番外編 イネッサ・アンダーウッドにおまかせを
第39話 イネッサ・アンダーウッドにおまかせを①
「んー、これかな……いや、こっちに決めるわ」
イネッサは侍女頭のサンドラが並べたドレスの中から、シックな千草色のローウェストドレスを姿見の前で合わせた。
侍女頭のサンドラが着替えを手伝いながら「お帽子はいかがなさいますか?」と、並べた帽子に手を向ける。
「ん、ん、ん……、これにするわ」
同系色のボンネットを手に取り、姿見に映る自分を見ながら帽子を被る。
「うん、これでOK。あとは……このロングネックレスで完璧ね」
サンドラにネックレスを付けてもらって、姿見の前でくるんと一回転する。
「戦闘準備完了っと! じゃ、サンドラ行ってくるわね、おみやげ買ってくるから」
ハンドバッグを腕にかけ、イネッサはあわてて部屋を出ていった。
つい最近まで、イネッサは外にも出たがらず、洋服も暗い色ばかりを選んでいた。
それがいまでは、サンドラも驚くほどのファッション通になっている。
元々、イネッサの美しさを知っていただけに悔しい思いをしていたサンドラは、活き活きとしたイネッサの後ろ姿を見るだけで胸に込み上げるものがあった。
「本当に、お綺麗になられて……」
「イネッサさま、素敵になられましたよねぇ~」
侍女のケリーが洋服を片付けながら言うと、サンドラが腕組みをして頷く。
「アナスタシアさまのお陰だねぇ、本当に良かったよ。旦那さまも喜んでらっしゃるしね」
「わたし達も最近のイネッサさまは大好きです」と言ったあとで、ケリーがあわてて言いなおす。
「あ、も、もちろん昔から大好きですよ? ただ、最近がすごく好きなだけで……」
「ははは、何を言ってんだかねぇ、そんなことはわかってるよ。さぁ、イネッサさまがお戻りになる前に、部屋を片付けてしまおう。ケリーは窓の方を頼んだよ」
「はーい」
ケリーは手際よく、大きな窓を端から順に開けていく。
わずかに花の香りを乗せた春風が、真っ白なレースのカーテンを揺らした。
窓ガラスを拭きながら、ふと、外に目を向けると、ちょうど王都へ向かうイネッサの乗った馬車が見えなくなるところだった。
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