第7話

風魔一族が安定してきて椎茸と硝石作りにも取り組んでもらっている最中に、職人街の方でもいろいろと変化が起きていた。指示していた農具を作り上げてくれていることは勿論、使用感の報告書を元に色々と改良を施してより使いやすいようにしてくれているのだ。


 それに、石鹸や酒なども実用化に成功しており、そろそろ収穫の時期でもあるので一度配下を呼び出して、立花を見学させて道具の購入を促してもいいかもしれない。


「幻庵はいるか。」


城の側付き達に命じて幻庵を呼び出させる。


「お呼びとございましたがどうなされましたか?」


「そろそろ伊豆衆を呼び出して農具を紹介して普及させようかと思っている。そこで立花を見せようと思うのだが、どうだろうか?」


「ふむ、それはやめておいた方がよろしいでしょう。あそこには秘密がある上に山師の一族でございまする。我らは気にしませぬが、彼らはまだ差別意識が残っている事でしょう。」


 一応山師の一族を配下にしたと通達して差別を禁止する事を明言したが、長いこと根付いた意識は中々に消えづらいものだろう。


「では、どうする?職人街は見せたくないぞ?まだまだ未出の技術がある。」


「ならば、我が領地を見てもらいましょう。吉原は最前線のためにまだ何も手をつけてはおりませぬが、長久保であれば防諜もしっかりとしており、農具を普及させておりまする。」


「よし、わかった。ならば伊豆衆に長久保に集まるように命じる」


「はっ!」


伝馬制が整っているため伊豆衆にはすぐに連絡が飛んでいき、伊豆衆自身も早馬でこちらに来れる。1日中に皆が長久保に集まる。


「今日来てもらったのは他でもない。幾つか結果を出したので見てもらおうと思ってな。」


 収穫の時期である今は千歯こきや唐箕を使い収穫を楽にしており、後家の者達は石鹸を作っている。酒作りはうちの秘術だ。他の者達にやるつもりはない。


 立花は元の比較がないので伝えづらいが、長久保はわかりやすい。元々あった石高が約1万石だ。大体兵士250人。それが農耕機や草刈りに正条植えや塩水選などやれること全てをやった結果3倍の3万石。概算であるが、そのくらいにはなる。米だけである。


 これには伊豆衆も効果を認めざるをえず、実際に正条植えがされている田んぼの穂がたっぷりと実っているのを見れば感嘆の声をあげた。


「今まで見てもらった道具は全て皆に1つずつお譲りしよう。それ以上に欲しければ購入してくれ。あ、助言だがまずは各村に貸し出しをして使用感を知ってもらい、村全体で欲しいという気持ちにさせて、向こうから購入を強請るようにさせてやれ。その後に売る方が向こうも納得して買ってくれる。」


「では、我ら富永は短床犂と千歯扱き、唐箕と備中鍬を各村の分購入させていただきます。」


「ほう、そんなに投資してもいいのか?」


「我らは若殿のおかげで儲かっておりますれば…。それに短床犂と備中鍬が有れば次の種植えまでに農地を増やすことも可能でございまするので。」


「なるほどな、いいだろう。用意させておこう。」


「伊豆衆の皆様も必要で有ればおっしゃってください。我らは望外の幸運によって大量の銭が入った為に皆様のお助けをしたい所存でございまする。」


 いいな、流石は直勝。他人から妬まれないようにアフターケアもしっかりとしている。うーん、直臣にできないかな。来年伊豆では石高が爆増するだろうから、それを元に頼み込むか。


元々の伊豆の石高は5万石ほど。それが今回立花と長久保の広大な領地のおかげで9万石が見えてきている。うまくいけば15万石が見えてくる。そのうち開墾地も増やすことを考えれば25万石は目指したい。大体兵士6000人だな。これだけ有れば今川と武田にも耐えられるはずだ。それに河東地域をうまく使えばそこだけで伊豆と同等の石高を見込める。


この流れのままに道の流れに持ち込むか。


「皆には伝馬制を導入してもらって利便性を学んでもらい、今回で実績を知ってもらった。どうだろうか、道の導入もしていかないか?一応試験的に我らが開発したコンクリートというものを使った伊豆式街道がある。」


これは古代ローマに使われていた道だ。5層に分けて道を作ることで水捌けがよく走りやすい道だ。


「この道ならば荷車なども移動させやすい。どうだ?」


「我ら伊豆衆はもう既に若殿様に全幅の信頼を置いておりまする。殿を信じてついていきまする!」


「そうか!我ら伊豆衆で北条一番、いや日の本1番の国を作り上げようぞ!」


「「「おおおお!!!」」」


本当の意味で伊豆衆が家臣になった日である。

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