第43話 イネッサ・アンダーウッドにおまかせを 完

「ふーん、それでディノスさまとはどうなったの?」

「え?」


思わず声が裏返った。


「だって、その方のこと、気に入ってるんでしょ?」

「ど、どこをどう聞いたらそうなるのよ!」

「えー、てっきりそうだと」


アナスタシアがきゃっきゃと笑う。


「もう! そんなんじゃないってば!」

「ごめんごめん。それで、お店の方はどうなったの?」


「あ、うん。そっちは大成功! ほら、タイレルの陶器は有名でしょ? だから、サロンと陶器販売を合体させたらどうかなって思ったんだけど、それが良かったみたい」

「え、合体?」


「うん、サロンでくつろぎながら、店内で使われている食器や茶器、それに飾られた置物も気に入ったら買えるようにしてあるの。良いアイデアでしょ?」

「……」


アナスタシアがぶーっとむくれている。


「アナスタシア? どうかした?」

「これ以上、イネッサが忙しくなったら遊べなくなる……」


「ぷはは! 何かと思ったら、そんな心配しないでよ」

「だって、いまでさえ、たまにしか会えないじゃない」


「それは、アナスタシアも忙しいからでしょ? お互いたまにしか会えないけど、その分、私はアナスタシアのことを思う日が増えたわ」と、ちょっと恥ずかしかったけど、そのまま言葉にした。

「……私も」


二人で顔を赤くして、ぷっとどちらともなく吹き出した。


「「あははは」」


「やっぱりアナスタシアといると楽しいな」

「うん、私もイネッサといると楽しいよ」

「にひひひ……」


照れ笑いをすると「今度はディノスさまも一緒かしらね?」と、アナスタシアがしれっと言う。


「あ、アナスタシア?」

「ふふ、冗談よ、冗談」


「もぉーーーーーーーっ!」



    §



アナスタシアと別れ、家に帰ると父とサンドラが何やら話していた。


「どうかした?」

「おぉ、イネッサ、見てごらん、これはエミールのランプだよ! 素晴らしい……」


父がランプをまるで赤子のように持ち上げた。


「さきほど、タイレル家から贈り物が届きまして」と、サンドラ。

「うん、タイレル子爵は中々わかっている青年のようだ。そうだイネッサ、今度、子爵を我が家に招待してあげなさい」


「えっ?」


「何だ、嫌なのか?」

「い、嫌ではないですけど……」

「では、頼んだぞ。彼には特別に、私のコレクションを見せてやろうと思ってな。きっと驚くぞ……ふふふ。おっと! そうと決まれば、コレクションの整理をせねばな」


大きな体を揺らしながら、父は自分の部屋に戻っていった。


「……」


我が父ながら難儀な性分だと、短くため息をついた。

こうなったが最後、いかに苦心して集めたかを語らねば気が収まらないのだ。


「よろしいのですか、イネッサさま?」

「いいのよサンドラ、それより招待する以上、恥ずかしくない準備をしなくちゃね」


「かしこまりました。ご用意するものがあれば何なりとおっしゃってください」

「うん、ありがとう。また考えたら言うわね」


自分の部屋に戻ろうと階段を上がる。

なぜだろう、不思議と足取りが軽い。

途中でふと、階段の壁に掛けられた円形の凸面鏡に映る自分を見て前髪を直した。


「よしっ」


跳ねるように階段を駆け上がり、部屋に戻る。

机に向かい、私はディノスに送る招待状を書こうとお気に入りのペンを握った。


さて、書き出しはどうしようか――。








【あとがき】

12/28 黒幕令嬢アナスタシア本日発売です!!!

加筆、改稿、めちゃくちゃ気合い入れてやりました!


オルタード商会や父の病の謎、アナとカイのエピ増し増しで!

挿絵がまた素晴らしい……ボダックス様の超美麗なイラストは必見です!


皆様の年末年始のお供に、ぜひお迎えいただけますように……!!

どうぞよろしくお願いします!


それでは、今年も一年ありがとうございました。

皆様、よいお年をお迎えくださいませ。ではでは。


1/6追記

今ならDMMブックで電子版が54%OFFになってます!

1月12日の15時までらしいのでお見逃し無く!

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