〝ざまぁ〟の対価・ラスト

 元クラスメイトの顔をしたオークどもを、皆殺しにしたオレは、最終目的地の魔王の家に向かう前に王国の城に立ち寄った──。

 どうせ、粗末な魔王と魔王の妻がいる魔王の家の周辺には、また大嫌いなクラスメイトの顔をしたオークどもがウロウロしているから、森のオークを皆殺しにしても、なんの問題もない。


 城では玉座に座った国王と王妃、それと姫がオレを出迎えてくれた。

 王の一家がオレに膝まずき、王が言った。

「おぉ、偉大な勇者どの……魔王を倒して、この国を《冒険続けますか?》救ってくだされ」


 オレは蔑んだ目で、地位と権力と財を持った者を見下ろしながら王に言った。

「人にモノを頼む時は、それ相当の報酬というものが必要だろう……姫をオレに差し出せ、パーティーに加えて慰み者にする」

 驚く国王一家、オレのチート能力『絶対服従』には国王も逆らえない。

 泣きながら姫を抱き締める、王妃のババアを蹴り倒してオレは、学生時代に告白したオレを、冷たくふりやがった女子生徒と、同じ顔をした姫の腕を引っ張り立たせると。

 姫の唇を、強引に奪ってやった。


 唇を奪われ、茫然としている姫が言った。

「あ……《冒険やめますか?》そんな」

「うるせぇ、あの時、オレを冷たく扱いやがって! てめぇの両親が金持ちの国王と王妃だと! ふざけんじゃねぇ! ざまぁぁぁ!」 


 オレは、ついに魔王の粗末な家に到着した、魔王と魔王の妻はオレが大嫌いな毒両親の顔をしていた。

 クラスメイトの顔をしたオークどもを、笑いながら斬り倒し、切り刻み、死体の山を築きながら。

 鼻唄混じりに家に飛び込んだオレの目に、部屋の隅で怯えている、毒親の魔王と魔王の妻の姿が映る。

 オークの血飛沫を浴びたオレは、剣を振り上げて叫ぶ。


「くたばれ魔王! もう謝っても遅いぃぃ! ざまぁぁぁ!」

 剣を振り下ろして、毒母親の顔をした魔王の妻を斬り殺した勢いで、毒父親の顔をした魔王の胸を剣で背中まで突き通す。

 断末の魔王。

「ぎゃあぁぁぁ! 《冒険契約終了です……継続はもうできません……強制ログアウトします》おのれぇ勇者!」

 突然、オレの意識と視界が途切れるようにブラックアウトした。


 次にオレの意識がもどった時、オレは病室のような場所の寝台に寝かされていた。

 サンバイザーを通して見える天井は白く、オレの周囲には白衣姿の数人の男女が立っているのが見えた。


 オレの頭に装着されていたVR装着みたいなモノを外した、初老の男性がオレに向かって言った。

「気分はどうだ? ずいぶん長いこと、現実逃避していたな」

「???」


 初老男性の隣には、ダークエルフそっくりな顔をした白衣の女性が、オレを蔑んだ冷たい目で眺めていた。

 ダークエルフ顔の女性が、吐き捨てるような口調でオレに言った。

「やっと、あんたの担当ストレスから解放されたよ……前任者から担当を引き継いだ時は、まさかこんなに長期間に渡るとは思わなかった」


 白衣ダークエルフの、無愛想な口調は続く。

「大変だったんだからね、ムカついた女子職員をなだめて、生命維持装置を停止させるのを防ぐのは……年に何人も生命維持装置停止させられて、死んでいる人もいるんだからね感謝しなさいよ」


 オレは、少しずつ思い出した。

 政府の【仕事税後払い徴収法】──働きたくない若者に好きなだけ仮想の世界で遊ばせて。


 登録契約した歳月を過ぎたら『強制労働施設』に送られ、終生労働して労働税を国が徴収するシステム。

 オレは、今が楽しけりゃそれでいいやと、未来に労働して徴収される税のコトなど、まだまだ先の話しだと気楽に考えて。

 仮想現実世界の異世界ゲームに登録して、長年に渡り異世界での冒険を楽しんできた。


「幾度も仮想世界で、現実にもどってきて働くか……どうするかの選択のチャンスを与えたんだがね。早めに現実世界にもどってきて働けば、短い期間の強制労働で済んだのに……君は長く遊びすぎた」

 初老の男性はオレに、手鏡を見せた。そこには中年男性の顔が映っていた──登録契約した時は二十代の若者だった。


「さあ、お喋りは終わりだ……強制労働施設に連れていって、たっぷりと働いてもらうぞ」

 オレの首に銀色の首輪のようなモノが装着されて、屈強な男たちがオレの腕をつかむと、寝台から床にオレを立たせた。

 オレは恐怖で叫ぶ。

「い、いやだぁ! 働きたくない! そうだ、社会保障だ! 年金とか生活保護を前倒しでもらえば、働く必要は……」

 部屋にいるオレを除く男女が笑い出す。

「あははは、社会保障だと、どんな冗談だ……ずっと遊んでいた者に、そんなものが適用されるワケないだろう」


 ダークエルフ顔の女性も。クスクス笑いながらオレに言った。 

「ついでに教えてあげるけれど、もうあんたに帰る場所なんてないからね。あんたの家はとっくに両親が売り払って。今は他人が住んでいる家だからね」

「そんなぁ」


 初老の男性がオレに、用紙のようなモノを見せて説明する。

「強制労働施設で得た賃金は、すべて徴収される……娯楽もなく、食べて、寝て、働くだけの人生だ……心配するな最低限の食事と最低限の医療は保障してやる」

「オレから徴収した金はどうなるんだ?」

「貧しい人や、仮想世界で今も遊んでいる者たちのシステム維持費に使われる」

「あたしたち、職員の給与にも。あんたが働いた賃金は使われる」


 オレは必死に労働から逃れる方法を考える。

「そうだ、体が不調で働けなくなったらどうする? いくら医療保障されていても、そんなケースだってあるだろう」


「心配するな、その対策も、おまえが遊んでいる間に政府が確立させている……健康な死刑囚から、精神や人格を抜き取った肉体に、移植して働かせる……肉体の有効な活用方法だ」

「死刑囚の肉体に別人の精神や人格を移植……そんな非人道的なコトが許されるはずが……」

「できるようになったんだよ……話しは終わりだ、連れて行け」


 屈強な男二人に両腕をつかまれて、部屋から通路に引っ張り出されるオレ。

「いやだぁぁ! 働きたくないぃ! いやだぁぁぁ!」


 背後からダークエルフ女の嘲笑う声と、オレに向かって浴びせられる。

「もう、謝っても反省しても遅いぃぃ! ざまぁぁぁ!」


  ~おわり~

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〝ざまぁ〟の対価 楠本恵士 @67853-_-

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