第3話

「このクラスには魔女が在籍するため、改めて説明をしますね」


 と担任の桃ちゃん先生が説明する。百石桃ももいしもも先生。大学卒業後、新卒ながらガッツがあり、生徒からも多大な人気を得る。教師陣期待のホープである。桃ちゃん先生とみんなに親しまれているが、当人は至ってご立腹だった。大人の教師を目指しているが、身長130cm。それは土台無理な話だった。

 期待のホープ――みんなのペットだった。


「男の人って、可愛い女性なら誰でもいいの?」


 隣からリディアが冷たい視線を送る。ただ愛玩動物を愛でるように視線を送っていただけなのに、これである。リディアはガクの扱いが、他のクラスメート以上に塩対応だった。


「はいはい、そこで痴話喧嘩しないのー」

「「してません」」


 二人同時にハモる。そもそも痴話が発生する間柄でもない。


「おー、なかよしー」

「「仲良くありません」」


 また二人同時にハモっていた。


「……ま、いいか。青春クソ野郎どもは放っておいて、魔女さん達の試験の説明をあらためてします」


 桃ちゃん先生、爽やかに口が悪かった。


「試験は【魔女の集会ティーパーティー】と名付けられています。旧国立森林公園に特設コースを設けて、箒競走チェイスを行います。魔女と【魔宝オーブ】で組んで、コースを2周するわけですが。会場の下見は前日のみ可能でしゅ」


 と、桃ちゃん先生は一度区切――噛んだ。みんなプルプル、体を震わせて笑いをこらえるのに必死だった。

 桃ちゃん先生は何もなかったかのように、説明を続ける。


「魔女と魔宝のエントリーは今週金曜日まで。エントリー申請後の撤回はできないから注意してね。魔女ちゃん達は説明しなくてもよく分かっているけど。魔宝オーブに立候補したい子は、魔女に測定サーチしてもらってください。ただ属性や相性があるから、単純なステータスで魔女とパートナーになれるワケではなにのは、以前授業で講義したとおりよ?」


 ガクは桃ちゃん先生の説明を聞きながら、チラリと横目でリディアを見る。もうすでに知っていることの事実確認でしかないので、いつものようにつまらなそうに――と、ガクは目をパチクリさせた。

 表情筋が死んでいるとさえ思っていた【氷柱の魔女】が俺の方向を見て、微笑んでいる。


(へ?)


 いや、笑っている場合じゃないでしょう、と思う。リディアが【魔宝オーブ】を見つけたという話はまだ聞いていない。君は少し焦るべきだ、とガクはそう思う。


「おっしゃ! 俺達にもチャンスがあるぜ!」

「リディアさんに測定サーチしてもらおう!」

「気合いれるぞ!」

「おうぅ!」


 盛り上がる男子陣。何回も測定サーチして、断られたのは記憶に新しいんだが……とガクは呟く。

 白い目で見ている女子陣。ただ、リディアは女子から人気があるので、【魔女の集会ティーパーティー】での健闘をみんなが祈り、優しく見守っているのが分か――あれ、と思う。何故か、女子達の視線がガクにもきつかった。





「もうリディアはパートナー申請されているんだけど、君たち……」

「ガク君、なんでそこであいつらを黙らせないかな」

「あいつら無理ゲーなの、いい加減理解したら良いと思うんだよね」

「「「本当にバカばっかり」」」

 桃ちゃん先生をはじめ、女性陣に辛辣に酷評されていることに気付いていない男性陣――そしてガクだった。





■■■





「俺の測定をお願いします!」


 意気込んだ彼は、リディアが用意した水晶球に触れる。これで12人目である。ガクは変わらない光景を辟易とした想いで見守っていた。魔女が事前にインストールした設定に基づき、判定をする。白い光があがれば魔力ないしその他の数値が合格圏内だが、相性の問題から却下。銀色の光が舞い上がれば、【魔宝】として認定。認定済みであれば金色に輝く。


 彼もまた、白い光が上がるのみであった。――つまり不合格。

 設定が厳しすぎるんじゃないだろうか、と小さく息をつく。このままでは、リディアは【魔女の集会ティーパーティー】に出席そのものが、できなくなってしまう。

 とリディアがガクの腕を掴んだ。


「へ?」


 そのまま、水晶に手を乗せられた。

 ちょっと、何をバカなことを、と思う。ガク自身、魔女と魔法に憧れがないわけじゃなかった。ただ、いかせんガクには魔力値がゼロだ。通常、ニンゲンは大なり小なりの魔力を有する。地球人がを行使できるわけがないが、魔力や属性によって、魔女当人を支援ブーストすることが【魔宝オーブ】には求められる。つまり、魔力がそもそも無いガクには、【魔宝オーブ】になる素質はないのだ。

 と、瞬間、光が爆ぜる。


 ――え?


 ここにいる多くの人が、呟いた。

 黄金色こがねいろに水晶は輝く。これは、すでに契約が認証。【魔女の茶会ティーパーティー】に、パートナーとして申請されていた証だった。


 ――すでに、認証済み?

 ――あいつはホストファミリーを悪用したのか?

 ――これはリディアさん、終わったな。

 ――よりによってガクかよ。

 ――魔石クズが。


 有象無象の囁き。魔石……。魔宝オーブになれなかった無能への蔑称だ。しっかりと選別できなかった魔女は、そうやって非難される。

 ガクは口をパクパクさせる。

 申請を撤回することは、もうできない。

 リディアの魔女人生は、ガクのせいで失墜して――。

 と、リディアがガクの手の上に、その手のひらを重ねる。

 リディアの唇の端が冷たくない笑みを浮かべていたのに、ガクは気づき、目を丸くする。


「もう私、待てなかったよ。ガー君」

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