追悼38 血と性格は引き継がれる

 綾小路の導きにより数人の男女がスーツ姿で入ってきた。財津など一行は、別室でモニター越に様子を伺っていた。綾小路の事前に財津達にスタッフを装うように伝えていたのは優秀な探偵を雇い入れれば、依頼者の素性を探ろうと帰った振りをして居残り、突撃取材を受けかねないからだった。自分ならそうするは、相手が行う事と考えるのが綾小路の日常だった。

 報告会は新たな事実もなく、淡々と終えた。財津達は、ある意味拍子抜けの感じだった。唯一の情報は、主犯格の中野美帆と城井優斗のその後の日常だった。

 中野美帆は、中学を卒業後、事件に関与した有力者を通じて美容師見習いとして働いていた。関係者からすれば、中野美帆を偏差値の低い高校に行かせてもそこで問題を起こすのは明らかだった。常に目の届く場所。必要以上の人間関係ができない状況。それはまさに剥がれやすい瘡蓋を絆創膏で抑えたものだった。美容院のオーナーは美帆に美容師の資格を取らせようとしたがそれに嫌気を差し、働き始めて数か月もしない間に就労後、ガールズバーに勤め始めていた。未成年であっても誰も咎める者がいない土地柄が幸いしていた。美帆は、水を得た魚のようにはつらつと働き、その後、美容院を止めてしまう。未成年の美帆は、飲み客の好奇心を一身に浴びる。泥酔させ、ワンナイトラブが出来ると噂を呼び、人気者に。美帆は注目されることに優越感を覚え、それを維持するために多くの男を喜ばせていた。美帆はそれを楽しんでいた。世の中の常識とは掛け離れた生活を満喫していた。その生活に陰りが見え始めるのに時間を要しなかった。街の小さなガールズバーの顧客は多くなく、未成年と遊べるという噂を聞き付け、訪れる客が多くなり、美帆事態の心境に変化が訪れる。人なりを構築した延長線にワンナイトラブがあった。それが露骨にやらしてくれる娘として口説かれ始め、嫌気を指し始めていた。そうなると客への対応も不愛想になり、いつも不機嫌な顔となり、美帆目当ての客は激減していった。店側も美帆の評判が悪く成ればと未成年を働かせている危険性が現実味を帯び、できれば辞職して欲しいと思うようになっていた。

 店にも苦悩があった。最初は有力者とのコネクションが出来ると安易に考えていたが辞めさせるとなるとその有力者から睨まれることになり、お荷物以外の何者でもない存在になっていた。躁鬱状態が見られ始めた美帆は、無断欠席が増え、収入も減っていた。ふらふらと夜の街を彷徨いナンパされ酒と金をてにすることもあった。気分がいい日は、明るいカウンタースタッフ。数日後には落ち込み、時には苛立ち客と喧嘩する日々が繰り返されていた。周囲の者は腫れ物に触れるようにその存在をないものとして扱われ、孤独の闇に吸い込まれていた。


 城井優斗は高校に進学。当初こそある意味厄介な有名人として扱われ、級友も旧友の延長線。ワル仲間とつるみ始めると制御していた欲求は失われ、頭の軽い同年代の女子を引っかけ、酒、薬、拘束し、遊びに邁進していた。偏向集団の有力者の傘の下、被害者は金銭解決か泣き寝入りが地元の法則となっていた。

 城井優斗は地元の有力者の傘の下に保護され、傘下の企業に入社。序列を使い部下や上司を甚振る諸悪の根源となるのは間違いない。更生は、幼い時の教育が根底にある。周りを気にしない親の傘の下では、他人のことより我が身の保護に走る。世間が平等・差別の大義名分を隠れ蓑にし、悪さをしても認めない、認めれば負け、などと言う日本以外のアジアの方々の考えを日本民族に刷り込んできたマスゴミやそれを操る多種多様の黒幕たちの思惑が浸透しつつある今、犯罪を犯した者の更生は、マインドコントロールのような荒業が必要とされるのが現状だった。


綾小路「如何でしたか。新鮮味がないと感じられたのでは」

三 上「新鮮味がないってこは、日常ってことよ」

神宮寺「何にも変わっていないね」

蜷 川「そう、更生を願い裁いても善悪の境界線を見失った者には、今の裁きの方法

    には疑問を感じ得ないのです、悲しい事です」

財 津「悪い奴ほどよく眠るって、誰かが言ってましたね」

蜷 川「確か、黒沢監督の作品でしたかねぇ~」

神宮寺「繊細じゃないから罪を犯す。犠牲者は繊細過ぎて苦しむんだ」

三 上「罪を憎んで人を憎まず、何て絵空事よ。怪我をするのは一瞬。それを克服す

    るためには痛み・苦悩・絶望など自分との闘いが長く続くのよ」

神宮寺「人はPCじゃない。リセットや再起動など簡単にできないよ」

財 津「そのきっかけにと俺たちがいる。俺たちは正義の味方でも救世主でもない。

    行動を起こせば、罪人だ」

綾小路「だからこそ、自分に言い聞かせています。被害者は勿論、新たな被害者を

    出さないための抑止力になればと」

蜷 川「原子力発電と同じですよ。発電力はあるが汚染の危険性を秘めている。人は

    正常運転に妥協は許されない。しかし、自然災害のような害的要素でその安

    定は壊されることも。であれば、最初から作らない方がいい。これは愚かで

    逃げの発想ですよ。害的要素に耐えられる方策を考え出す。それが人間に与

    えられた使命なのです。それを放棄するのは人間の存在を否定するのに準ず

    るのですよ」

財 津「なんか哲学的に話題を変えようとしてる?」

蜷 川「哲学と言うには稚拙ですよ。まぁ、いいでしょう。現にメルトダウンせず、

    移動も可能な小型原子力発電装置を日本の企業が開発し、実用化に向かって

    いる。原発という一括りで新たな技術を葬ることなど決してあってはなりま

    せん。罪も再生可能か否かで分別し裁く必要があると思いますよ」

三 上「悪い奴らを正すリセット装置があればいいのにね」


 一同は、それぞれの思いで深く頷いていた。


神宮寺「ねぇ、ねぇ、昔、血の粛清と言うべきことがあったよね」

蜷 川「戦国時代の継承者の懇滅ですね」

神宮寺「あれも、将来の事を考え、行われたことであり、一度植え付けられた復讐心

    はいつ何時芽生えるか成長するかわからない。そのための抑止力だよね」

蜷 川「簡単に言えば、そういう事になるでしょう~ね」

財 津「血の粛清…か」

三 上「雀百まで踊り忘れず、よ」

綾小路「それが悪人の快楽となり、媚薬になるのです」

財 津「性善説は常人にあり。無き者にあらず、ですか」

蜷 川「そう言う事になりますかねぇ~。悲しい事です」





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