天獄と地国~どこまでも一緒な二人

マチュピチュ 剣之助

プロローグ 愛妻の告別式

「ほら、お父さん元気出して」

 娘のりん陸翔りくとを慰める。

 時は西暦3000年、先週99歳を迎えたばかりの竹崎たけざき 陸翔は、三日前に最愛の妻 あおいに先立たれてしまった。今日は、葵の告別式である。

「俺もこんな年だし早く葵のもとに行きたいな・・・」

「何言っているの!お父さんはいつも120歳まで生きるって意気込んでたじゃない。ちゃんとしっかりしなさいよ」

 凛はとても悲しい気持ちを抑えて、必死に父親を元気づけようとしていた。


 告別式は淡々と行われて終了した。陸翔は、最後に見た葵の顔が笑っているように見えたので、それが救いだった。

「おじいちゃん、またね。遊びに来るから元気にしていてね」

 凛の息子である斗夢とむが声をかける。陸翔は体が不自由だったので、これからは老人ホームで暮らすこととなった。


「葵よ、すぐに俺もそっちに行くからな。ちゃんと楽しみにしていろよ」

 陸翔は、葵の遺影にそう話しかける。

「はて・・・」

 陸翔は首をかしげた。葵の遺影は、生前の本人の希望もあって満面の笑みのものを選んでいた。それなのに、今陸翔の目に映る葵の遺影はどこか悲しそうである。

「疲れているのかな・・・。体力もなくなってきたし、早く寝よう」

 陸翔はそう言って、横になった。



 その晩、陸翔は部屋の外から何者かの声がするので目が覚めた。

「こんな時間に誰だろう」

 陸翔は部屋の外の様子を見に行きたいが、体が思うように動かず、ベッドの上でただ外を眺めている。

「あ・・・お・・・いさん・・・をたす・・・けて・・・あ・・・げて」

 次第に声が大きくなってきて、陸翔も聞き取れるようになった。

「葵を助けてあげて?どういうこと」

 陸翔は混乱する。すると、電気が消えていたはずの部屋が急に明るくなった。

「陸翔さん、私は死者に使える妖精です」

 何か金色の蝶のようなものがこちらに話しかけてくる。妖精と名乗っているのできっと妖精なのであろう。

「どういうこと・・・?」

 陸翔は混乱してしまう。妖精は、陸翔の様子を気にせず話を続ける。


「いいですか、陸翔さん。落ち着いて聞いてくださいね。先ほどの告別式が終わるタイミングで、葵さんが天国に行くのか地獄に行くのか審議がされました。葵さんの生前の行動はとても素晴らしいものだったので、私たち妖精の満場一致で、天国に決まりました。」

 陸翔は誇らしい気分になった。葵は本当に最高の妻であり、家族だけでなく、他のものにも分け隔てなく優しかった。それが、しっかりと評価されたということである。

「しかし、いざ天国に葵さんを連れて行こうとした際に、死者を運ぶ妖精が、うっかり葵さんを地獄に送ってしまったのです」

 陸翔はその話を聞いて青ざめる。


「残念ながら、私たちは地獄に行く権利がないので、葵さんを救うことができません。そして、私たちは地獄がどれほど恐ろしいところなのかもわかる術がありません。」

 妖精は申し訳なさそうに言う。天国か地獄かという死後の運命を決める最大のイベントで、そのようなミスが発覚したら、このシステムすら終了しなければならないかもしれない可能性があるそうだ。すなわち、人が死後、天国どころか地獄にすら行けなくなるかもしれないのだ。


「たった一つだけ、葵さんを救う方法があります」

 妖精はそう話を切り出す。

「何ですか?葵を救えるのならどんなことだってします!」

 陸翔は意気込んだ。

「それは、陸翔さん。あなたが地獄に行って葵さんを見つけることです。そして、二人そろって私たちのところに姿を見せてください」

「俺が地獄に行くって??そもそもどうやったら地獄に行けるの?」

 陸翔は妖精の提案に驚く。地獄に行くために自分ができることといったら思いつくのは一つである。

「俺がここで死んで、地獄に行くよう妖精さんたちに決めてもらえればいいのかな・・・?」

 陸翔は恐る恐る聞いてみる。

「もちろんその方法もできますが、陸翔さんは生きたまま地獄に行くことができます!それは、このドリンクを飲んでください」

 妖精が、そういうとどこからともなく真っ赤な液体が現れた。

「こ、これは、何・・・?まさか・・・」

 陸翔はその色の生々しさに怖気おじけづく。

「これが何かは教えられません。ただ、飲むことで、生きたまま地獄に行けるんです」

「なるほど、わかったよ・・・」

 陸翔は、妖精の言っていることを信じ切れず、心の中で葛藤する。


 ふと、葵の顔が浮かんできた。付き合い始めたころの葵、結婚式での葵、凛が生まれたときの葵、二人で米寿のお祝いをしたときの葵・・・。どの葵も笑顔だったし、陸翔への深い愛が感じられた。

「葵に会いたいな・・・」

 そう陸翔は呟いた。それに対して、現状を陸翔は考え直してみる。葵はこの世にはもういない。そして陸翔は老人ホームで一人寂しく暮らしており、体も思うように動かない。


「もう、こうなったら、葵に会えるかもしれない少ない可能性にかけるしかないな」

 陸翔はそう決心して、真っ赤なドリンクを一気に飲み干した。

 すると、すぐに頭がクラクラしてきて、陸翔は気を失いかけた。

「あ・・・やっぱり、この飲み物は・・・」

 陸翔はそこまで言って気を失った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天獄と地国~どこまでも一緒な二人 マチュピチュ 剣之助 @kiio_askym

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