第12話 ペンギンマスク

……ん?

あぁ、どうやら俺は眠っていたらしい。

装備品の制作が一時間あたりを越えて来たから、眠ってしまったのだ。

このまま、少し外に出て時間を潰す事も良かったのだが、折角一時間も待っていたのだから、もう不動を貫いてしまおうと言う考えが過ってしまって、その結果、少し居眠りをしてしまった様子だ。


「……ん、んん、そろそろ、出来た……か?」


目を開く。なんだか視界が狭い。

そして少し呼吸がし辛い、俺は左右を振り向いて、少し頭が重たくなったのを感じた。


「なんだ?……あれ?」


自分の顔面に触れてみると、俺の顔面は何か革の様なもので覆われていた。

手で触れていくと、口元部分が硬くて尖っている。


「なんだ、どうしたんだ、コレッ」


俺は慌てながら周囲を見渡す。

すると、カウンターの方から出て来る細い針の様なブリキ人形が鏡を取り出した。

俺はその手鏡を奪い取って自分の顔を見てみる。


「……なんだこりゃッ」


俺の顔面には、灰色の羽毛皮膚に覆われたペンギンの様なマスクが装着されていた。

後頭部に手を回すと、硬い鉄の様なモノに触れる。恐らく、その後頭部についているものが面を抑えているんだろう。


「はず、外せ、はずねねぇッ!おい、お前、何をしたッ!」


『―――ッ■■』


ああ、畜生、全然何を言っているのか分かんねぇ!

待ってろ、今、アルトリクスを呼んでくるからな。

俺は店を離れて宿屋へと向かう。二階へと駆けあがって、ベッドの中でゴロゴロしているアルトリクスに声を掛けた。


「おい、アルトリクスッ!」


「ひゃッ!え、あれ?プロフェッサー、ですか?」


驚いて身構えたアルトリクスだが、その声が俺のものだと分かると、即座にアルトリクスは警戒を解く。


「なんですかそのマスク……とても、可愛いですね」


可愛いものを見て萌えている表情を浮かべるアルトリクスに、そんな事はどうでもいい、と一蹴して、彼女の手を引いて走り出す。


そして再び店へと戻って、一体これはどういう事なのか、アルトリクスに翻訳をしてもらう。


「……プロフェッサー、この店主が言うには、装備を装備させたに過ぎない、と言っています」


「外せッ!俺はこのアイテムを売る為に作ったんだぞッ!!」


そう叫ぶが、細い針の様な店主は首を左右に振った。


『―――■■』


「なんて言ってんだ?」


「えぇと……皮膚に直接縫い付けているって……外すには金が掛かると言ってます」


皮膚に直接縫い付けたッ!?俺が寝ている間になにバイオレンスな真似をしてんだッ!!ふざけんな!!


「無承諾でしやがって!!金返せッ!!」


『―――■■』


「……プロフェッサー、装備を作る時に、装備をしていくかいと聞いて承諾した、と言ってますが……」


「あぁ!?そんなの聞いて……」


其処で俺は押し黙った。

そう言えば、俺が此処へ初めて来たときに、装備品を渡して、その時金も一緒に渡した。

その時、この針の様な機械人形が何か言っていた様な気がするが……俺はその言語を理解していない……。それがもし、機械人形が装備するか云々、手術をするが同意するかどうか、と言う質問に対して、俺は知らず内に了承していた可能性がある。


「……ッ」


これ以上は強く言えなかった。


「なあ……最後に、手術に幾らかかるんだ?」


このペンギンマスクを外すのに幾らかかるのか、アルトリクスに聞く。

アルトリクスが機械人形に対して質問をすると、機械人形が答えて来た。

それを聞いて、アルトリクスが俺にこう答える。


「……綺麗に剥がしたいのなら、二十万は掛かる、と言っています」


……ぼったくりじゃねぇか。

畜生、こんな店に入ったのが間違いだった。

やり直したいと思うが、思うだけでそれが実現する事は無かった。


溜息を吐いて俺とアルトリクスが宿屋へと向かう。

しょんぼりと落ち込んでいる俺に対して、アルトリクスがちらちらと俺の顔を見ていた。


「……なんだよ?」


少し不機嫌な俺の声に反応して、彼女はびくりと体を震わせた。


「いえ……プロフェッサー、は。とても残念だと思いますが……」


少し頬を赤らめて、思い切り、アルトリクスが俺の腕を抱いて来る。


「私は、そのマスクをしたプロフェッサーが、とても素敵だと思ってますよ?」


……世辞だろうか、と思う。

世辞でこう密着してくるのもどうかと思うが。

まあ、素敵、とは思ってないのだろう。


「お前さ、このペンギンマスクが可愛いって思ってるだけじゃねぇのか?」


明らかに、ペンギンマスクを着けた俺と付けない俺の態度が全然違う。

着ける前は、先生と教師みたいに、教える側と学ぶ側、の様な関係だったが、今じゃ初めて子犬を飼った時に辛抱溜まらず抱き締めてしまいたいと言う欲が渦巻いている様に見えた。


「い、いえ、そんな事ありませんよ?」


それを証明する為に俺から腕を離して少し距離を取る。

何事も無かったかの様に髪の毛を弄っているが先程の行動を見てしまった以上、もう言い訳は出来ないだろう。


「……今日から特訓な」


「え?あの、ぷろふぇっさー?」


「別に、俺が悲しんでいるのに、なんでお前は嬉しそうなんだ、ああ、妬ましい、やり直したい、なんて感情は一切持ち合わせていない、ただ単純に、今日から特訓をしなければ、資金が尽きそうだから、とそう思っていっただけだ」


そう、決して私怨ではない。

八つ当たりである可能性はあるが。


即座に蒼褪めるアルトリクスの顔を見て、俺はゆっくりと歩き出す。

宿屋に戻ったら、また特訓の始まりだ。

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