第3話 アルトリクス


「私はアルトリクス、今後とも、よろしくお願いします」


『アルトリクスの育成を開始します』


その様な文言がウインドウへと現れた。

俺は目を向けると、ウインドウが変化する。

其処には、アルトリクスと呼ばれる少女のステータスが表示されていた。


【名称】アルトリクス

【職種】書術師ブックマン

【装備】空白の魔術書

【デザイア】記録レコード

Level:1/200

種族:魔族

【基本性能】

筋力値パワー:E/01 敏捷値スピード:E/01 耐久値タフネス:E/01

能力値スキル:E/01 精神値マインド:E/01 幸福値ラック:E/01

【職能】

『万物の声』:E

・全ての言語を解読し、発音出来る。

・旧世界の言語のみ解読可能。

『記録の記憶』:E

・アカシックレコードに接続し知識を蓄える。

・ランクが低い為に知識に対する情報が限定的となる。

『詠唱省略』:E

・魔術詠唱を省略して発動出来る。

・魔術のレベルが高ければ高い程に省略し難くなる。

【スキル】

・―――(取得可能枠)

【デザイン】

・???


ステータスの情報を確認して、俺はその内容とアルトリクスの方を交互に見る。

彼女の口にした名前と、そのステータス画面に出ている名称を確認して、まず、このステータス表記が彼女のものである事は間違いないだろう。


と言う事は、俺は彼女、アルトリクスと言う西洋風の美麗な少女を育成せねばならないと言う事になるのだが、そこで一つ俺には問題にすべき点が存在していた。


「育成って、どうするんだよ」


そもそも、この様な状況になるまでに理解が追い付かないが、今は無理矢理飲み込み飲み込んだ上で、不可解ではあるが理解はしていいた。

しかし、彼女を育成する、育成とはすなわち、彼女を育てる事であり、しかしその育てると言う事はどういう事なのか。


「あぁ、畜生……やり直したい」


そう口にして考えるが、この育成と言う能力は、俺のデザイアから発生したものだと聞く、しかし『やり直し』が育成に繋がるとは、どういう事なのか。

その点が不鮮明なワケで、納得がいかない。

目の前に立つ紫髪の少女、アルトリクス……彼女を育成するのが、俺の役目、と言う事だけは分かったのだが。


「プロフェッサー」


俺は改めてウインドウを目視する。

彼女のステータスが掛かれた画面の左端には『→』のマークがある。

それを押すと、画面が他の場所へと移動した。

画面には『育成』『スキル解放』『休息』の三つのコマンドがあった。


「あの、プロフェッサー」


……ん?先程から、プロフェッサーなんて呼ぶ声が聞こえるが。

俺は声のする方に、アルトリクスの方に顔を向ける。


「プロフェッサーって、俺の事か?」


ムズ痒い呼び方だな。


「はい。私を生み出して下さったお方、プロフェッサーです」


「そうか……まあプロフェッサーでもプロパンガスでもなんでもいい……お前さ、育成のやり方、分かるか?」


取り合えず、俺はまずどうすれば良いのか、聞いてみる。


「私は、プロフェッサーの力は存じません、『記録の記憶アカシックレコード』に接続しますが………ん……んんっ、……申し訳ありません、私程度の書術師ブックマンでは、理解が及びません」


そうか、と俺は相槌を打って会話を切る。

分からずじまいと言う事だけが分かった感じだ。

これからは手探りで始めていくしかないのか。


「……畜生」


なんでこんな事になってしまったのだろうか。

既に百四十年が過ぎた新世界だが、俺にとってはまだ寝て覚めただけの一般人の感覚だ。


勉学に苦しんでいた時の事が、今になっては懐かしいと思う反面、全ての努力が水の泡になってしまったかの様な途方感が拭えない。


あぁ、やり直したいと思う。まあ今更、そんな事を考えた所でどうしようもない。

現状を受け入れるほかないのだろう。人間には自我がある、それは他の生物には無い

知性と理性を持ち合わせる。しかし、こう環境が一変してしまえば、その理性と理性は重荷となる、昔と比較してしまい、その昔を羨んで、心に楔の様なものを打ち付けられた気分になってしまう。


切り替える事が大事であり、環境により早く適する事が一番重要な事だ。

俺は深呼吸を繰り返して、昔の事をなるべく思い出さない様にする。

この状況に適する為に、今と言う時間を楽しむ様に。


……しかし、そう簡単に切り替えられるものではない。

多分俺は、昔の事を思い出して、今と比較してしまうのだろうと思った。


頭を悩ませている様な素振りをするアルトリクスが指を一本突き立てた。


「代わりに周辺のマップを『記録の記憶』でインプットしました。この灰の砂地から南へ二十キロ程歩くと街に着きます」


アルトリクスは南の方へと指さした。


「……そうか、二十キロも歩けば、街に到着するんだな」


意外だと思った。何故ならば、此処は新世界とかいうよく分からない場所であり、平たく言えば、世界が滅亡したその後の世界なのだ。

娯楽品や嗜好品はおろか、物資や食物と言ったものすら存在しないと思っていたから、いきなり街があると言われて面を喰らってしまう。


「それじゃ、行くか」


当面の目標は歩いて街へと向かう事だ。

まあ、幸いこの灰の砂地と言う場所は平面が続いている。

歩きながらウインドウの動作確認をしても良いだろう。

そう思いながら俺とアルトリクスが歩き始めた。

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