41話 事故の後2

 千鶴を呼んで約1時間後。

 〈にゃん太〉先生の家に千鶴が到着して店長が〈にゃん太〉先生の部屋へと連れてきた。

 「〈にゃん太〉先生どう?」

 「相変わらずだな。千鶴からも何か話してみてくれ」

 「う~ん、了解。兄貴は下行ってて」

 「あぁ」

 「あ、下お父さん来てるから」

 「あぁ、? あ? なんで」

 「元々約束してたじゃん、だから」

 「……マジかぁ」

 千鶴はこれ以上話すことはないと手をシッシと振って俺を下へと追いやった。

 階段を降りて店に行くといつも〈にゃん太〉先生と話してた奥の席で親父が珈琲を飲みながら座っていた。

 なんであんなオーラ出てんだよ。

 まるでバーサーカーのようなどす黒いオーラを纏いながら珈琲を飲むおやじの周りには^客がおらずその席だけぽっかりと距離を開けられていた。

 営業妨害だろコレ。

 店に降りてきた俺を発見した親父は目でこっちへ来いと訴えてくる。

 逃げられないことを悟った俺はおとなしく席に着く。

 気を利かせてくれた店長が俺に珈琲を持ってきてくれた。気まずそうにしてそそくさと逃げて行ったが……。

 「和樹。今日は俺と話す約束だったはずだが?」

 どうやら約束をブッチしたことにお怒りのようだ。

 「いや、知り合いがピンチだったからそっちを優先してた」

 「ほう、それで俺に断りも入れずにドタキャンか、偉くなったものだな」

 「それについては申し訳ないと思ってます」

 「まぁ、それはいい。それよりお前に話がある」

 いつもなら「この礼儀知らずが!」とめちゃくちゃ怒られるところだが、さすがに外なのもあり圧だけかけて流してくれた。

 「何?」

 「千鶴のことについてだ。お前最近千鶴と何をしている」

 「……どういうこと?」

 「質問してるのはこちらだ、答えろ」

 「……俺のバイトを手伝ってもらってる」

 「ほう、バイトか。それはコレのことか?」

 そういうと親父はスマホを操作して”子月 なな”の配信画面を表示した。

 心臓がギュッっとなり息が止まる。なんで親父が知ってるんだ?

 「……なんでそれを?」

 何とか絞りだした言葉を投げかけると呆れたようにため息をつかれた。

 「お前が何をやっていようがいまさら口を挟むつもりは無かったが、千鶴まで巻き込むとなれば話は別だ。今すぐ辞めろ」

 「別に巻き込むつもりは無いよ。あいつが自分で手伝わせてくれって言ってきたんだ」

 観念してこれまでの経緯を軽く説明する。

 「ならどうして千鶴が内定を蹴るなんて話になるんだ?」

 「内定を? 何の話?」

 「アイツがこの間言ってきたぞ。お前の仕事を手伝いたいから内定は辞退することにしたと」

 何の話かまったくわからなかった。

 俺の中では大学を卒業したら”なな”の活動のバイトは辞めて仕事に集中するものだと思っていたのだが千鶴は違うことを考えていたようだ。

 俺としてはなんだかんだ優秀な千鶴にこれからも手伝っていってもらえるならありがたいことだが、親父と一緒で心配は心配だ。

 如何せん不安定だ。今はかなりの数の視聴者がいてスパチャも凄い額を投げてくれるがコレがいつまでも続くとは考えていない。

 ただでさえ流行の移り変わりが激しい業界だ。今は良くても明日どうなっているかは分からない。

 「俺から勧誘した覚えはないよ。今の仕事もいつまでも続くとは思ってないしアイツはいい会社に内定決まってたんだから普通に就職したほうがいいだろ」

 「つまり千鶴が勝手に言ってるだけだと?」

 「あぁ、さすがにこれに関しては親父と同じ考えだよ」

 「分かった。千鶴も交えて話す必要があるな」

 ひとまず納得してくれたようで少しオーラを抑えてくれた。

 「それについては分かった。ではお前の仕事についてだが……なんで女の声になっているんだ?」

 千鶴の件については終わったみたいだが俺が配信してる件については終わっていなかったようだ。

 気まずい!

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