短編 神様二人の小説外短期可能性旅行

@gokoutouki

神様二人の小説外短期可能性旅行(かみさまふたりのしょうせつがいたんきかのうせいりょこう)

舞台は教室、外は日が沈みかけ、オレンジ色の夕焼けが教室を照らす。

光の当たらず、木の板でできた床は薄暗くなっている。

朝日でも浴びてるように僕らはぽかぽかと、赤い空に照らされながら。机の上で寝そべっていた。

僕は青野海(あおのうみ)、一応この中学校の男子だ。そして目の前の机に同じく寝そべっている彼女は緑野大地(みどりのだいち)だ。

紛らわしかもしれないが、海が僕で、大地が彼女の名前だ。

クラスの子からも逆だったらよかったのにと言われてしまうほど、性別に会わない名前で僕らは出会った。

一学期、一緒に過ごしてから僕らはだんだんくだらないことでも語りあうほどの仲になっていった。

ちなみに付き合ってはいない。

そこのところは、まだ考えていない。

夕焼けの光に包まれた教室、自分の秘めた思いを伝えるには絶交の機会だろう、

まぁ、後五分後に隕石が落ちてくるんだけども。

そう、僕らはあと五分後で死ぬ。

隕石が落ちて死ぬのだ。


「ねえ、僕らこのまま死んじゃうのかな?」

「どうだろう、死んじゃうんじゃないかな」

「軽く言うね」

「まぁ、こんな時にまで教室に残っている物好きいないだろうしね…」

「……なんだか、怖いね」

「そうだね」

「…あのさ、最後にさ。やり残したこと、が。な、なにやってるの大地?」

目の前にいる大地は机の上に立ち、何もない空中に向かって手をまさぐって。

「何って外してんの、世界を」

あ、見つけたと言わんばかりの顔を見せたあと

よいしょっとと言って。まるで抜けたパズルのように覗かせた白い空間へとプールから上がるように教室の外へ出てしまった。

「えっ?えっ?えっ?!?」

僕は驚きながらも、気にせず大地は天井からひょこと顔をだし。

「 」

口をパクパクさせて何かを話していた。

「何言ってるの?聞こえないよ!」

と叫ぶと大地は天井から手を伸ばし、僕の手をつかんで白い世界に引き込んだ。

「どう?これで聴こえる?」

「ココァ?」

「ここはそう!小説の外!私たち文章の上にいるの!」

「そんな、縄張りみたいに言われても…ていうか、なんなのこれ」

僕らの周りにはどこかのデスゲームとか、どこかの妖精さんが気の向くままに作ったような。見渡す限りの白世界……だけではなく、なんだか、いろんな言葉が地面が書かれた空間が広がっていた。

