壱 正義と悪の狭間

半妖は眺める

正義と悪の瀬戸際を


ある国での事

1人の「悪魔」とされた男がいた


時の政治に疑問を抱き

己の考えを申し立てたが

考えの合わない武将の手により

「ならず者」と断罪された


噂は流れに流れ、

既にその者とは関係なく

「正体の知れぬ悪魔」がいると

人々の正義感を呼び起こした


口々に正義を語り

「正体の知れぬ悪魔」を

叩き潰すかのような言葉を

空に放っていった


悪魔とされた男は

正体も解らず放たれる言葉に

打ち砕かれていた

「私は一意見を述べただけなのに」


それでも男の周辺には

真意を知る者がいた

文言をしたためる者

魔法を操る者

錬金術を操る者


事態を収束するべく

その者共は

作り上げることにした

己達の思いを込めた

「言霊の宝石」を


半妖は眺めた

その後の世を

如何いかに醜く汚く

如何いかに愛らしいか

私を楽しませておくれ


「正体の知れぬ悪魔」は

民より人気を集めていた

くらいの低い判官はんがんである事


その意外な存在に

「正体の知れぬ悪魔」への

人々の正義感による批判は

空に溶けて行った


男達の作った言霊の宝石は

ただ静かに妖しい輝きを放つ

「存在するだけ」だ


武将達はざわめいた

言霊の宝石をどう捉えれば良いのか

これは既に悪魔ではない

「人が作り出したもの」


武将の1人は言う

「国を侮辱ぶじょくするだけのかたまり


武将の1人は言う

「人気を得たいだけの物」


武将の1人は言う

「主張をする為の勇気の証」


武将の1人は言う

「思いを込めた芸術作品」


ああ、人とはかくも浅ましき


宝石に意味を見出そうなど

静かに輝きをたた

作者の込めた思い以外に

意味など無いのに


人とは、世論に流され

善悪を判断するものか

無常の世に

確たるものなどないのに


可愛いものよ


次へ行こう

次の世を眺めよう


この世界には

既に用はない

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