第23話 ダディと怒りとパンダ波動砲



「俺の娘に手ぇ出すってんならおめぇらッッ!! タマぁ捨てる覚悟はあるんだろうなぁッ!!?? 【パンダ波動砲】ッ!!!!」


「なんなの波動砲ってぇえええええええええッッ!!?? ヤバイこれ! カレンもっとちゃんと走ってぇええええええ!!」


「無理ですわお姉様ぁあああッ!? 速すぎますわぁあああああッ!!」


「ああもうっ、しょうがないッ!!」



 あらかじめ広間の入り口付近に避難していた瑠夏、カレンディア、ルナであったが、直感的に危険を感じ取った瑠夏はカレンディアの手を取り、広間から通路へと一目散に駆け出した。ルナも同じく、高まり続けるダディの〝パンダぢから〟を感じたのか、瑠夏達を先導するように走っていた。

 しかし元陸上部エースでもあり、現在はユニークスキル【韋駄天チキン・ランナー】によって速度が増している瑠夏には、とてもではないが貴族令嬢であるカレンディアの足ではついては行けない。仕方なく瑠夏はカレンディアの背後に回ると、彼女を横抱き――俗に言うお姫様抱っこで抱えて走り出した。それでもカレンディアが走る速度よりもよほど速いというのは、この世界に来てから得たスキルの恩恵は凄まじいものである。



「おおおお姉様ッ!? こ、このような恰好、恥ずかしいですわッ!?」


「文句言わない! あんなに怒ったダディなんて見たことないし、ダディが攻撃に巻き込まれたらあたし達も絶対ヤバいんだから!!」


「ぱんだぁ~っ!」



 必死で足を動かし通路の奥へと引き返していく瑠夏達。そしてその全力退避は、大正解であった。



「ぱんだぁあああああああああああああああああああああッッ!!!」



 今や修羅場と化した安全地帯セーフティエリアの広間で、ダディが四肢を踏ん張りパンダ力を際限なく高めていく。高まった聖なるエネルギーは一点に――ダディのあぎとへと集束し、まばゆく輝きスパークまでもほとばしらせていた。ダディの咆哮は石造りの壁や地面を震わせ、黄金色の輝きはどんどん膨れ上がっていく。


 怒りのままにパンダ力を解放し、それを一点に集束して撃ち放つ――――それが【パンダ波動砲】だ。ダディが持つユニークスキル【聖獣格闘術パンダアーツ】の遠距離用究極奥義である。



「なんかヤベェぞォッ!? 野郎ども、撃たせるんじゃねェ!!」


「「「ヒャッハァーーーーーッッ!!」」」



 さすがにチンピラ達も、輝く波動砲のエネルギーを見て危険を察知したのだろう。カレンディアの魔法を中断させた時のように、なんとか撃つ前に攻撃を加え不発に終わらせようと、ダディへと殺到する。



「喰らいやがれェッ!!」



 そして鎖鉄球を振り回していたチンピラ――パンダビキニスーツの瑠夏にフランケンシュタイナーで気絶させられた男だ――が発射前に間合いを届かせ、自慢の棘付きの鉄球を操り、ダディに振り下ろす――――が。



「なんだァッ!? 弾いただとォッ!!??」


「無駄だぜ! 【パンダ波動砲】を溜めている間は膨大なパンダ力が集まる……! それによって空間が歪み力場が生まれる。これが【A・Pアクティブ・パンダフィールド】だッ!! そしてこれがぁ……」


「や、ヤベェぞッ!? 間に合わな――――」


「怒りのパンダ力・臨界突破! 【パンダ波動砲】だぁあああああああああああああああああああッッ!!!!」



 溜まりに溜まった聖なる力――パンダ力がひときわ強く輝く。そして集束の臨界を迎えたパンダ力は、その暴威を解き放った――――



「「「ぎゃあぁぁあああああああああああああああああああああああッッ!!??」」」



 太陽が顕現したかのような凄まじい光を放ち、ダディの口から【パンダ波動砲】が撃ち出される。その光の奔流は広間を真っ白に埋め尽くした。


 耳をつんざく轟音はチンピラ五人衆とドラ息子の悲鳴を掻き消し、解き放たれたパンダ力は広間の石の床を抉り、その圧倒的暴威を刻み込む。目も眩むほどの光の濁流は敵対者達をアッサリと飲み込み――――


