ちょっぴりギャルなカノジョ

寧楽ほうき。

第1話 ちょっぴりギャルなカノジョ

 金曜日——学生にとっては一週間の終わりの日。

今日を耐え切れば、明日は休日が待っている。

 そう考えると、登校するのも気が楽になるものなのだろうか。考えるだけで頭が痛くなる……。


「はぁ……」

「どうしたのー、そんなため息なんてついちゃってさー。ほら、アンタはあーしの彼ぴっぴなんだから、もっとしゃきっとしなさいよ!」

「あうっ!」


 そう言って、僕の彼女である西条さんは力強く僕の背中をひっぱたいた。

 明るくて可愛い、ちょっぴりギャルなクラスの人気者。男子たちとも仲が良く、とてもモテている。

それが僕の彼女、西条さいじょう悠美ゆうみだ。こんな可愛い彼女と一緒に登校できるとなったら、世の男子たちは喜んで学校に行くだろう。

 だが、僕は少し違った。正直、彼女の隣を堂々と立っていられるような自信がないのだ。

 そんな僕が彼女に告白をした理由は、他でもなく罰ゲームだった。

 ずっと想いを寄せていた西条さんへの告白は、僕にとってとても荷が重かった。

そもそも、名前も知らないような僕のためにわざやざ屋上まで来てくれるとは思わなかった。

 だけれど、彼女はこんな僕にも優しさをくれた。もうここで砕けてもいい。ここで諦めようと思って彼女に想いを伝えたところ、なぜだかオッケーをしてくれた。


「ねぇ、なんで西条さんは僕と付き合おうって思ってくれたの?他の人たちはいっつも断ってるって聞いたことがあるんだけど……。もし、僕のことを気遣ってそうしてくれてるなら、気にしなくていいよ。もともと諦めてたからさ」

「…ふーん、諦めてたんだ」 


 彼女の表情が一気に冷たいものになった。

それも、今まで見たことのないような。


「今更、遊びでしたって言って欲しいの?じゃあ、なんでそんなにも悲しそうな顔してるのよ!」


 そりゃあ、悲しいよ。

一瞬でも本気にして喜んでた自分がいるんだから。

 彼女は僕の両頬に手を添えて、自分と目を合わせるようにした。そのとき、僕は初めて気がついた。


「なんで西条さんが泣いてるの……?」

「——っ。アンタのせいよっ」


 彼女の白い肌を、一粒の涙が伝っていく。

 頬に添えられた手が小刻みに震えていることにも気がついた。

 どうしてだよ。どうしてキミが泣くんだよ。

本当は僕のほうが泣きたいのに。


「……やっと見つけられたと思ったのよ。私だって、人並みの恋愛がしたかった。でも、近づいてくる男たちはいつも私の身体しか見てくれなかった。告白のとき、だれも私の顔を見てくれなかった。——だから、アンタだけだったのよ。私自身を見てくれて、私自身を評価してくれてたのは!だから、私はそんなアンタだから受け入れたのに……。それなのに……」


 彼女がそんなことを考えていただなんて、全く知りもしなかった。知ろうともしなかった。

 そして僕も、彼女のことを偏見の目で見ていたのかもしれない。……信じてやれなかったのだ。

 ぎゅっと強く拳を握りしめた。


「……ねぇ、私のどこが好き?」

「えっ⁉︎」

「どうして私に告白してくれたのよ」


 彼女の唐突な質問に、動揺を隠し切れなかった。

 でも、西条さんも話してくれたんだから、僕もその気持ちに素直に答えないといけないよな。

 心を落ち着かせるかのように大きく息を吸う。


「初めて僕が西条さんと話したのは、体育のときだったんだ。怪我をした見ず知らずの僕に絆創膏を渡してくれた。気づけばそのときから好きになっていたのかもしれないね。それから目で追うようになったキミは、誰にでも優しくて、よく笑っていて、そんなキミだから僕は告白したんだ」

「……へへっ、あーしのこと大好きじゃん」

「そう、だね」


 涙を拭い、彼女は微笑んだ。

 そうだ、僕はずっとこの笑顔が見たかったんだ。


「ねぇ、コーキ、こっち向いて」

「ん——っ⁉︎」


 柔らかくて、暖かい、初めての感触。

今まで知らなかった感触。

 西条さんの唇が僕の初めてを奪った。


「アンタはヘタレだけど、イイところあるんだからさ、ちょっとは自信持ちなさいよね」

「え、あ、ひゃいっ」

「キスだけでそんななっちゃうなんて、ヤラシー。コーキくんはムッツリスケベくんなんだねー」


 彼女は、にへらと笑って走って行った。


「ほーら、早く行かないと遅刻するぞー」

「そんなこと言って、西条さんいっつも遅刻してるじゃん」

「昔のことなんてどうでもいいのー。これからはちゃんと行きますぅーだ」


 昔って言うほど前の話じゃないでしょ……。

 西条さんは振り向いて、べぇ、と舌を出した。


「そんなに走らなくても間に合うでしょー。——っと、うわぁっ!」


 前途多難な僕の恋愛こいは、こんな風に転んで終わってしまうのだろうか……。先が思いやられる……。

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