第14話 私だけじゃあない

 私の声だけが、薄暗く静まり返った教室に響いていく。

 「二日前の夜、両親はまだ帰っていなかった。だから、私以外の人間はいないはずだった。でも、気が付いたら黒い服を着たおじさんが私の目の前に立っていて。知らない人だった。そのおじさんは、私に変なことを言い残しまるで霞のように消えていったんだ。」

 「変なことって、どんなことを言ってたの」と、梨花ちゃんがいつもと違う真剣な眼差しで言った。他の三人も同様で私が話すのを待っているようだ。黒いおじさんが人間でないだろうことは、スルーしていいんだよね。

 「それがね、そろそろ自分の状態に気付いて欲しいって。猶予があまりないって」

 みんなの顔を見ると視線は真っ直ぐのままに表情が強張ったように見える。

 でも、健斗君だけは俯き視線は自身の足先にある。

 私の声が途切れた後は教室の丸い壁掛けの時計の針音だけが急かすように聞こえる。

 「それでね、どういうことなんだろうって考えてたの。そうしたら答に結びつくのかは分からないのだけど、両親のことでちょっとね。最近になって何だか、納得できないというか。私が話しかけても答えてくれないし、目の前にいても見えていないような素振りで。以前はそんなことはなかったし、それに怒っている感じでもないんだよね。だから、黒いおじさんの言葉に関係がある気がして。そんなことを考えてたら気持ちが沈んじゃって」

 一通り話し終え、再び静寂に包まれかけたときに声が響いた。

 「実は、私にも同じようなことがあったの」

 「えっ、加奈ちゃんも。私もだよ」

 「おいおい、俺もなんだけど」

 予想外の出来事にみんな顔を見合わせたが、それ以上声に出すことはできなかった。お互いに動揺しているのが理解できたが、ただ健斗君だけは変わらずに視線を下ろしたままだった。まるで健斗君と私たち三人の間に目に見えない境界線があるように感じるのは、気のせいだろうか。

 その後、私たちは冷え切った体に心まで占領されたようにほとんど言葉を交わすことなく校舎を後にした。

 外は、うっすらと白い雪で染まっていた。

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ともだち 真堂 美木 (しんどう みき) @mamiobba7

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