「ええっと、これはなに?」

「ぐだぐだした説明とかめんどくさいから省くけど!私は神様なのです!そして世界を越えられるのです!」

「ええ!じゃあ僕らは文章の上にいる……ってこと!?」

「うん!!物分かりがよろしい!」

そうなのか、なんだか分からないけど、意味が分かるような気がするぞ。

「でも、どうして。元の世界じゃなくて、こっちの世界に来ちゃったの?元の世界に戻ろうよ」

「元の世界って?」

「だから!僕らがいたあの学校にだよ!」

「あと何分かしたら死んじゃうのに?」

僕の言葉はそこで止まってしまった。

「なんで、わざわざ死んじゃう世界に戻るの?」

「…それは。…そうだけど。あの世界には僕らが戻る理由があるじゃないか!」

大地は顔に手をあてて、ため息をついた後。足元にある文字をば

あ    ら     ば

            してし

       に         ら     。

ま             た    。     、もう

戻    こと

           す    もで   きない

だろ   「ああ!    う

なんてことを!」

「戻る理由なんて、もうない。でしょ?」

……確かに僕にバラバラになった文章を戻すなんてことできそうにもない。

それに、断ったらどうなるのか。僕もバラバラにされてしまうんじゃないかという恐怖が僕を包む。

「はい。…でもさ、だったら僕らはこれからどうするの?どうやって。いや何をするの?」

僕は胸にたまった不安を喉から出すように大きな声で訴えた。

大地はその言葉を待ってましたと言わんばかりに。

「私たちはね、これから探すんだよ!──────新しい生き方、を、さ!」

と大海原に向けて指をさししめる船長のようなポーズをとり。声高らかに叫んだ。

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「探すってこの白い世界の中で!?」

と僕も大地と同じくらいの声を出して叫んだ。

「もろちん!」

「そこはもちろんって言ってよ…女の子でしょ?」

「良いかい海、私たちはもう文章に囚われてないんだぜ?つまり私たちは性別も超えた存在ってことさ!」

大地の手が僕の尻に触れた。

「ちょ、どこさわっ。ひゃん!」

「ということはね。私は設定上女だけど。ここだと私は女でも男でもあるんだ、BLだって、GLだって、百合だって、薔薇だって、純愛だって!まぁ、寝取られは厳しいけど…とにかく!なんだって可能ってことさ!」

僕はそのまま押し倒され。

「ちょっとま!あ!アーーーーー!!!!!」

……………………………………………………………あとは言うまでもない。

──────────────────────────────────────

僕と大地は地面に空いた白い穴の空間から顔を出し。

「…なにこれ」

と全くわけが分からない展開を理解したくもなかった。

そんな状況を見て取れたのかこの話の補足をするように。

「これはそうだね、私たちの未来に起こるかもしれない状況だ」

と大地は説明した。

「僕が犯されてるじゃないか!」

と声を張り上げる。だけど大地はそんなこと意にも介していないようで。

「そうだね、まぁ。神様って大概はお盛んなんだし普通こうなんじゃないの?」

と言ってまた別の空間を探しに行ってしまった。

「えぇ〜」

僕は見失わないように大地についていく。

歩きながら大地は次の展開についても説明してくれた。

「ちなみに次の章で私は誰かから顔中ぱんぱんのボコボコにされる」

「ダ、ダイチッ!?」

「なんだい?」

「いや、なんだろ。…まぁ、気にしないで。」

僕たちが今新しい可能性探しをしている。僕たちはあのまま教室にいたら死んでしまう運命にある…けど、物語にはいろんな可能性があるらしいのだ。ハッピーエンドやバットエンドにメリーバットエンド。その他バットエンド、エトセトラ、エトセトラ、エトセトラ!バットエンド多くない?と思うかもしれないが、そこはまぁ許してくれ。で、その可能性を探すには、さっきみたいに地面に刻まれている穴に顔を突っ込めば、それがどんなストーリーなのか知れるってわけ。あと、こうやって可能性を探すのは神様しかできなくて、空間を認識すれば神様になれるって言っていたけど。まぁそこらへんは難しいのでよくわかりません。あとこれだけは言っておけって大地から。ええっと。なんだか短期のりょ、旅行?みたいだね?だそうです。タイなんとか回収っていってました!

「おいおい、そこまで言わなくていいの!」

「あ、そうなんだ」

「よし、じゃあ次はこの世界だ」

地面に空いた空間に僕らは顔を突っ込む。

ずずずぷん!っと粘着質な液体に触れた音が世界に響く。


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ゴゴゴゴゴゴゴと緊張感を表すような不快音が鳴り響く。

「裁くのは俺の幽霊だぁー!!!!」

と空中から衝撃が走り目の前のヤンキーがぼこぼこにされて飛んで行ってしまった。

どごぉ!と鈍い音が響く。

そして大地は決め台詞かのように同じ単語を口走っていた

「ダイダイダイダイダイダイダイダイダイダイダイダイダラァア!!!!」

叫び終わったのだろうか、倒れた僕に手を差し伸べて。

「俺は緑野・ジョー・テイダイチ。あ、テイダイチは定大地ね。皆んなからは、ダイチって愛称で呼ばれてる」

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「コラ」

と僕は隣に座る大地を小突く。

「お、どうした海一」

「小説外まで波及させるんじゃないよ!」

「波及…?そうか貴様!遊波及(ゆうはきゅう)の使い手?!」

「(小説と)同じタイプの遊びのノリ?!」

「次に行くぞコラァ!」

「口調戻しなよ…」

僕らはまた世界を探すため、足を進める。

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もうヤダァ!こんなの!書きたくない!?


