第24話 圧倒

勝ち抜き戦が終わり、25名まで受験生は絞られた。

最後は試験官である騎士との手合わせで実力を測り、極地騎士団への合否が決定する。


俺の対戦相手は――


「弟が世話になったみたいだな」


――ゲイルの兄だった。


名前はゲイズ。

茶髪で、年齢は20代半ば程。

兄弟だけあってその顔はゲイルとそっくりである。


「礼には及びませんよ」


受験生同士の対戦表所か、担当騎士を自分にしてしまう。

ここまで強引な真似が出来ると言う事は、極地騎士団内での立場はそこそこは高い様だ――俺の事を知らされていないので、あくまでもそこそこだが。


そんな奴が試験に私情を挟むなよな。

全く。


「貴様のせいで、弟の入団が先に延びちまった」


……こいつが相手だと、適当に相手をしたら試験に落とされかねないな。


最後の審査では、初めっから力を見せつけるつもりだった。

勿論、担当してくれる騎士に恥をかかせない程度で、だが。


けどこいつ相手なら、その心遣いも必要ない。

グゥの音も出ない様、徹底的にぶちのめすとしよう。


「策士策に溺れるって奴ですね。彼の実力なら、俺にさえ当たらなければ合格できてたでしょうに」


天才だった弟は試験に落ち。

その兄は今日ここで、受験生にぶちのめされて大恥をかく。


兄弟そろって厄日もいい所だろう。

まあ完全に自業自得だが。


「まるで、自分は合格するかの様な口ぶりだな。まだ決まった訳じゃないんだぞ?」


「しますよ。貴方を徹底的に打ちのめして、実力を証明しますので」


「貴様……」


俺の挑発にゲイズが青筋を立てる。

12歳の子供の挑発に怒り心頭とか、騎士としての精神修養が全く足りてなさそうだ。


「どうやら、お前にはきつい教育が必要な様だな」


「それは楽しみですね。ご指導宜しくお願いします」


俺は笑顔でそう返す。

目の前の男がどんな指導をしてくれるのか、楽しみで仕方がない。


「口の減らないガキめ……さっさと試合を始めろ」


「分かった。試合開始だ」


ゲイズに促され、審判が試合の開始を告げる。


「簡単に降参すんなよ!!」


ゲイズが一気に間合いを詰めて来た。

そしてギリギリの間合いで剣を振り上げる。


無駄の少ない、中々いい動きだ。

この実力なら部隊長ぐらいは任されていそうだな。


「オラァ!」


奴は勢いそのままに、大上段から俺に向かって剣を振り下ろす。

剣には、オーラブレードの光が宿っていた。

もしそのまま受ければ、手にした木の剣は粉砕されてしまうだろう。


ので。

俺も素早く剣にオーラを纏わせ、それを正面から受け止めてやる。


「これを受け止めるとはな。流石に弟に勝っただけあるじゃねぇか!だが……こいつはどうだ!」


攻撃を俺に受けとめられたゲイズは一旦素早く下がり、今度は袈裟切りに打ち込んで来た。

その動きは先ほどより鋭い。

どうやら、一応手加減はしていた様だ。


ま、受け止めきれずに大怪我させたら問題になる訳だからな。

小手調べを入れて来るのは当たり前か。


「よっと」


俺はゲイズの一撃を躱しながら、軽く奴の手の甲に木剣を叩きつけた。


「ぐぁっ!?」


その衝撃に、奴は手にしていた剣を取り落とす。


「おや、手でもすっぽ抜けましたか?」


「ぐ……」


「どうぞ、拾ってください」


俺はこっちを睨むゲイズに、笑顔でそう言う。


ゲイルの時は、落とした剣を蹴り飛ばして拾えない様にしてさっさと試合を終わらせた。

やった事は悪質だったが、それでもあいつはまだ子供だったからだ。

それに騎士団試験に落ちた訳だし、それ相応の罰は受けている。


だがゲイズは違う。

騎士団員がその立場を利用して、試験を私物化したのだ。

しっかりと痛い目にあって貰う。


「く……まぐれが入ったぐらいでいい気になるなよ」


