第7話 突撃

現在は深夜。


少し離れた場所から、森の中にあるオークの集落を眺める。

集落は木を組んだだけの、掘っ立て小屋以下の集まりだ。

まあ奴らからすれば最低限の雨風さえ凌げればいいので、それで十分なのだろう。


「思ったより小規模ですね」


依頼遂行にあたって、ギルドはオークの数を多めに見積もっている。

正確な情報のない討伐系で、敵を過小評価するのは事故の元だからだ。


「規模的に、オークの数は30から40匹位でしょうか」


その規模から、ペンテが数の推測を立てて俺に聞いて来る。


「まあそんなもんだろうな」


ほぼ正解だ。


俺のサーチは、集落内に25匹のオークを捉えている。

此処にくるまで9匹倒しているので、その総数は34匹――いや、他にも巡回してる奴がいるかもしれないのでもう少し多いかもしれないが、全体で40を超えてはいないだろう。


サーチによるオークの色は青。

そして、オークの変異種は限りなく白に近い薄青で表示されている。

オーグルの実力がチート無しの俺とほぼ互角だと判断するなら、まあ一人でも問題ないだろう。


因みに、サーチで色が分かるのは敵対生物なんかだけだ。

人間は黄色で表示される。

そのため、これでオーグルの強さなんかを測る事は出来ない。


……ま、流石に殺し合いをする様な間柄になったら話は別だが。


その場合は、敵対生物として色が見えるようになる。

とはいえ、今のオーグルと俺の関係はそこまで酷くなってはいない。


少し前に喧嘩になりそうにはなったが、それも本気の殺し合いに発展する様な物ではなく、あくまでも喧嘩の範疇だ。


「どうやっておびき出しますか?」


オーク25匹だけなら、何も考えず突っ込んでも問題はなかっただろう。

俺とオーグル。

それに疾風の面々だけで、余裕をもって対処可能な範囲だ。


但し、集落には変異種キングがいる。

規模が思ったより小さかったとは言え、流石に何も考えずに突っ込んでしまうのは賢い選択とは言えない。


だから先に数を減らすべきなのだが――


「俺が一人で突っ込むよ」


「は?」


俺の突拍子のない返事に、ペンテや疾風の面々がポカーンとした顔になる。

二十匹以上いるオークの集団に、一人で突っ込むなんて言えば、まあそう言う反応になるのも無理はない。


「あ、あの……どういう事でしょうか?」


「俺がまず突っ込んで暴れて、オークが群がってきたら皆とは逆方向――集落の外に逃げる」


「囮……ですか?」


「ああ。俺が外にオーク共を引っぱりだすから、その間に残ったオークとキングの処理をしてくれ」


チマチマ敵を引っ張り出すとかしてると、夜が明けちまう。

ササッと突っ込んで、ササっと終わらせた方が楽だ。


もちろん、引っ張っていくオーク共はちゃんと俺が始末する。


普通に戦ったら、20匹近く同時に相手するのは骨だ。

が、人目がないなら転移チートを解禁できる。

そうなれば処理は余裕。


「大量のオークを引っ張っていくなんて……そんな無茶な」


「足には自信があるから問題ないさ」


「へっ、逃げ足は得意ってか」


オーグルが一々嫌味っぽい煽りを入れて来る。

キングを譲ってやったと言うのに、こいつには感謝のかの字もない様だ。


取り敢えずスルーしとく。


「けど、それだとキングまでスバルさんを追いかけるんじゃ?」


「それはないさ、キ――」


「キングは傲慢だからな。雑魚と一緒に、獲物を追いかける様な真似はしねぇんだよ」


ペンテの疑問に答えようとしたら、オーグルが俺の言葉を遮って説明する。


知識自慢でもしたかったのだろうか?

何かとウザい奴である。


因みに、魔物に関する広い知識なんかもプラチナ以上には必須となっていた――昇格試験でちゃんとその部分も試される。

優秀な冒険者には、高い対応力が必要とされるからだ。


対応力は身体能力や頭の回転、そこに知識や経験が加わって初めて得られるものだからな。

どんなに強くても、馬鹿では高位の冒険者は務まらない。


「じゃあ行って来る」


「気を付けてください」


「分かってるよ」


軽く手を上げてから、俺は集落に向かってダッシュする。

魔法を詠唱しながら。


「ぐぼおおぉぉぉぉ!!」


一番近くにいたオークが、此方に気付き雄叫びを上げる。

俺は足を止める事無く、そいつに向かって先制の魔法を放つ。


「ファイヤランス!」


ファイヤランスは、槍状の炎を相手に放つ魔法だ。

見た目と違って貫通力は無く、着弾した瞬間大きく燃え上がる炎系の魔法となっている。


「ぐえぇぇぇ!!」


魔法が直撃し、オークの肉体が炎に包まれた。

ぶっちゃけ魔法はそれ程得意ではないので、この一発だけで打たれ強いオークを倒しきる威力を出すのは難しい。

追撃は必須だ。


「おらよ!」


トドメの為に剣を引き抜き、炎に包まれ藻掻くオークの首元を深く切りさく。

これで死んだだろう。

俺は再び魔法を詠唱しつつ、集落の中に突っ込んだ。


「ぶおぉぉぉ!」


「ぶいぃぃぃぃ!!」


先程の雄叫びにより、襲撃に気付いたオーク達が更なる雄叫びを上げる。

それを聞いた奴らが、掘っ立て小屋からぞろぞろ出て来るのが分かった――サーチで。


「ブリッツ!」


俺は手近なオークに魔法を放つ。


ブリッツは魔力の塊を敵に打ち出す魔法だ。

低位の魔法であるため、大した威力は出ない。

精々、拳大の石をぶつける程度である。


だが当たれば痛いので、単純なオークのヘイト攻撃欲求を稼ぐには十分だ。

俺の目的は、あくまでもこいつらを集落から引きはがす事だからな。


「ブリッツ!」


「ブリッツ」!


俺は手当たり次第に、オークに向かって魔法を乱射する。

この魔法を選択したのは、その詠唱の短さにあった。

ばら撒いてヘイトを稼ぐのには持ってこいだ。


「ブリッツ!」


敵に囲まれない様に集落の中を駆け抜けつつ、魔法をばら撒く。


「ぶぎぃぃぃぃ!!」


「ぶぎゃあああ!!」


いい感じに、怒り狂ったオーク共が追って来る。

余り時間をかけるとキングに指示を出されてしまうかもしれないので――おびき出しに気づかれる可能性がある――俺はある程度の所で、オークを引きはがさないよう走って集落を離れた。


「19匹か……ま、これだけ引けば大丈夫だろう」


集落に残った数は5匹。

キングと、その取り巻きと思しき4匹だ。


キングはオーグルが相手するとして、疾風の面々なら4匹ぐらい何とでもなるだろう。


「さて、じゃあ処理するとしますか」


少し集落から離れた場所まで走った所で俺は足を止め、振り返る。

背後から迫る、オーク19匹を始末する為に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る