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すぐそばの世界を通った瞬間。大きな声が響いた。

「なにあれ」

「あれは別の神様ね。毎回動く絵を見て、時間を潰してるバカよ。さっさと作ってしまえば良いのにね。」

「もうすこし、優しくしてあげようよ…」

「つまんないからあっちいきましょ!」

「…うん。」

僕らはまた足を進める。

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「なぁ、海。私たちどうなっちゃうのかな…これから死んじゃうの、かな?」

隣に座る大地がか弱い声で僕に問いかける。僕は大地と自分に向かって。

「死なせない。僕が大地を死なせてなるものか」

とできる限り出せる声で自分を鼓舞する。

「こっちだ大地!」

大地とすぐそばの路地に逃げこもうとするが。先回りをしていたのだろう、僕たちの行動などおみとおしであるように、奴らが待ち伏せていた。

ここで倒すしかないのか…。

「出会え出会え!殿中じゃ!殿中でござる!」

「あばー!やーらーれーたー!」

と言って僕はベットに倒れこんだ。

「カット!」

と言った瞬間に大地の演技が終わり。

「おぼっちゃまお小言で御座いましょうが。おそらくですが読んでいる人が困惑なさっていると思われます。ご説明を」

と言った。

「お、そうか。何、僕と大地、貴族とメイドが西洋風の屋敷の中で殿中ごっこやってるだけじゃないか。」

と言ってまるで何かの機会をうかがうように

「そうでしたね、このオス豚!」

と言って僕の尻を鞭でいい音で叩いた。

「ブヒィ!」

屋敷にあさましい僕の声が響き渡った。

──────────────────────────────────────


「なにこれ」

僕はもう脳死で大地に問いかけていた。

「これは説明がめんどくさいな…」

僕はとにかく答えを急かした。

「とにかくしてよ」

大地はすこし、ううむ、と唸り。

「わかったよ、ええとMっ気のある貴族の海くんとSっ気があるかはわからないメイドの私がでかい屋敷の中で江戸時代かそこらの殿中ごっこをした後でそれをメタ的に指摘されて海くんが鞭で私に叩かれる可能性だね」

「Mっ気のある貴族の僕とSっ気があるかはわからないメイドの大地がでかい屋敷の中で江戸時代かそこらの殿中ごっこをした後でそれをメタ的に指摘されて僕が鞭で大地に叩かれる可能性だって?!」

声が屋敷と同じく世界に響く。

「そうだよ、そのままで言わなくても良いじゃないか」

「なんか言ってみたくて」

「まぁ、気持ちは分かるけども」

「じゃあ次の可能性に行こう」

僕らはまた足を進めた。

「ねぇ、大地」

と言って僕は立ち止まる。

「なんだい?海?」

「僕らの、本当のストーリーはどうなる予定だったの?」

大地は僕の方を見て唇をつきだし。

「本当は私たちはキスをして隕石に潰されて終わり。それもディープなやつ」

と軽く言いはなった。

「うわぁ」

「うわぁって何」

「いや、死んじゃうのかってことよ」

軽く僕らに沈黙が訪れる。

「まぁね、死んじゃうもんね」

歩き進める中で、僕は今まで思っていた疑問を大地にぶつける。

「ねぇ、僕ら小説の外に出てはいないんじゃない?」

大地は立ち止まり、もう一度僕の方を振り向く。

「どうゆうこと?」

「僕たちは小説から出た。けど、そもそもこれは世界を抜け出したっていう小説なんだろう?だから…。これは小説の外の物語…だと思うんだ。僕らは小説の外には出ていないんだよ」

