第5話


 革命はドンドコ帝国の南、ルンルン地方にまで広まって行った。


「何だ何だ楽しそうじゃん。フゥー!」


 そう言ってルンルン地方での革命を主導したのはタローという一介の労働者である。彼は独特のノリでみんなを盛り上げ、積極的にストライキを呼びかけた。


「君もあくせく働いてないでさ、仕事サボってデモに参加しようぜ! もう負け戦はうんざりだってな! 皇帝をやめさせて、戦争をやめにしようぜ!」


 一人一人に声をかけて回る。

 多くの労働者は彼の言葉に頷き、デモ隊に加わった。

 だが、そうでない者も中にはいた。


「いやだね」


 そう言ったのは、工場労働で収入を得つつ謎の書籍を出版している男、サエブキである。


「こんなことして何になる。ドンドコ帝国が負けるだけじゃないか。そんな屈辱をドンドコ民族が受けていいとでも思っているのか?」

「ん? よく分かんねぇけど、これ以上戦争を続けても俺たちの生活が悪くなるばっかりだぜ!」

「これは総力戦なのだ。勝利のために国民が耐え忍ぶのは当然の義務。それをサボタージュだストライキだなんて、とんでもないね! 俺は絶対に嫌だ」

「うーん、そっか! じゃあ達者でな!」


 タローは諦めて他の工場を回ることにした。

 集団を連れてたくさんの職場を練り歩き、次なる会場は大学である。


「みんな! ストライキやってるかーい!?」

「君、待ちたまえ」

「ん?」


 タローを呼び止めたのは一人の大学教授だった。


「私は君のことを応援しているよ。頑張りなさい」

「それは、ありがとな! 頑張るぜ!」

「ところで失礼ながら、君は革命理論について深く知っているかね?」

「革命理論? とにかくみんなの力を合わせてドーンと派手に国を倒すんだろ?」

「誤りとまでは言わないが、ちと違うな。どうかね、今後は私の元に通って、革命理論について学ぶというのは?」


 タローはうーんと首を捻った。


「俺は頭が悪いから、そういうのができるとは思わないな!」

「いや、いや、頭の良し悪しは関係ない。革命理論は労働者のためのものだからね。労働者を率いる以上、少しは革命のやり方について知っておいた方がいい」

「……それは確かにな! いいぜ、俺に革命を教えてくれ! 先生!」

「教授と呼んでくれると嬉しい」


 こうしてルンルン地方での革命も着々と進んで行ったのであった。


 北の町から南の町まで広まった革命の熱も、最高潮に達しようとしていた。

 民衆の力というのもなかなか侮れないものである。


 事態はいよいよ収集がつかなくなっていた。

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