 後に残ったのは床に転がる、全ての装備を――もちろん、下着もだ――吹き飛ばされたミゲル青年とチンピラ達。そして階層主フロアボスの間へと繋がる、無残に撃ち貫かれた巨大な扉であった。





 ◇





「ねえダディ。ちょっとこれは……やりすぎじゃない?」


「破壊することは叶わないとされているはずのダンジョンの扉や床が……!? 信じられませんわ……!!」


「ぱ~んだぁ~っ♪♪」



 光と爆音が去った安全地帯セーフティエリアに戻った瑠夏達はその破壊の痕跡を呆然と眺め、ダディにジットリとした視線を向ける。ルナだけは父親の雄姿を見られた喜びで、大いにはしゃいでいたが。



「俺の愛する娘を狙う輩は、それがたとえ国王だろうと魔王だろうとドラゴンだろうと、絶対にタダじゃおかねぇ。まあ直接当ててないから全員生きてるし、細けぇこたぁいいじゃねぇか」


「細かくないよねぇッ!? っていうかどうして全員見事に素っ裸なのよ!?」


「不潔ですわ! 破廉恥ハレンチですわ~ッ!?」


「いやカレンさん絶対指の隙間からガン見してるよねッ!!?? めっ! バッチイから見ちゃいけませんっ! カレンのお目目がけがれちゃうッ!!」



 異性の身体に興味津々なお年頃のカレンディアをたしなめる瑠夏。自分は決して見ないという頑とした決意の元、彼女をダディの陰に追い立てていたのだが……その時である。


 ――――テレレレッテッテッテ~♪



「おっ。レベルが上がったっぽいぞ」


「……はいっ!?」



 突然の軽快な電子音と共に、あっけらかんと呟くダディ。

 その音には当然聞き覚えのある瑠夏は、コンマ数秒という素晴らしい反射速度で勢いよく振り返った。



「え、はぁ!? 全員生きてるじゃん!? 何がどうして経験値が入ってレベルアップしたわけ!? っていうか今の音ドラ○エじゃん!? 大丈夫なの……ってか、どんだけ日本のサブカルチャー推してんのよこの世界と女神はぁッ!!?? いい加減にしなさいよホントにぃいいいいいッッ!!」


「お、おおう……!? お、落ち着け瑠夏……!?」



 某子爵令息のように前髪こそかき上げてはいないものの、憤懣やるかたないといった様子で地団駄を踏む瑠夏。流石のダディであっても思わず宥めに掛かるほどの、それは凄まじい怒りと切なさを感じさせる様子であった。


 しかしそんな、放っておくと『ムキーッ』とでも叫び出しそうな瑠夏に、恐る恐るとだが声を掛ける人物が居た。



「お、お姉様……」


「ぱんだぁ~っ」


「うううぅぅぅっ! 何よカレン!? ルナもどうしたのよっ!?」



 そう。つい先程まで悪漢達の裸にキャーキャー言っていたカレンディアと、同じくつい先程まではその悪漢達のターゲットになっていた娘パンダこと、ルナである。

 ルナがまるで怖いものなど何もないとばかりに激昂する瑠夏のジャケットの裾を引き、カレンディアはある一点を呆然と眺めながら、指を差していた。



「一体なんなのよ……って、あれは……?」


「んんん??」



 ルナとカレンディアの視線と差す指に釣られて、瑠夏とダディが見やったその先。


 そこには、先程の【パンダ波動砲】で撃ち貫かれた階層主フロアボスの間に続く扉だった物と……ボスの間に入ればちょうど部屋の中央辺りに見える、輝きを放つ箱のような物。それはそう……。まるでRPGなどでボスを倒すとドロップするような、ドロップアイテム等が入っている……



「え、ええぇぇ……? ちょっと待ってよ……? ダディ、あれって……もしかしてもしかすると……宝箱? ボス撃破のご褒美の……?」


「どうやらこのダンジョンの階層主フロアボスは部屋に入ると適宜召喚されるんじゃなく、最初から部屋の中央に陣取ってたみたいだな! それでさっき俺が撃った【パンダ波動砲】が運悪く真っすぐ当たっちまって、倒されてしまったと! 今入った経験値はどうやら、ボスを倒したモンだったみたいだな!!」


「は、はぁあああああああああああッッ!!??」

 


 攻撃の爆音も争いの喧騒も静まったに、予期せぬ手段でボス戦をクリアしてしまった瑠夏のやるせない絶叫が、響き渡ったのであった――――




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