芸術家の悩み

魂を吹き込む難しさ


 ここ最近、私はあまり作品を作っていない。

 作っても適当な短編ばかりだ。


 リアルが忙しいというのもある。

 だが、一番の問題は今計画している作品が一向にプロットから完成しないのだ。


 私が初めて書いた長編「我々は皆、怪物である」は今も再び筆を執る気がしない。

半ば勢いと全身全霊で完成させようとしていた節があり、どうしても砕けてしまって熱を孕まない。きっと再び書くとしたら一から書き直すかもしれない。


 反省として見切り発車にしない為に、今書いてる新作を緻密に、世界観から人物の性格、心理、目的、関係性、所属と因果関係まで、細かく考えている。


 そうまでしないと魂が生まれない。


 あの時、その人物はどうするだろう?

 こいつが敵なら、主人公はどう動く?

 どうすればこの様な展開が産まれる?


 人間の心理からの自然な行動の設定、人物が最優先する決定的な価値観、読者が納得出来る様な論理性のある展開にする為の逆算。


 私が生み出した人形が、魂のある人物に遂げるには心と言えるそれぞれの価値観、過去を埋め込む必要がある。


 そこで初めて命が産まれる。


 だが生半可なで曖昧なものはいつか、物語に矛盾を起こし崩壊させかねない。

 物語が生きるには細部まで命を吹き込み、あっと驚くような仮想現実を作家の内に創り動かさなければならない。もっとも、その世界を動かすには作家の情熱と言う名の着火剤が無ければならない。


 物語と言う機械には、プロットと言う基盤と、それに書き込む為の作家の知識と言うプログラムと、情熱と言う動力源が必要なのだ。


 どれか一つ欠けると、私の芸術が何の意味もないモノに見えて仕方がないのだ。

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