第4話 本当の読書

彼女は、何故 慧人が定期を持っているのか知りたがっていたが、慧人は目を伏せて頭を振っておいた。


そうそう、これでイケメンは正解のはずだ。


まもなくバスが来て二人はバスに乗り込んだ。

バスの中はそんなに込み合ってはいなかった。しかし、一人席は空いていなかった。

二人席が一つ空いていたのと、あとは二人席に一人が腰かけていた。

わざわざ他の席の二人席に座りに行くのもなあと思った慧人は一花をエスコートして席に座らせ、自分もその隣に座った。


慧人は鞄からいつもの本を取り出した。それにはしっかりと茶色い革のブックカバーを施してある。

読み始めると、彼女はすっと窓の外に視線を向けた。朝川さんは、サラサラとした髪をすっと左の手で耳にかける。それだけの行動が慧人の心臓をバクバクとさせていた。彼の体は女性への抗体を持ち合わせていなかったので、とにかく意識しないよう本に集中しなければならなかった。


さっきの答え合わせをしなくては。


ぺらりとページをめくると、その本には、「女性への接し方」とか「女性目線の男性」とかいう文字が溢れている。そして、読みたいページにたどり着いた。


”落とし物をした女性への対処法”


・まるで魔法を使ったかのようなサプライズをしながら落とし物を渡す。

・何故自分が落とし物を所持しているかは絶対に教えない。(ミステリアス度100%)

・落とし物を拾ったからといって、急にぺらぺらと話さない。


パーフェクトだ。


慧人はほっと胸を撫でおろした。


「その本、難しそうだね。」


突然、彼女の声が耳元で聞こえて心臓がはねた。

何にでも興味津々そうな瞳が慧人の顔を覗き込んでいる。


「そうかな。これくらい誰だって読むよ。」


そう言って慧人は足を組んだ。

心の中ではまた自分に「パーフェクト!」と拍手を送っていた。

「そっか。」と呟いた彼女の声が、じんわりと耳に響いた。










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