第5話



『テステステステス、ただいま、マイクのテストちゅー』


 スピーカーからクリアな音声が響く。


『オーケーです。いよいよ始まります、【魔女の集会ティーパーティー】です! まずはパートナーを得た魔女の評価が下される魔女による魔女のための聖戦であります。司会は大人の色香でみんなを悩殺、百石桃がお送りしますよー」


「「「「桃ちゃん先生ー!」」」」

 会場から生徒の黄色い歓声が響く。


『桃ちゃん先生、言うんじゃねーよ!』

 マイク越しに吠える桃ちゃん先生。元魔女、【桜花の魔女】とは思えない落ち着きの無さであった。


『解説は、元迅雷の魔女、上雲かみくもエリスさんにお願いしています。エリスさんは、今回出場する氷柱の魔女リディアのパートナー、上雲学君のお母様になります。が、公正な解説をお願いしていますので,そこんトコよろしく!』

『優勝はウチのガクで間違いないでしょうけどね』

『公正な、って言ってんだろ、迅雷の! 【魔宝オーブ】がじゃないの! 魔女の頂点を決めるレースだから! あんたも出場したことあるから分かってるでしょ?』

『あの時は桜花のを抜いて、私がダントツ一位でした。ガク、親子で連覇がんばろー!』

『うるせーよ。傷口に塩を塗るなよ! それと頂点に立つのは魔女だって言ってるんだろ!』


「「「「桃ちゃん先生ー!」」」」

 それはそれでギャップ受けなのか。会場から生徒の黄色い歓声が再度響いた。


『気を取り直して。エントリーした7人の魔女。7人の魔宝オーブ。誰が、【魔女の集会ティーパーティー】の栄え有る、【魔女の紅茶】に唇をつけるのか。最高級、眠れる森産の世界樹の茶葉。契りを交わした【魔宝オーブ】が愛しの魔女へ淹れる。そこまでが儀式となっています!』


 桃ちゃん先生の煽りに、会場が歓声と拍手で膨れ上がる。


『まぁ、今年はココアかもしれないけどね』

 ボソリと呟く迅雷の魔女の言葉は、観衆達の興奮の前でかき消されてしまったのだった。




■■■




 箒にまたがって、ガクはリディの目を覆う。

 あの時と一緒で。


「おまじない」


 そうガクは言った。


「いらない情報は目に入れなくて良いよ。コースは、何度も調べた。トラップのリサーチも済んだ。視覚、聴覚も良好。だから、リディは魔法に集中して」


 コクンと、リディは頷く。


「それと、もう一つおまじない」


 クイッと顎を指ではさむ。

 温度が重なる。

 それだけ。

 ただ、それだけのこと。

 原始的で、科学的じゃなくて。魔術的な言語も、魔法陣も何も使わなかったけれど。

 それだけで。

 魔力は、無尽蔵に湧き上がって――二人の魔法が完成する。


「これは油断、できませんわ」


 隣の魔女が狼狽するが、ガクは知ったことじゃない。

 もう一つ、不意打ちでおまじないをする。

 ガクは、リディを背中から抱きしめる。

 雪がチラつく。

 空気は凍りつく。

 この舞台は、すでに【氷柱の魔女】が支配している。


「「行こう」」

 リディとガクの声が重なった。





■■■





…。

……。

………。


【3】

 :

【2】

 :

【1】



『『おまたせしました! 【魔女の集会ティーパーティー】開幕!!』』

 桃ちゃん先生と、ガク母の声が重なった。



 閃光が空を染め――るより早く、空気を凍らせた。チラつく雪の乱舞。加速する魔法。


 【氷柱の魔女】と【魔宝オーブ】は空を突き抜け、箒星になる。

 雪をチラつかせ。乱舞させて。空気を凍らせて。


 並行の世界は重なる。

 二人の世界は、並列で。

 本当なら、重なるはずもなかったのに。


 箒星が弧を描いて。

 結晶を振りまいて。




■■■






 ――また私は、この星に来る。だからガー君。次、来た時も、絶対、私のパートナーになって。他の魔女の【魔宝オーブ】になったらイヤだよ。絶対だから、ね。

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