第3話 元幽霊と災難な癖

「幽香ちゃん、おはよー」


 午前七時。大きなあくびをしながらリビングに顔を出した俺とは違い、幽香ちゃんは身支度を済ませて、朝食まで作ってくれていた。

 うん、今日も良い乳だ。


「あら、思っていたよりも早かったわね。アンタはもっと寝坊助ねぼすけだと思っていたわ」

「失礼だなぁ、俺だってちゃんと起きるよ…」


 あぁ、なんか歩くのだるいな…。

——あれ?なんで俺が歩いてるの?

いつも通り浮遊したらよかったじゃん…。

 斜め45度の角度でフワッと飛び立ち、そのまま地面に叩きつけられた。


「あれ、なんで飛べないのかなー」

「アンタはもう霊体じゃないのよ。人間の皮を被っている分、幽霊の時の力は使えないのよ」

「そうだったね…」


 『はぁー』と、大きなため息をつきながら起き上がり、テーブルのほうまでわざわざ歩いていった。


・ ・ ・


「さてと、今日は言っていた通り、私の買い物に付き合ってもらうわよ」

「えー、そんなの友達に付き合ってもらってよー。あ、もしかして友達いない?」


 もちろん、冗談のつもりで言ったんだが…気づけば幽香ちゃんは涙目になっていた!ウルウルと丸くて大きな瞳を涙で濡らして、俺のほうを睨んでくる。何か目で語っている気がする。

『お前には関係ない。次、言ったら殺す』

 あぁー、完璧に怒ってるやつだー。


「わ、分かったから!買い物行くよ!」

「……言ったわよ?そう言ったからには最後まで付き合ってもらうからね…?」


・ ・ ・


「おぉ、重い…まさか、女の子とのショッピングがこんなに苦しいものとは……」


 両手いっぱいに持たされた紙袋のせいで上手く歩けない。それも全て洋服のだ。

 たしかにここには色々なブランド店が並んでいるが、流石にこれは多すぎでしょ…。


「何ちんたらしてるの!次はここよ!買ってくるから待ってなさい!」

「まだ買うのぉ…?」


 幽香ちゃんが指差したほうの店の内装を見る。ゆっくりと視線をあげて看板も見る。そして鼻から大きく息を吸い、叫ぶ。


「キタァァァァァッ!!」


 店内のマネキンが着せられているのは、全て下着のみ。そう、ここは下着屋だ!

 試着室に入る幽香ちゃん発見!

——と、いうことは。


「覗きに行くしかねぇなぁ!」


 両手に持たされた荷物の重みすらも忘れて、俺はスキップをしながら試着室に顔を突っ込んだ。目の前には、透き通るような白い肌!そして細めだが、肉付きがよくて長い脚!引き締まった腰!そんな腰とは違って出まくった胸…!そして次は…!——憤怒している幽香ちゃんの顔……。おぉ……。


「どうしてアンタがここにいるのよ…っ!」

「えっと、幽霊の頃の癖?なんちゃって」


 ペロリと舌を出すが、その時に幽香ちゃんが上から頭を殴ってきたて、舌をガリッと噛んでしまった。


「いってぇぇぇぇ!」


・ ・ ・


「幽香ちゃんの怒りの鉄槌くらった時に舌噛んじゃったから痛いなー」


 あれから二時間が経ち、やっと買い物が終わって家に帰っていた。


「アンタが覗くからいけないんでしょ。そんなのお風呂入ったら治るわよ。——あ、今お風呂壊れてるんだった……」

「じゃあ、温泉行く?」

「それしかないわね」


 こうして近くの温泉に行くことになった俺たちだが、ここでも事件が起こった。

 幽香ちゃんと二人、仲良く脱衣所に向かおうとしていると、突然彼女は足を止めた。


「ねぇ、こっち女湯よ?」

「知ってる」

「それも幽霊のときの癖なの?」

「うん」

「男湯はあっちだから、向こう行きなさい」

「……チッ」

「舌打ちするな!」


 幽香ちゃんの蹴りが綺麗に俺の股間に当たった。うぅ……!ピンボールとピンボールがぶつかり合い、破裂するイメージが頭に浮かんだ……!痛みのあまりに、地面でのたうち回りながら叫んだ。


「●ン●がぁぁあ!チ●●がぁぁ!俺の、俺の!俺の●●コがぁぁ!」

「——うるさい!」

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