12月:師走(しわす)

「華先輩は、自分の作品の感想って貰ったら嬉しい派ですか?」


12月24日。冬休み初日の昼下り。

2人きりの漫研の部室で、後輩の冬月くんは、藪から棒にそう切り出した。


「うーん。まぁ嬉しい派かなぁ」


今日刷り上がったばかりの漫研合同誌"四季"。合計30部。

年末の即売会で頒布する予定のそれを、パラパラとめくりつつ、私は答えた。


「少なくとも、感想が言えるくらいは読んでもらえたってことでしょ?それは嬉しい」


「そういうものですか」


自分から訊いた割には、気のない声で返事を返す冬月くん。

すぐに合同誌に目を戻し、淡々と読み進めていく。


言葉少なにクールな、いつも通りの彼の仕草ではある。

が、しかし。いつもより少し、心なしか浮ついたような気配がしたので。

少しつついてみることにした。


「えー。何? 処女作を前にして、ナイーブになっちゃいましたか?」


「いや、そういうわけでは、ないんですけどね」


「大丈夫ですよ、ほら、アキくんもなっちゃんも、面白いって言ってたじゃない」


「それは、まぁ。恐縮です」


冬月くんが寄稿した短編16pの読み切り漫画"春"は、部内での評判も上々。

書き始めて1年とは思えない仕上がりは、部長の私も認めるところであり、

可愛い後輩の作品という贔屓目抜きにしても、それなりの反響は期待できそうなものだ。

ナイーブになったわけではない、という彼の言葉に嘘はないだろう。


「じゃあ、どういうワケなわけ?」


「いや、どう、というほど大したものじゃないんですけど」


「けど?」


「感想とかそういうの、あんまり考えたことが無かったもので。どういうものかなという興味があっただけです」


ペラペラ、と彼のめくるページの音が、こころなしか少し早くなる。


「例えば、初対面の人や顔もわからないような不特定な誰かから貰う感想と、夏美とか彰彦先輩みたいな、知ってる人からの感想とじゃ、聴こえ方が違うじゃないですか」


「あー、ね」


「だから、まぁ、それだけです」


冬月くんは努めて淡々とそう結ぶと、ペラペラとページを戻し、また最初から合同誌を読み始める。

なんとなく、彼の言いたいことは分かった気がする。そうかそうか。それなら私も、先輩として恥ずかしくないモノを用意しなくてはいけませんね。

そう思い、私も彼に負けじと、合同誌へと目を落とす。部室の時計は、12/25まで、あと10時間を指していた。

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