第8話 ハンバーグを食べて・・・

 なんの因果か、今、とあるお寺のお堂に併設する、住居にいる。

 前には、自称龍神様。

 で、そこそこ美味い、いや嘘だ、かなり美味いハンバーグ、食っている。


 なんでこうなったか。


 いや、なんとなく心が通った気がしたんだ。

 いいやつ、は間違いなくて、なんとなくやつの教室で馬鹿笑いしてたら、どっちの、というわけでもなく、同時に腹の虫が鳴った。

 で、昼を食べながら話そう、ということになって、この龍神様、ジャンクがいいとか言い出した。お供えでは純和風のものが多いから、洋風がいいんだそうだ。

 オレは、詩音としてこの学校へ通って3年。あ、小学校はちょっと離れてるんだ。ここは中高だけ。

 双子だけじゃなくて、それなりに遊ぶ友達もいたから、この付近のジャンクな感じとか、ファミレスとか、まぁ制服で入って大丈夫なところの知識はしっかりある。


 で、やつのオーダーはハンバーガー。

 最悪、ハンバーグも許す。

 なんて言うんだが、結局俺の知っている店は、どこも見知った顔がすでにいて、声をかけられる危険性アリ。

 どうする、と話してると、

 「そやったら、儂の住まいにしてるとこで用意させるわ。」

 と、奴が言った。

 龍神様、か、なんか知らないけど、情緒もへったくれもなくスマホを出して、誰かに電話。

 「友達連れてくさかい、ものごっつう美味いハンバーグ作ったってや。」

 とか、言うだけ言って切ってしまった。

 大丈夫か?そんな風に聞いても、軽く大丈夫を繰り返す。

 「この時期、うちは桜が綺麗やで。それ見るだけでも価値あるさかいなぁ。」

 そういう奴について行ってみれば・・・・




 『青龍寺』




 でっかい石に彫られた文字。

 そこそこある階段。

 階段の脇は、確かに綺麗な桜が咲き誇っているけれど。


 「これって、ふつうにお寺よね?」

 「知らんのか?寺は人が住めるようになってるねんで。」

 いや、一応知識としてはあるけど、まさかのお寺在住?

 「ここはな、まぁ、儂の部下の家みたいなもんや。あの学校通うことになって、ここに住むことにしてん。」

 住むことにしてん、って、軽く言うけど・・・・

 途方に暮れる私を、彼は先導して、寺門をくぐり、さらに奥へ。


 一応、境内に普通に参内するのとは違う入り口があって、ためらう様子もなく、彼は中へ入っていく。

 「おお、帰ったでー。」

 そう言いながら、玄関で靴を脱いでズカズカと中へ入っていく後ろを、私は慌てて追った。気持ちだけでも、と、小さい声で「おじゃましまぁす。」と言いながら。



 中に入って行くと、私たちよりは少し上かな、という女性が、ニコニコと迎え入れてくれた。

 「あら、かわいいお嬢さんね。入学早々、主様ぬしさまったら、もう手込めにしちゃったのかしら。オホホホ。」

 いや、お上品な口調だけど、なんてこと言ってるんですか!顔と声と口調、は、奥ゆかしいのに、なんで下ネタ?


 「小百合、ちゃうねん。こいつ、例のやつ。ちょっと話したいから連れてきてん。腹減ったから、飯、頼むわ。」

 「へぇ、こんなに可愛い子だったの?おねえさん、興味津々よ。」

 「そういうのは後でええ。」

 「分かりました。居間に、お昼は用意してますから、奥へどうぞ。」

 「そうか、おおきにな。」


 そして、彼に続いて、奥の居間へ。

 途中、チラッと見ると、境内、があった。カランカラン鈴を鳴らす参拝者が、それなりに続いているから、そこそこ繁盛してる?て、寺に対しての言葉かは分からないけど、まぁ、人気がある寺、ではあるんだろう、なんて、思いながらも、奴に続く。


 そして、小百合さん?が用意してくれていたらしいハンバーグをお茶碗片手に食べている。


 「なんや、エライ小食やのう。半分しか食ってないやんけ。そんなんやから大きゅうなれへんのちゃうか?」

 お腹いっぱいの私を見て、呆れたように言うけど、このハンバーグ、200gできかないよね?ご飯と温野菜、サラダって、完全に定食、しかも女の子の量じゃない。そりゃ前世では魔物の肉にかぶりついてて、このぐらいペロリ、だったけど、今の体格じゃコレが限界です。

 そんな風なことを言うと、もったいない、とか言いながら、私の残りをハンバーグも米も野菜も、全部食べてしまった。

 これっておもっくそ間接キッス?

