第33話 地震をもたらすもの

 土曜日。

 私は、タツと中川さんと共に車に揺られていた。


 中川さんのひいおばあさんのお弟子さん、という岩永さん。岩永さんはたぶん30歳前後に見えるけど、きちんとスーツを着て、とっても真面目そう。

 今日は、岩永さんが車を出してくれて、ミス研のクラブ活動、ってことになってます。他のメンバー、誰もいないのは不思議、と思ったら、中川さんがきちんとリサーチ済みだったらしい。

 双子は親戚の法事、タチバナはバスケ部に駆り出され、ピーチは塾。

 他の部員にはそもそも声をかけていない。

 そんなわけで、私たち以外ミス研の活動が出来ないって分かってて、この日に遠出を入れたのだとか。


 「シッシッシッ。岩永は化け物退治もできる優秀な霊媒師ですんで、何が起こってもフォローできます。気兼ねなく力を使ってくださいね、シッシッシッ。」

 岩永さんをそんな風に紹介されたんだけど、つまりはそういうことが起こる、ってことなんだろうなぁ。




 「昨日も地震があったやろ?結構大きかったし、そろそろヤバイと思うわ。」

 車に乗ってタツがそう口を開いた。

 「この前な、中川の嬢ちゃんが発表してたやろ?地震の話や。地震は大ナマズが暴れることで起きる、いうんは分かるわなぁ?」

 「いやいや、分かるわなぁ、って言われても、わかんないよ?」

 「なんや、発表、聞いてなかったんかいな。」

 「オカルトと本当の地震と一緒にされても・・・」

 「あんな、地震ちゅうんは、地球のエネルギーのひずみや。ほんで、エネルギーの種類っちゅうんは色々あるんや。嬢ちゃんが言っとったやろ?」

 「いや、だから、地質学の話とオカルトを一緒くたに並べられても、ねぇ。」

 「そやから、おんなじやねん。地震言うても原因はいろいろある。ほんで、そのうちの1個が大ナマズや。」

 自信満々、大ナマズや、とか言われても、現代日本で育った私には、眉唾にしか思えない。そして別の世界で生きたシオンとしては、そもそも地震のメカニズムなんて気にしたことすらない。神や大地の怒り、と説明されていた、とは思う。といっても学校なんて行ったこともないし、家庭教師なんてもってのほか、な、孤児として生きた身としては、あの世界での地震を、学者たちがどう説明していたか、なんて、知る機会はなかったけれど・・・



 「まぁええわ。中川の嬢ちゃんは知っとるやんな、今回のナマズの話。」

 「はい、龍神様。要石を壊されたナマズが暴れている、と聞いてます。シッシッ。」

 「そういうこっちゃ。シオンも見たやろ、矢が結界壊してたん。」

 「ま、まぁ・・・」

 あの壊された石ってナマズを押さえてたってこと?

 「ナマズを押さえるんは要石で大地に縫い付けるんが一般的や。ほんまは全部けちらせたらええねんけど、普通の霊能者では、要石で封じるんが精一杯やからなぁ。」

 中川さんも岩永さんもうんうんって頷いてるけど、それは常識、なのかな?私、常識がないの?ちょっと自信なくしちゃう。


 「ナマズ、かぁ。」

 「あ、言っとくけど、今言うてるんは、本物の魚のことちゃうで。大ナマズの方や。」

 「へ?」

 「そりゃそうやろ。そんなんあんな小っこい魚が暴れたところで地震なんか起きるかいな。常識やろ。」

 ・・・・

 そんな常識、私は知らないよぉ。あ、もちろん魚のナマズが地震を起こすはずはない、なんて常識はもちろんあるけど。


 「解説すると、大ナマズっていうのは、ナマズに似ているとされるあやかしの一種、って聞いてます。シッシッシッ。あやかしなら地震、起こせるかと。」

 え?この世界のあやかしっていうのは地震まで起こせるの?前世ではいなかったよ、そこまで物騒なのは。爆発系の攻撃で地面が揺れる、なんてことはそれなりに経験したけど(ていうか自分の攻撃でもそのぐらいは、ね)、地面そのものを動かすなんて、とてもとても。


 「嬢ちゃん。惜しい、惜しいなぁ。あんな、実を言うと大ナマズっていうのは、あやかしとちゃうねん。」

 「え?そうなんですか?ではいったい?」

 「ヒッヒッヒッ、まぁ、楽しみにしとり。もうすぐお目見えするさかいな。」

 「はい。ああ、今日来て良かった。本当に良かったです。シッシッシッ・・・・・」



 というような会話をすること数十分。

 車はとある神社、の近くにある森、と言って良いのかな?多分神社の敷地ではあるんだろうけど、木がうっそうとしている辺りに入ってきて止まったみたい。

 一応車がギリギリで通れる道があり、森はそれなりに整備がされている。

 だけど、土曜日だっていうのに、この神社の付近には、森も境内も含めて人の気配がしないのが不気味。

 「ああ、人払いしてるさかいな。危ないやろ?暴れることになるんやし。」

 何?暴れること確定なんですか・・・はぁ。


 私は重い足取りで、促されるまま車を降り、小さな社の後ろへと回っていった。



 「おびき寄せるで。」

 と、突然、タツが静かに告げた。

 その言葉の調子とは裏腹に、タツの神力というのか、シオンからしたら一種の魔力のようなものがふくれあがる。

 私はその力に振れ、気がつくとシオンにステータスが入れ替わっていた。


 シオンの目には、ふくれあがるタツの魔力がこの世界の位相を少しずつずらすのが分かった。何度か体験した、違う次元、というやつか。

 だけど、今までとは違って完全に別の世界になるわけじゃなくて、見た目はまったく変わらない。景色はそのまま、だけど、位相がずれていくのが分かった。



 と・・・・



 何かがこっちを


 じろりと視線を向けられたかのような感覚。


 なんだ?


 俺は、そちらに意識を向ける。


 大きな黒い影。

 大地を泳ぐかのように悠々と進んでいるその大きな気配。


 ああ確かに。


 その黒い影は、見ようによってはでっかい人魂のように前が球体で後ろに尾を引いていて。


 見ようによっては、巨大な、ナマズ、にも、見えた。

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