第9話 空虚な家族

 今日も梨花ちゃん達と意味もなく街を彷徨い時間を潰した。

 こんな夜更けになるまで優等生の加奈ちゃんを含め誰も帰ろうとしなかった。家に帰りたくない理由があるのは私だけではないのかもしれない。


 公園の中を仕事帰りと思しき人が足早に通り過ぎていく。

 明るい時間帯は子供たちのはしゃぎ声で賑やかなこの公園も暗闇と静寂に包まれ、街灯だけがその存在感を際立たせている。


 そっと重い玄関ドアを開けると室内は暗かった。マンションの共有部分のエレベーターホールや廊下のほうがまだ明るい。小さく「ただいま」と、声をしてみたがやはり返事はない。父も母もまだ帰っていない。いつものことだ。

 

 最近の母は、外出する事が増えた。私の帰宅時に不在の時が度々ある。父も以前よりは仕事が忙しいらしく、早朝に家を出て真夜中に帰ってくる日々だ。

 以前の母は、どちらかというと引きこもり気味で殆ど外出しなかった。血液型がA型の母は、一般的によく言われる真面目で几帳面そのものだった。更には完璧を求めるタイプでもあったため、家事に手を抜くことはなかった。

 それなのに最近は雑然とした様子の室内と共に、食事も手抜きが多い。時には私の好きなロールキャベツなどを作ってくれていたりすることもある。だが、美味しいと言っても反応がなく、母はまるで何も聞こえていないように虚ろな瞳でテーブルに頬杖をついていたりする。

 

 母はいったいどうしてしまったのだろうか。いつもどこへ出かけているのだろうか。わからない。静まり返った暗い部屋は、今の私たち家族と重なり空虚感が漂っている。

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