第19話 それぞれの道 

 九月1日、会社から全社員に重要な発表があった。

 当初の計画とはすこし違ったところもある。


 ⒈ 玩具部門はある大手流通グループの子会社として存続する。

 ⒉ 機械販売部門・リース部門は解体し、リース部門はある中堅リース会社と統 

   合する。

 ⒊ 機械販売部門は縮小し、引き続き売却交渉を続ける。

 ⒋ その他事業は精算する。

 ⒌ 精算の日時は九月末とする。

   以上のような内容であった。


 狩野は玩具部門の管理職となって、新会社に残留することが決まっている。


 紺野は拿捕事件の関係者ではあったが、警察が事件として扱っていないため何も問

 題とはされなかった。

 ただ長期欠勤があったため、若干のお𠮟りを受けただけで終わった。

 つまり〈無かった事〉とされた。

 しかし自らの意志で会社に残ることはなかった。


 橋本も同様に何も罪に問われることはなかった。

 橋本がそれまでに、本社に送った手書きの報告書があまりにも多く、解読不可能と判断されたためである。

 つまり(無かった事)とされた。


 松野も管財人の調査を受けていたが、元となる資料がほとんどなく、解明せぬまま 

 調査は打ち切りとなり、結局(無かった事)とされた。


 原島と狩野、紺野の親友三人は電話での別れとなったが、それぞれ新しい道を歩きはじめていた。


 狩野は彼女と結婚することになったという。

 あいつもやることはやっていたらしい。

 彼女もタレントよりも、家庭をもつしあわせに気付いたらしい。

 狩野は新会社の管理職だ。

 おめでとう。


 紺野はビール会社の関連企業の面接で、いい感触があったという。

 自販機にドリンク類の供給をする仕事だとか。

 けっこう大きいトラックの運転をすることになるのだろう。

 気をつけて走れよ。

 来年、春には子どもができると言っていた。

 由紀子の父も養護施設に関係する仕事に就いたらしい。

 おめでとう。


 さて、おれだ、松野と同様にその他の部門にいる。

 陰でいわれていた第三事業部だ、精算され無くなる部門である。

 しかも入社以来七年間、おれは何をしてきたというのだろう。

 松野の率いる裏部隊の、最後の姿を晒しているだけだ。

 ひとには言えない汚い取引きを、松野に命ぜられるままにやってきただけだ。


 このあとおれは、どんな生き方をすればいいのだ。

 ジョージイとの新しい生活が始まる前に、原島の胸中には小さな不安の芽が生まれていた。








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