第22話

 さて、お参りを済ませたところだが。

 今からやることと言えば。


「おみくじでも引こっか」

「リア充を踏みつぶさないんですか?」

「冗談に決まってるでしょ? それに、何人潰さなきゃいけないと思ってるの」

「確かに」


 数的不利だもんな。

 多勢に無勢という奴だ。

 まぁ冗談なのだが。


 そういうわけで俺達はおみくじを引きに行く。

 初詣と言えばおみくじ。

 当然ながら売り場にも大量の客が並んでいた。


「とんでもない人の量ね」

「やっぱ運勝負って人気ですね。ソシャゲが流行るわけだ」


 ガチャやらおみくじやら、最近の輩は運試しにお熱気味。

 まったく、何が良いのやら。


 俺はおみくじがあまり好きではない。

 というのも、結構結果を気にしてしまうからだ。

 大吉が出れば問題ないが、その他だと激萎え。

 今年一年最悪になるに違いないと、思考はダークサイドに堕ちていく。


 心の片隅ではわかってるさ。

 たかがおみくじだって。

 ただの紙切れ一枚で俺の今年の何が分かるんだ馬鹿がって。

 でもさ、だからといって不安は無くならないじゃん。

 縁起が悪いのはやだよ。

 怖いよう……ふぇぇん。


 心の中でめそめそ泣いているうちにも順番はどんどん近づき。

 俺は箱に手を突っ込む。

 直感で掴みあてた紙を持ち、近くのベンチで開けた。


「うっわ」


 思わず声が出た。

 それもそのはず、包みから表れた文字は地獄の二文字。


「ま、まぁそんなこともある」

「杏音がフォローし始めるときってよっぽど酷い時じゃないですか」

「……ごめん」


 謝らないでくれ。

 ただでさえ最悪の気分なのに。

 なんだ『大凶』ってよぉ!

 馬鹿にしてんのかクソ無能神っと叫びたいが、摘まみ出されそうなので目を閉じて精神統一。

 よし、一発ぶん殴らせろ。


「いやぁぁぁっ!」


 隣で悲鳴が聞こえた。

 見ると芽杏が崩れ落ちている所だった。

 彼女の手から零れ落ちる紙を拾い上げる。


「……よろしくな」

「宮田も大凶?」

「あぁ」


 新年早々、俺達の堅い友情が確定した。

 そしてこれから一年の嫌な予感が一気に降りかかる。

 現状互いに精神衛生が良くないこともあり、気の重さが半端じゃない。

 なんて考えていると。


「ちょっと、どこ行くんですか?」


 勝手におみくじ売り場へ戻ろうとする杏音の捕まえる。

 彼女はやけに据わった目つきで俺を見た。


「おかしいよこれ」

「どうしたんですか?」

「大凶って書いてある」

「……」

「おかしいでしょ、三人全員大凶なんて」

「……」


 どこかで聞いたことがあるが、そもそもおみくじの中に大凶が含まれている神社が珍しいはずだ。

 さらに言うなら、その中でも大凶の確率なんてどこも1%以下程度だろう。

 確かに異常だ。


「ねぇ芽杏、毎年来てるけど大凶なんて引いたことあった?」

「ないよ、ない。ないですわ、うん。ないよないない」


 完全に精神を破壊されていた。

 虚ろな芽杏は崩れ落ちたまま項垂れている。


「……余程俺達に邪気が憑いてるんじゃ」

「神社に入る前にお清めしたじゃない!」

「そんなんで変わらないんすよ、結局」

「嘘……じゃあわつぃは今後、何を信じて生きればいいの……?」

「知らんがな」


 久々に一人称がわつぃになっているが、指摘はしない。

 というか意外とピュアな人だな。

 神様なんて本気で信じていたのか……


「引き直しますか?」


 尋ねると、杏音は力なく首を振る。


「中身を見て納得したわ」

「どういう意味です?」

「恋愛について色々書かれてた」

「……」


 なるほど。

 たしかにそれは……なかなか当たっているかもしれない。

 俺も改めて中身を見れば、興味深いことが書いてある。

 なになに。


『恋愛 感情を抑え、諦めろ

 願望 願えば破滅に向かう

 病気 恋愛はするな    』


 はい了解しました。

 今年中に俺の恋愛恐怖症は治りそうにありません。

 ざっと見ただけでも恐ろしい。

 ここの神、絶対俺の事嫌いだろ。

 何が気に食わなかったんだろうか。


「最悪ね」

「頑張りましょう」


 気分は悪いが仕方ない。

 神は悪戯好きなのだ。

 それに。


「ほら、お守りでも買いに行きましょうよ。嫌なこと起こるってわかってるんですから対策をね」

「……」


 そう言って俺は未だに倒れている芽杏を起こす。

 するとそんな様子を見ていた杏音が。


「上手い商売ね。大凶で人を不安にさせ、そこでお守りを買わせて収益をあげようとするなんて」


 先程まで神を信じていた女の発言とは思えない。

 一番罰当たりなのはこいつだろう。

 初めて会った時同様、地獄のような雰囲気を纏う杏音に苦笑しながら、俺達は移動を始めた。




 ‐‐‐




 忌々しいおみくじを境内の木に括り付け、怨念を飛ばした後に、お守りを買い漁る。

 俺は縁結び系のお守りと身体健康のお守りを購入した。

 身体健康は、恋愛恐怖症に効くかなーという淡い期待を込めて買った。

 と、隣に恋みくじというものを発見する。


「やりますか?」


 冗談で尋ねたのだが、芽杏と杏音に同時に睨みつけられた。

 今の二人におみくじという単語は禁句だったらしい。

 まったく、地雷の多い奴らだ。

 面倒くせぇ。


 お守りを購入し、バッグの中に無造作に突っ込む俺達。

 もはや神への敬いなどと言う感情はまるでない。


 再びしばらく歩き、俺達はベンチに座る。

 時間も良い頃合いになってきて、人も若干減ってきた。

 凍える風に吹かれながら、自販機で買ったあったか~いのホットレモンを啜る。


「トイレどこにあるのかな」

「さぁ、参道の脇にはあった気がしますけど」

「そう」


 参道は初めにお参りした場所よりも目の場所にあるため、若干距離がある。

 しかし余程我慢できないのか杏音は躊躇せず立ち上がった。


「じゃ、ちょっと行ってくる」

「はい」


 立ち去る杏音を見送り、俺はジュースに口をつけた。

 と、そこで。


「寒いね……」

「……おう」


 重大なことに気づいた。

 杏音が去った今、俺と芽杏が二人きりの状況になってしまっているという事実に。


 気まずい空気感が流れる中、俺達は互いに視線も合わせずに俯くのであった。


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