第2話 好きだということ

 どうしよう、とてつもなく気まずい……。

 休み時間になり、少し離れたトイレで一人落ち着いて用を足して帰ろうとしていたら、その途中にある渡り廊下に西条さんとその他お友達が道を塞いでしまっていたのだ。

 言えば簡単に通してもらえるだろうが、ちょっと様子を伺っていたら自分の名前が聞こえてきて、とても行きづらいような状況になってしまっていた。

 なんだろう、こんなところまで来て僕の話をするなんて。もしかして、僕に不満があるのか⁉︎

 トマトが食べられないとか、女の子の扱いに慣れてないとかいろいろと自分のダメなところが頭に浮かんでくる。


「で、ユーミはどうしてあんな地味な男がいいの?アンタだったら、もっとイイ男捕まえられるでしょ」

「ほんとそれー。アンタ、サッカー部の山本先輩にも告白されたんだってー?それなのに、どうしてあんな地味な男をねぇ…」


 ——地味で大っっ変申し訳ございませんでした‼︎

 なんだろうか、とても悲しくなってきた。

こうなるんだったら、もっと早くに通してもらっていればよかったのかもしれない。

 だけど、西条さんも僕のことをそう思ってるのかな…。できれば、そう思っててほしくないな…。


「もー、あーしの彼ぴっぴにそんなこと言うのやめてくれるー?本当にそんな地味な男なんだったら、あーしが惚れるわけないでしょー」


 西条さんがそう答えると、なんだか場の雰囲気が変わったような気がした。

よほど意外だったんだろう。


「へぇー。そこまで言うならさ、アイツのどこが好きなのか教えてよ!」

「あっ!それ、ウチも気になってたやつー!」


 それ、僕も気になります——‼︎

 朝、あんなことを言われたんだ。

つまらないことでも、少しくらいは答えてくれるだろう。

 西条さんは、顎に手を当てて考え始めた。


「んー、あーしはコーキのどこに惚れたんだろう。…分かんないかも!」

「いや、分からんのかよ‼︎」


 西条さんはてへっと舌を出して笑った。

しかし、そんな表情もすぐに真面目なものに変わり、再び彼女は口を開けた。


「——でもね、あーしはコーキのこと、本当に好きなの。不器用で、ちょっとスケベなところもあるけど、あーしのことをちゃんと見てくれる、誰よりも優しい男の子だと思うんだ。…それに、コーキと一緒にいると、胸が熱くなるの。…これって、『好き』ってことなんだよね…?」


 それを聞いていた友人たちは、ぷっと吹き出し、終いには大笑いまでしていた。


「アンタ本当にアイツのこと好きなんだねぇ。大丈夫、安心して。ウチらもなんだかんだ言いつつ、応援してるから!けど、もし変なことされたら教えてよね。ウチらがシメてやるからさっ!」

「ありがと、なにかあったらすぐ言うから、そのときはよろしくね」


 いや、よろしくしちゃダメでしょ!

べつに変なことをするつもりはないけれど、西条さんと話すとき、いつもお友達ーズを意識しなきゃなんないじゃん!


「それ、本人に言ってあげたら?どうせコーキくんって童貞でしょ?今まで彼女もいたことないだろうし、喜ぶと思うよー」


 友人A…キミの言葉は僕を深く傷つけた…。


「いやいや、そんなこと言えるわけないし!」

「どうしてよ」

「…だって、恥ずかしい…じゃん」

「ひゃー!まさに恋する乙女ってカンジ!こんなのコーキくんが聞いてたらどうなっちゃうだろうんだろうね!」

「もう、本当に恥ずかしいんだから、冗談でもそんなこと言わないでよ…!」


 いや、マジでどうなっちゃうんでしょうねー‼︎

今ここで、この場で、聞いてますけど!

ものすごくドキドキしています!

 西条さんの知らない一面を見れたような気がして、嬉しさと恥ずかしさを感じてしまう。


「あぁ…西条さん、やっぱり好きすぎる…」

「それ、本人に言ってあげたらいいのに…。この前不安になってウチらに相談までしてきたんだから」


 声が聞こえて恐る恐る顔をあげてみると、なぜかそこには西条さんたちと話していたはずの友人Aが立っていた。

 というか、この角度だとパンツが見えてしまうんですが…。


「き、気づいてたの⁉︎」

「さっきからコッチに熱い視線送りつけてたの、気づかれてないとでも思ってたの。…はぁ。アンタたちって本当に不器用よね。お互いもっと素直になったらいいのに…」


 ため息をつかれた。

 今までそんな経験がなかったんだから、仕方ないじゃないかなどという文句はそっと心の中にしまっておくことにしよう。


「ユーミ、アンタのこと大好きだから」

「…うん」

「じゃあね、童貞クン」

「…うん⁉︎」


 クスクスと笑いながら、友人Aは手をひらひらと振って去っていってしまった。

 まったく…。間違ってはいないが失礼な人だ…。

 だが、おかげで一つだけ大切なことを確認することができたような気がする。

 

 ——やはり、僕は彼女が好きだ。

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