終章 解(カイ)
第48話 伊能雅の行動原理
「知るかいな!」
「面接試験の生徒ですか? なにしろうちの学校、編入転出多いし」
リリーはそっぽを向いたし、沙記もうーんと考え込んだが、綾は、目を丸くしていた。
「一時帰国ってことは、伊能様?」
「ご明察、ですわ」
マーガレットは、にっこりとうなずいた。独り言のように、言い添える。
「だってあの方、『キミが付き合ってる彼女って、どんな人さ?』と、響也さんに聞いたというんですもの。もしかしたら一ヶ月前――って、面接日程を調べたくもなりましたわ」
広められた噂には、響也に彼女がいるという情報は入っていなかった。それを知っていたということは、噂を広めた張本人。
「たぶん、あの日、エスコート服の資格を取得したついでに早速アヤに声をかけようとして、音楽堂まで尾行していって、立ち聞きをしてしまうことになったのですわね」
「え? アヤに声かけ? 尾行?」
「綾様、伊能隊長と前からお知り合いだったんスか?」
「知らないわよ、あんな方! どうしてからまれるのか、憎まれる覚えも、逆恨みをかう覚えも、正真正銘、記憶にないもの!」
「あら……皆さま、まだわかりませんの?」
マーガレットは、再びきょとんとして見せてから、
「すべてのヒントは出そろっていますわ。あとは考えれば分かること。……ではこれは、明日までの宿題といたしましょうか。――ねっ?」
いたずらっぽく、マーガレットは笑った。
翌朝。
寝不足気味で起きあがった綾は、
――学校……行きたくないなー……
ボーッと枕元の畳の目を見つめていた。
よく考えると、学院生の半数が、エスコート服に多かれ少なかれ反感を持っているという事実を明確にしてしまったのだ。その総長役だった綾は、これからエスコート服の少年たちと学院内ですれ違うたび、どんな顔をしていいものか。すっかり気は重く、頭も痛くなってくる。
「あら、綾さん! どうして食卓に
食堂に降りていった綾に、いつもどおりの母親の明るい声が飛んだ。
「えーと、疲れが出てしまって、今日は、お休みを……」
「何おっしゃるの、ズル休みはだめよ。それにエスカドロン・ヴォランとして初登校の記念すべき日でしょ、ほらほら、着替えてきて! エスコート服さんのお迎えも、もういらしてますわよ!!」
え?と、綾は目を点にした。
「送迎の
しかし、廊下から、案内する家政婦の声が響いてきた。
「まあまあこちらへどうぞ! 先日の晩は、お嬢様を届けていただいて、どうもどうも」
「いえいえ、お礼なんて滅相もない。あ、おっはようございます、綾姫!」
明るく弾んだ声とともに、式部家の食堂にしゃあしゃあと脚を踏み入れたのは、伊能雅。小柄な体に、今日も隙なくエスコート服を身につけていた。
「きゃああああああ!!」
飛びすさって厨房の方に身を隠し、赤面した顔だけを出す、綾。
「お、お母様!! なんでこの人がおうちの中に……」
「あれ? 綾姫、そんなに恥ずかしがらなくても。
雅は、わざとらしく顎に手を当てて、考え込んで見せた。
「嘘っ!! あなたっ!! みっ、みっ、みやっ……!!」
「雅、です。両親の意向で、前世紀のヨーロッパ貴族よろしく、女のコとして幼少時代を過ごさせられてしまったけど」
「おとっ、おとっ、おとっ……!」
「ええ。実は」
「でもどうして!! 三年生なのっ!?」
「そういや日本には、飛び級制度ってありませんでしたねぇ……」
そらっとぼけてつぶやいたあと、雅は大きく片手を差し出した。
「お迎えに来ました。本当は、正式な学院生になって、一緒に登校したかったんですけど」
「~~~~~~っ!!」
声にならない悲鳴を上げて、綾はその顔を穴のあくほど見つめ、へなへなとその場にへたりこんだ。
<END>
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この物語はフィクションであり、実在の団体・個人・事件とは一切関係ありません
また、この物語は自殺・自傷を推奨するものではありません
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次の作品は、この作品が終了して4時間後、12時過ぎに公開です。
古代マヤ文明ふうの世界で、水を刃に変えてバトルする少年たちの物語。
王朝、神聖王、鷲とジャガーの2つの戦士団。
現在のメキシコやベリーズの遺跡にある、マヤの神殿ピラミッド、翡翠を重視する文化。
動物神の頭飾りを兜のようにかざして戦いにのぞむ部族長将軍たち。
若い王と、それを守る女摂政。
面白い物語を書いていきますので、どうぞ読んでくださいね
聖女館の方程式/わたしをふった彼が編入してくる共学化なんて断固阻止します 春倉らん @kikka_tei
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