「…つまり?」

「つまり、僕たちの話には可能性がないんだ」

僕はそのまま話を続けた。

「僕らには…終わりが決まってるんだよ」

神妙な面持ちで聴いていた大地はすぐさま元の向きに直り。

「なーんだ。そんなことか」

と言ってのけた。

「そんなことってなんだよ」

「だってそうでしょ?もし私たちが人間だったとしてもどうせ死ぬ。神様でも物語が終わったらその後の人生はなく実質死ぬ」

そして大地はそっとつぶやくように。

「もともと決まってるものなのよ、こんなのは」

と言って。僕の手を引っ張り。

「次の世界にいきましょ」

と言って僕らは世界そのものに飛び込んだ。


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「ここは?真っ暗で何も見えない」

目の前には暗い世界が広がる。大地の姿すら見えることはない。

手を振って大地の姿を探していたら。急にどこからか僕の手を握られた。

「ここは終わり」

大地の静かな声が響く。

「へ?」

「終わった後の世界ね。隕石が落ちた後ってことよ」

カラカラと砂が舞ったような音が耳に響く。

「…何もないね」

「…そうね」

僕は不安に駆られて大地の手を握り返す。

「……なら、何か作らない?世界を飛び越えた僕らなんだ、それなら!作ることだって」

握られた手を大地の方からも握り返される。

「いや、作らなくて良いわ」

雨だろうか、ぽたぽたとした音が微かに聞こえ。

「もう…私たちの家に帰りましょ」

僕らは手を握りながら世界を飛び出した。


──────────────────────────────────────

元の世界にもどると、世界の時が止まっていた。時計の針は午後四時十三分を指し。空には隕石の表面が少し見えた。

…近くで見る月もこんな感じだったのだろうか。もうそんなことを確認するすべもないのだが。

「じゃあ、時を進めるよ」

「すごいな、そんなこともできるんだ」

と言うと。まるでその後の言葉が決まっているように。僕の口からこぼれだす。

「空が赤いや」

「隕石が落ちるからね」

僕と大地はお互いに向き合い。

「キス…する?」

と僕の方から、誘った。

「そりゃあするさ。物語に従うのが演者ってものだからね」

大地はまるで何でも知っている神様見たいな口調で言ってのけた。



僕たちには続きが存在しない

どこまで行こうとも終わりがあるのだ

だけど、終わりに向かうまでには数えきれないほどの道を歩むことができる。

だから可能性を信じて進んだ方がいいのだろう。

だから大人も小言みたいに酸っぱく言うんだろうな。前向きになれって。


──────────────────────────────────────

もうそこにはただひたすらの闇が広がっていた。


どこにも声を掛けようにも返事はない。


人も自然も水も全て滅んでしまった。


そこには何もないが確かにあった。




エンド?










声が聞こえる。

「…もう一人いるから寝取られもできたな」

と、ひょこっと顔を出した大地がしかめっ面で言った。

「まだ言うか!」

と反射で僕は突っ込んでしまう。

「…あのー?すいません」

声のする方を向くと、僕らと比べて少し小さい男子とも女子ともとれる、白い髪をした子供が存在した。

「あれ私たちの死んでない?」

「あ、ほんとだ、まだ生きてる」

お互いに顔を合わせたあと、思い出したかのように子供の方を向く。

「ちょっとした手違いをしてしまって。実はこの物語終わりがないが終わりなんですよ。だから可能性は無限大なんです」

「「そうなんですか?」」

僕らは立ち上がり、何もない地平線を見渡す。

「じゃあまた何処かにでも行こうか」

大地はいつものようにそう言ってのけた。

「何処かってどこに?」

海は大地に聞き返す。

「どこでも良いじゃないか」

そして。すこし、間を置いて。

「僕らには可能性があるんだ。どこだって行けるさ」

「そうだね」

僕らは心の準備がひと段落した後。

「おーい!そこの君!」

「なんですか?」

「君も一緒に旅をしないか?僕ら二人だけじゃ飽きてしまいそうなんだー!」

とさっきの子供にも声をかけた。

「良いですねー!ぜひご一緒させてもらいますー!」

子供は元気な声で僕らの誘いに乗った。ぱたぱたとこちらに走ってくる音が聞こえてくる。


物語はこれで本当の本当に終わり、だけど彼ら三人の可能性は続く。

この世に可能性のある限り…。


神様二人の小説外短期可能性旅行 終


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