どうやら、奴は今の一撃をまぐれと判断したらしいな。

腕の割には、判断能力は高くない様だ。


「もう油断はせん!」


剣を拾ったゲイズが、間髪入れず攻撃を仕掛けて来た。

俺は再びその手の甲に、素早く一撃を加えてやる。

今度はさっきよりも少し強めだ。


当然奴はもう一度剣を取り落とす。


「つぅ……」


「また落ちましたよ。剣はちゃんと握っておかないと。ひょっとして、習ってません?」


「こ、小僧が……まぐれが二回続いただけで調子に乗るな」


二度続いたら、それはもうまぐれではないと思うのだが?


奴は素早く剣を拾い。

三度斬りかかって来る。


当然まぐれだと思っているので、そこに創意工夫は込められていない。


つまり――


「がぁっ!?」


――同じ事が繰り返されると言う事だ。


三発目は更に強く打ち付けてやった。

剣を取り落としたゲイズは、傷みに掌を押さえている。


「いやー、まぐれが三度も続いちゃいましたね?」


「……」


軽く挑発するが、特に反応は返ってこない。


流石に三度も続けば此方の実力。

そして、自分が何をやられているのかには気づけた様だ。

奴は無言で剣を拾い、真剣な表情で正眼の形でそれを構えた。


「認めてやる。スピード。それに技術。どちらも俺より上だ」


奴の手にした木の剣が、強く光り輝く。

何か仕掛けてくる様だ。


「だがそれでも勝つのは俺だ。お前に教えてやろう。戦いに置いて最も重要な物。それは……パワーだ!!」


ゲイズが叫ぶと同時に、奴の剣を覆うオーラが爆発したかの様に一気に膨れ上がる。

どうやら技術では敵わないから、必殺のパワーで俺を圧倒するつもりの様だ。


「おいゲイズ!」


殺す気満々の一撃を放とうとするゲイズ。

それをみた審判が慌てて制止しようとするが、奴はそれを無視して必殺の一撃を放つ。


「オーラバスター!!」


奴の剣からオーラで形成された刃が放たれる。

その威力に耐えられなかった木の剣は、放つと同時に粉々に砕け散ってしまう。


――オーラバスター。


オーラバスターは、オーラブレードの発展形のスキルの一つだ。

瞬間的にオーラを増幅させ、それを放つ中距離高威力の攻撃となっている。


威力的には数年前に戦ったオークの二段変異種――オークエンペラーぐらい、直撃すれば倒せるレベルだろうか。

中々大した威力ではあるが、当然今の俺にとっては何ら脅威にはなりえない。


俺は無造作に、飛んで来たそれをオーラを纏わせた木の剣で切り裂く。

裂かれた瞬間闘気が爆発するが、その衝撃を俺は全身に纏わせたオーラ――オーラバリアーで完全に防ぎきる。


「――っな!?馬鹿な……」


自分の放った最強の一撃。

それをまだ幼い少年が容易く破ってしまう。

その様子を目の当たりにしたゲイズの目は大きく見開かれ、顎は外れんばかりに開いていた。


「それで全力ですか?大した事ないですね。じゃあ次は俺の番ですよ」


俺はショックで固まってるゲイズの懐に素早く入り込み、その腹部に木剣の柄の部分を叩き込んでやる。


やってから、別に柄じゃなくても良かったと気づく。

別に刃が付いている訳じゃないし。

ま、別にいいか


「あぁ……はぁ……」


離れると、ゲイズが膝から崩れ落ちて地面に顔面を付ける形――土下座の様なポーズで気絶した。


ま……ここまで圧倒すれば、俺の合格にケチをつける輩も出て来ないだろう。

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無敵のダブルボディ~なんか二人の神様にそれぞれ転生と転移を同時に施されたたせいか、体が二つになりました。当然加護も2倍。成長も2つの体で共有~  まんじ @11922960

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