 いやいや、当然ノーカンだよな。


 とまあ、そんなばかな話をしつつ、食事が終わって一息ついた頃、奴は、改めて座り直し、こちらに向かって言った。


 「で、あんさん、本当のところ、どんくらい強いねん?」


 学校を出るにあたってステータス盤は詩音に戻している。

 これについては、前世と現世の強さを入れ替えられる、という風に最初に話はした。

 「だから、ふつうの女の子だってば。」

 「ふざけんでええ。儂が言うとるんは、前世の方や。わかっとるんやろ?」

 「はぁ。あのね、分かってようがいまいが、それをあんたに言わなきゃならないいわれはないよね?」

 「あんな、儂は神様やぞ。それ聞くためにわざわざ下界に来とんねん。」

 それは初耳だ。

 だけど、だからと言って、そちらに合わせる必要があるのか?

 「あんな、この数年、時折あほみたいな力が、この付近から発生しとる、ちゅうのは、結構話題になっとんのや。あれお前やろ?」

 そういうことなら、私だろうけど、いったい誰が話題にしてるのよ。

 「あんな、この地球にはな、儂らみたいな神さんもぎょうさんおんねん。神話とか伝説、ちゅう形で残っとるから、あんたも知ってるやろ?神さん、お化け、幽霊、妖怪、そんなんお話しだけや、ていうんは、人間が鈍感なってもたからや。ほとんどはほんまにおる。ほんでな、それらには格とか種類があってな、まぁ、儂ら神さん仲間みたいなネットワークもあんねんやわ。そん中で、むっちゃやばい力がたまにこの辺で発生してるっちゅうことで、眷属とかな、人間の信者とか使うて、調べとってんやわぁ。あんまりやばいんやと、放っておかれへんさかいなぁ。」


 私だって、この世界に生まれて15年。伝説とか神話とか、知らないわけじゃない。だから信じる信じないは別として、言ってることはわかんなくもないけど。

 でも、・・・・俺を放っておけないなら、どうするつもりだ?

 場合によれば、俺は自助をためらうつもりはない。


 「いや、そやから、そんな怖い気ぃ出さんといて。あんさんの力が異世界から来てるっちゅうんは、分かった。そやから、その由来と、あんさんの力、それからあんさんが、これからどうしたいか、それ聞かせてもらわなあかんのやわ。それとも、なんか言われへん理由、あんのか?」

 ・・・

 言えない、理由?

 別にこの世界で暴れるつもりはないし、迷惑をかけるつもりはない。

 ただ、静かに、平和に、生きて行ければ、それだけを願う。

 だったら、すべてを話す?

 こんな、自分で本当かどうか確信できない話を?

 もし、ステータス盤がなければ、すべては詩音の妄想、で片付けていたかもしれない。だったら、自分が龍神だ、なんていう妄想を言うバカに、自分の妄想を話しても、困ることがあるだろうか?

 なんだかんだで、ずっと一人、心に秘めていたことだ。

 聞いてやる、というなら、そうさ、喜んで話してやるよ。

 俺はそう決断すると、前世での生い立ちから、魔王討伐、王国の裏切り、そして神の慈悲について、すべてを彼に話したんだ。


 聞きながら、最後は、「ひどいのぉ。」とか「かわいそうになぁ。」とか、ワンワン泣きながら相づちを打つ龍神様に、ちょっと辟易しつつも、自分の目にも涙が浮かぶ。

 俺、こんなに悔しかったんだ、改めて思いつつ、自分の物語を閉じた。


 「そうかそうか。あんたんとこの神さんの慈悲っちゅうわけやな。第2の人生、うちら神さんもようさん手伝ったるさかい安心しい。まぁ、詩音が悪い奴やないっつうのは、よう分かった。よし、じゃあ、ゴールデンウィークは、儂の本拠地に行こう。」

 「え?急にどういう?」

 「儂の本拠地やったら、存分に結界張れるさかい、あんさんの実力がどんだけすごくても、周りに迷惑かけへんわ。そやから、力見るんは、あっちでやな。」

 「いや、だから・・・」

 「あ、うちの温泉、ええでぇ。楽しみにしときな。」

 ・・・・


 どういうわけか、彼の本拠地、どうやら関西にある龍神村という辺境らしい、に、このゴールデンウィーク、彼とガチンコするために、行くことになったようだ。

 親に、なんて言ったらいいんだ、頭がいたい・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る