて下さい」

とお父様に頼む。お母様は、すぐに客室やお風呂の用意を使用人に命じ、フリップ王子様は、二人に

「世話になります、マリノティオ伯爵」

と頭を下げた。

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