第6話

さて、また職人の話に戻るのだが、今度は海の話だ。今の日本は海軍が他国に比べて圧倒的に劣っている。そもそも外国なんて明と朝鮮くらいしか認識していない。だがそれでは甘いと言わざるを得ない。俺としては北は北海道から南は台湾まで日本の領土とするべきだと考えている。


 そのために必要なのは航海術と船だ。いきなりガレオン船やキャラック船などを作れ、と設計図を渡しても何も理解できないはずだ。そのためには技術を一から積み重ねていくしかない。まずはガレー船だ。帆船で竜骨を使ったこの船は技術革新を船大工達に起こしてくれるはずだ。第二次河東の戦いで今川の背後を突くためにも船足の速い船は不可欠だ。いきなり全てを風に任せる帆船よりは手で漕ぐガレー船は受け入れやすいだろう。

土肥の海賊衆を纏める富永直勝に手紙と共に職人と設計図のような絵を渡し、風の力を借りながら進む船と説明をしておく。

 目安としては2年で完成させたいとも。


 そんなことをしているうちに3日ほど経ち、早急に必要であったスコップが用意できたと言われたので、職人達の元へ確認しに行く。


「若殿の言われた通りに作りましたが、このスコップとやらの面を少し腕のようにするのが苦労しましたな。」


 現代のスコップとは違い、今の日本で使われるスコップは直面である。それを土を掘りやすいように少し曲面にしたのだ。


「それと、これは職人が一つ一つ作るのは手間だと思いまして、勝手ながら鋳型を作らせていただきました。これで黒鍬?衆に配備するにも、農業に活かすにも使いやすいと思います。」


「よくやった!!!!!今回のスコップは完璧と言っていいだろう!それに先のことを考えて言われてないことまでできるお主は優秀だな!名をなんという?」


「はっ!弥二郎と申しまする。」


「よし、これからは加治 弥二郎と名乗るが良い!ここの取りまとめ役を頼むぞ」


 こうやって才あるものはどんどんと使っていく。こうすることでやる気を上げさせることができるし、今回の事で恐れずに色んなことに挑戦するきっかけを掴めるだろう。


「とりあえず500程量産してくれ。そのうち300は直ぐに用意できるのか?」


「はい、黒鍬衆が300ということで用意させていただきます。職人達全員で取り組むことを許可されるのであれば確実に。」


「よし!では本日1日のみ全ての人員をスコップ作りに回せ!可能であれば余剰分も頼む!」


なんとか職人達には500を用意してもらってそのうち300を黒鍬衆に渡して訓練をさせておく。


その中風魔の一族が立花にやってきたと連絡があったため小太郎と面会する。


「よく来たな。とりあえず申し訳ないが、家屋や畑や田の整備は俺の考えた道具を使いながら試験的にやる事になる。だが確実にこの国で一番豊かになるはずだ。最初は疑問に思うかもしれないが、俺についてきて欲しい。」


「勿論でございまする。若殿に忠誠を誓っておりまするので、一族の者皆が何も心配せずにおりまする。」


「とりあえず仕事をしてもらいながら、余った人員で立花の整備をしよう。」


「はっ!なんなりと。」


「まずはこの城下にある職人街の警備だ。目に見えない形での密偵を防ぎたい。それと、この紙に書いてある方法で硝石というものを量産して欲しい。

 これはこれからの北条を支えていく大事な物だ。俺が心から信頼できるものにしか任せられない。だからこそお主達に任せる。

 それともう一つ、我が領内では椎茸の原木があるのは知っているな?その木を使って小屋で椎茸を我々の手で栽培する方法も記してある。これは言うまでもないだろう。干し椎茸にしてほしい。頼むぞ。」


小太郎は話を聞いていくうちにビックリしたのだろうか固まっている。少しした後にハッとして、


「こ、この大役必ずや成功させてみせまする!!!!」


「まあ、やっていくうちに失敗するだろうが、失敗を恐れるな。失敗から学ぶこともある。それを糧に成功に繋げればいい。」


「ははっ!」


「では、まずは黒鍬部隊と大工職人を連れて立花の整備だな。それに試作品の農具も運ばねば。そうだ、牛と馬を何頭か持ってきているか?」


「はっ!一応数頭でございますが、持ってきておりまする。」


「わかった」


 俺はその日のうちに用意させておいた黒鍬部隊と大工職人を連れて立花へ向かい、荒れている土地を整備する。

 村も雑多に作るのではなく、現代的な条里制とする。中央の山から上り降りする道に沿うように直角に道を伸ばして家屋を建てていく。

 そして入ってきて見えない奥に畑と田んぼを用意して、持ってきた踏み車と龍骨車で水を引く。これをするだけで日が暮れてしまった。


 あとは用意した農具をいくつか置いておき、使用感を小太郎を通して報告してもらうようにお願いした。

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