追悼39 忘れられない被害者、忘れる加害者。

 財津は、捜査員たちの動向を、神宮寺は小型GPSを彼らの車に付け、本当に帰路についているかを確認した。


財 津「彼らは、立ち去ったよ」


 財津は、捜査員の到着を待って、駐車している車の中を確かめ、綾小路と接見している人数を確認し、総員人数に注視していた。神宮寺もまた彼らの車両の行くへを追っていた。車でしか来れず、一本道を通らなければ辿り着けない拠点を選んでいた。


神宮寺「こっちも、お利口さんだよ。ちゃんと寄り道をせずに帰っているよ」

三 上「そろそろ、私たちも動かないとね」

蜷 川「いよいよ、ですね」

綾小路「皆さん、お願いします」


 捜査員が洗い出した情報を改めて精査した。その結果、行動を起こす事に障害がない事が確認された。


蜷 川「よく調べ上げてくれてますねぇ。手に取るように彼らの動きが浮かびます」

三 上「腰を上げて、さっさと振ってくれる。さっさと終わらせましょ」

財 津「理沙、俺の夜の営みなぜ知っているんだ?」

三 上「馬鹿か!お前。知りたくもないわ」

財 津「少しは興味を持ってよ、寂しがり屋なんだから」

三 上「寂しかったら、ぬいぐるみでも抱いてな、お似合いよ」

神宮寺「見てみた~い」

財 津「蜷川パパ、皆がイジメる~」

蜷 川「あははははは」

綾小路「では、具体的にどうしますか」

財 津「中野美帆から行っちゃいますか、神宮寺君」

神宮寺「OK~]

三 上「じゃ、私たちは城井優斗を確保ね、蜷川さん」

蜷 川「はいよ」


 彼らは、連絡を取り合っていないが万が一を考え、一気に確保に向かった。財津と神宮寺は美帆の勤めるガールズバーの閉店時間に店の付近に車を停め、待機していた。


神宮寺「ねぇ、出勤前の方が効率がいいんじゃない」

財 津「いいじゃないの、しこたま飲まされて泥酔してる方が幸せだよ」

神宮寺「優しいんだね」

財 津「惚れるなよ俺に。男だからって安心してたら襲ちゃうかも~」

神宮寺「いや~ん」


 退屈な時間を無駄話で過ごす二人の会話を店の扉が開き、遮った。


財 津「おっ、出てきましたねぇ~」

神宮寺「客と出て来たよ、このあとしけこまれたら、また待つの?」

財 津「それはない。以前ならチヤホヤされて楽しかったものが、彼女はなぜチヤホ

    ヤされるか知ってしまった。いまは、鬱陶しく思っているからな」

神宮寺「そうだったね」

財 津「ほらね」


 財津と神宮寺の見守る中、美帆と客は口論となり、美帆は客を大声で罵っていた。数少ない偶々通り縋った人に振り向かれ、いたたまれなくなったのか美帆を置いてその場を立ち去っていった。美帆は関心を示す周りの人に「何見てんだよ」と睨みつけ、その場に立ち竦していた。財津は美帆の背後から静かに近づいた。


財 津「ねぇねぇ、お姉さん」

美 帆「なんだよ、うっせいなぁ」

財 津「ほぉ~こわ」


 美帆は財津を無視して立ち去ろうとした。


財 津「ちょちょちょ、待ってよ~、これこれ見て」

美 帆「はぁ~」


 美帆は財津を下から覗き込んで睨みながら、財津が差し出した携帯電話の動画に目をやった。そこには美帆が客とラブホテルにしけこむ姿が映し出されていた。美帆は「何よこれ」と言った瞬間、財津は美帆に当身を食らわせていた。倒れ込む美帆を「一丁上がり」と小声を放った後、周りに聞こえるよう「仕方ないなぁ、こんなに酔っちゃって」とお姫様抱っこのように担ぎ上げた。神宮寺は周りを見渡し財津に指でOKのサインを出し、美帆を抱えた財津がワゴン車に近づくとサイドドアを開けた。


神宮寺「お見事でした」

財 津「はい、お疲れ~。じゃ、戻りますか」

神宮寺「はいはい~」


 一方、三上と蜷川は、城井優斗の遊び場のひとつのカラオケ店の店近くに居た。蜷川は、どうやって彼を確保するか、何か案があるのかを三上に聞いた。当初は店から出てくるのを待ち、一人になった所を確保する予定だったが、美帆がじれったくて待てないと言ったからだ。


三 上「これ。奴のアドレス」

蜷 川「それを使うのか」

三 上「任せて。騙し騙されての男女のもつれを職業柄、たくさん見てきたから」

蜷 川「刑事ドラマのように毎週殺人事件は起きませんからねぇ。しかも、同じ管轄

    内で」

三 上「それでいいのよ。治安がいいってことよ」

蜷 川「それでどうするんだ」

三 上「行動範囲は元に戻っているけど、周りの疎外感は被害妄想もあり高まり、本

    人は退屈しきっているそこで餌を撒くのよ」


と言い放つと携帯電話を操り、メールのやり取りを始めた。三上は、優斗の知る女性の知り会いに紹介されたとメールし、会いたいと優越感を擽りながら繰り返し、押したり引いたりを演じて見せた。誰にも知られたくないからその友人には絶対言わないでという遊び心と彼好みの女性の写真を添付っするのも忘れないでいた。変化のない交友関係に退屈しきっていた優斗は三上の思惑通りに抑え込んでいた好奇心を掻き立てた。


三 上「乗ってきたわよ、あいつ」

蜷 川「流石ですねぇ、プロファイリングってやつですか」

三 上「その大袈裟なもんじゃないですよ、ただの恋愛シミュレーションよ」


 三上は、蜷川と会話しながら会う約束を取り付けた。優斗はタバコを切らしたと友人たちの元を離れた。この地域では、未成年でも飲酒や喫煙を咎めることはない、緩みを常としていた。興味があるのは、利権と権力に絡む人間関係だけだった。優斗は謎のメールに呼び出され、ごきぶりホイホイがあるとも知らずに初めての出会いに浮足立っていた。


三 上「優斗さん、城井優斗さんよね」

優 斗「あんた、誰」

三 上「メールした者よ」

優 斗「騙したの・か」


 三上は、優斗が話し終わるのを待たずに当身を食らわせた。倒れ込んだ優斗を蜷川は年寄りにはきついよと辛そうに優斗を担ぎ上げた。


 財津と神宮寺、三上と蜷川は、合流地点の苫小牧港にいた。美帆と優斗は確保された後、睡眠薬を服用され、眠らせていた。出迎えたのは綾小路が用意した黒ずくめの男たちだった。男たちは、綾小路の雇い主の配下の者だった。手慣れた行動で黙々と美帆と優斗をクルーザーの一室に運び込んだ。男たちが退船した後、太平洋(フィリピン海)上に位置する小笠原諸島に属する孤立島・沖ノ鳥島を目指して苫小牧港を出港した。



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