第10話 特訓開始


数時間程の休息は思考回路をクリアにしてくれる。

俺は起床して体を軽く伸ばすと、ベッドの上でウインドウを開く。


「さて……」


俺は口にパンの様なスティックを口に咥えていた。

店主がサービスで作った料理であるらしく、緑色の甘い果実の様な味がするジュースで流す。後味は何故か粉薬を飲んだ様な喉を擽らせる感じがするが、まあこの際文句はない。


俺はウインドウを眺めながらまずは何を試すか見ていた。

ウインドウは『育成』を選択して、どのステータスを訓練するか選ぶ画面にある。

これを選んで、時間を指定した場合、どうなるかを見るのだ。


「準備は良いか?アルトリクス」


俺は狭い部屋の中で伸びをするアルトリクスにそう告げると、彼女は腕を伸ばしてノビをしながら大丈夫だと告げる。


「お願いします。プロフェッサー」


既に準備は万端であるらしい。

では俺は、ステータス強化の為に『能力強化』を選択して時間指定を様子見で『一時間』に設定する。宜しいですか?と言うメッセージに対して『はい』を選択すると、アルトリクスは唐突に手を翳した。

彼女の前には四角形の箱の様なものが出現して、彼女はそれに向けて手を翳している。


「なんだそれ」


「えぇっと……む、むぅぅぅ」


目を細めて眉を顰めると、彼女は頬を膨らませて力んでいる。

顔を真っ赤にさせながら、四角い箱に念の様なモノを送っている。


「……これが能力訓練か?」


彼女は十分間ほど、四角い箱を睨んでいる。すると、四角い箱がカタカタと動き出して、気球が上昇する様にゆっくりと箱が上がっていく。


「お、凄ぇ」


顔を真っ赤にさせたアルトリクスだったが、限界が近くなって息を吐く。

すると同時に箱も落ちて、四角い箱が転がる。


「あぁ……」


再び、アルトリクスが手を翳して箱を浮かばせる様にしている。

それを何度も繰り返して、十分に一回は箱が浮き上がりつつあった。

俺はその光景を眺めていながら、一度部屋から出てジュースを注ぎにいったりして時間を潰す。

ようやく一時間が経過すると、汗がダクダクとなったアルトリクスが手を突いて息を吐いていた。

それ程に苦しい訓練だったのだろうか。ウインドウを見ると、訓練終了の二文字があった。

ステータス画面を確認すると、能力値に変動の兆しが見えていた。


【基本性能】

筋力値パワー:E/01 敏捷値スピード:E/01 耐久値タフネス:E/01

能力値スキル:D/16 精神値マインド:E/01 幸福値ラック:E/01


えぇと、前の能力値は16だったから、この訓練で3つ程ステータスが上昇したのか。

が、俺は更に下の方を確認すると、育成のコマンドが選択できなくなっていた。

代わりに『休息』のボタンが光っていて、それを選択すると『休息1:59:23』とカウントがされている。


「……まさか」


訓練をして指定した時間を消化すると、休息が必要になるのか。

この休息は二時間固定なのだろうか?

休息をしていると、育成対象の転生者リバイブはどうなるのか?

俺はまず初めにアルトリクスの方に話し掛ける。


「アルトリクス、体はどうだ?」


そう聞くと、アルトリクスは俺の方を向いて首を傾げた。


「えぇっと……あれ?……プロフェッサー、脳内に展開している地図が使えません」


「……マジか」


まさかこの休息は、その休息している間は、訓練はおろか、スキルの発動が不可能になっているのか?


「……うわ、危ねぇ」


もし灰の砂場で訓練していたら、一時間と二時間、含めて三時間の間無防備になっていたんだ。

現状、俺の命綱はアルトリクスが握っていると言っても過言ではない。

このまま、アルトリクスが動けなかったら、俺はあの砂地でペンギンに爆破されて死んでいただろう。


「……大体分かったぞ」


「そ、そうですか……はぁ」


アルトリクスは息を吐いていた。

頑張ったようで悪いが。


「休息を終えたらもう一回、訓練をするぞ」


「え…あ、……は、はいぃい」


悪いなアルトリクス。

俺はまだ、休息時間が固定がどうか調べたいんだ。

そう心の中で念じながらも、俺とアルトリクスは部屋の中で休息する。

そして二時間が経過すると、訓練のメニューが解禁されていた。

再び『能力訓練』を選択して、今度は『二時間』に設定する。


「今度は二時間だから、頑張れ」


「は、はい、プロフェッサーっ!」


息を荒く吐きながら、アルトリクスが手を翳して四角い箱を動かしていた。

……そして二時間が経過すると、アルトリクスは床に倒れて肩で息をしている。

本当に疲れたのだろう、服や紙を乱しているが、そんな事関係ないと言った具合で、だらしなく床に身を預けている。


そんな淫靡な姿を晒すアルトリクスを尻目に、俺はステータス変動を確認する。


【基本性能】

筋力値パワー:E/01 敏捷値スピード:E/01 耐久値タフネス:E/01

能力値スキル:C/21 精神値マインド:E/01 幸福値ラック:E/01


スキルがCにランクアップしているが、変動した数値は二時間で5か……時間を掛ければかける程にステータスが倍々に増えると思ったが……当ては外れたな。


だがこれのおかげで能力値がCに上がっている。これでまた一つ新しいスキルを覚える事が出来るぞ。


それと、休息の時間だが、どうやら二時間固定じゃないらしい。

休息の時間は現在『3:59:21』となっている。恐らくは、訓練をした時間の倍の時間が消費されるのだろう。


これで四時間程、スキルは使役出来ないが、情報の対価と考えれば、高くはないと信じたい。


「ぷ、ぷろふぇっさー……」


涙目ながら、アルトリクスが上擦った声で俺に語り掛ける。


「お、ぉう、どうした?」


「今日は、ま、まだ、しますか?」


もうこれ以上は無理なのだろう。

俺は首を左右に振って、これ以上はしないと言うと、彼女は再び倒れた。


「ぷ、プロフェッサー……また、シャワー、浴びに行っても、いいです?」


「勿論いいぞ、ほら、金」


アルトリクスにお金を渡したが、彼女はそれを握っても落としてしまった。

それ程までに、能力訓練って疲れるのか?………別の訓練だとどうなんだろうか?

気になる所だ。


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