小説。 人混み(仮)

木田りも

人混み(仮)



やがて人混みに消えていく。

そんなあなたを見つめている。

少しずつ少しずつ遠くなっていく彼女がいて、また会えるという保障もないまま、彼女は1歩1歩遠ざかる。あなたを見つめているだけで泣きそうになる。わがままを言ってあなたを困らせたり、もっと長い時間、無理矢理一緒にいることも可能だが、そんなことをしてはいけないのは分かっている。

ただ、寂しいだけ。


いつも一緒だった。生まれた時も、育った場所も、通った学校も。いわゆる幼馴染で、僕はずっとずっと恋をしていた。あなたの後ろ姿を見ていて、ついていく。1歩1歩進むあなたを見て1歩1歩ついていく。また明日と言って、明確な明日を待つ僕たち。いってらっしゃいとおかえりなさいを言い合える関係。


妄想だけならここまで進めるのに、実際はまだまだ途中で。途中なまま、社会人になって、途中なまま、会える回数が減った。

また明日、がまた今度、になった。今度は明日よりも遠い時間を現していて、明確さが減った。きっとこれからもっともっと、今度が増えて、今度が遠くなる。だから、


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私の話を聞いて欲しいのですが、仲の良い友達がいるんです。幼馴染で、もう何年も付き合いがあって、振り向いたらいつもあなたは笑っていて、そこにどこか安心していたんだと思います。この人はきっとずっとそばにいてくれる。だからこそ私はここからどこへだって行けるって。安心できる家があるから人はそこから安心して離れることができるんだって。そう思っていたことが私の何よりの間違いです。家というものは永遠にあるわけでもなく、例えば火事とか地震とか、そのほかにも掃除をしなければ汚れてしまうし実は割と気にかけなければなりません。人混みを歩いていると、あぁ、自分は社会の一員なんだなぁと胸を張って生きていれますが、家に帰って誰の目にも触れられなくなると途端に怖くなります。私はまだ何にもなってない。仕事をしてお金を稼いでそのお金を使って食べ物を買い、食べて排泄して寝て起きてまた仕事。生産的なことは何をしているだろうと毎日疑問が溜まっていきます。家の埃と同じようにたまっています。だから、私はあなたが思うような人では無いと思います。


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遮るようだけど、それは大丈夫。

だって僕も同じだから。僕は昔から言葉だけが達者で本に書いてあった名言とか思考をあたかも自分が思いついたかのように発表し、周りから賞賛されていた。そのことに罪悪感を感じる時があり、自分って何なのだろうと思っていた。本から影響を受けるのは至極、当然のことである、と自分を受け入れて進んでいき、突き当たりを右に曲がりまた前に進んでいくようなそんな毎日を過ごしていた。だから、時折り、この言葉が口から出まかせなのか、本心から言っているのかわからなくなっている時がある。そんな時は決まって僕の目を見てほしい。まっすぐあなたを見つめている時ほど、それは嘘である可能性が高いから。僕は根っからの天邪鬼なのだ。


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では、一緒にいてみましょうか?

そんなふうに聞いたのは私からでしたね。何も勢いで言ったわけでも若気の至りというわけでもなく、ただ。どうしようもなく気になったんです。ほんの少しの感情なのですがあなたにはきっと恋をしていたんだと思います。人は案外思い立ったら行動できるものですけどあの時ほど直感で動いた時はありませんでした。でもあの頃はとても楽しかった。

何をしていてもワクワクしていて、人生の最盛期とでも言いましょうか。今しかできないことをたくさんしたような、そんな気がします。生き急いでいたとも言えますが、人生がこんなに長いことを知ったのもあなただし、思ったより短いと感じる時もあなたでした。もちろんこの儚さも。

別れの時、人混みに消えていくあなたに何度も手を振りました。決まって見失うあなたをどこか面白く、どこか寂しく思ったものです。でもまた明日がある。そう思っていた日々が続いていました。誰しも、あの頃、と呼べる時期があると思いますが、私は1番、あなたといた時間をあの頃、と呼びたいです。


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(1人が人混みへ消えていく夢を見る。それはまるで人生のような、長く短く、儚いものであったと悟り、やがて1人は返事をしなくなる)


(しかし、どこか、笑顔である。)


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いってしまいましたか。人混みに。

私はあなたがまた明日どこかにいてまた会えると思っています。だから人混みに消えたあなたを待つように、残り少ない人生を生きてみようと思います。本当にあっという間でした。ひとつだけわがままを言えば、あと1秒でも長く一緒にいたかったです。


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(あなたの誕生日、あなたは亡くなる。私はあなたの誕生日を祝う。あなたは笑顔である。)


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おわり。


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あとがき

 いつのまにか社会人になった。もう11月でこれから北海道は雪が降る。しかしこれを書いた今。いつのまにか社会人になった、と思った。小学生、中学生、高校生、大学生。合計約16年間も学生という立場だったのに、過ぎてみると2〜3年のような、(流石に言い過ぎだが)感覚に陥る。しかし、思考はまだまだ学生気分であり、甘い考えは拭えていないと思う。案外、子どものまま大人になってしまったなぁと最近思うようになった。そんな気持ちで書いたこの小説は、人生で1番楽しい時期を想像した話である。今はどうしても若い時期が人生で1番楽しいだろうとか考えてしまうが、きっとこれからも楽しいことはたくさんあって、けどどれもあっという間で、あっという間にその時を迎えてしまうのだろうかと考えてしまう。でもいつも思うのは、最後の最後に、ほんの少しでも笑えたら、僕は満足だしそう思える人生を送れるように努力しよう、なんて思うのだ。そんな希望を書いた作品である。読んでくれた皆様に感謝する。

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小説。 人混み(仮) 木田りも @kidarimo777

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