第4話 ブラックアウト

「ここまではよろしいですか?アドル王子」


教育係が、ここまでは大丈夫かと聞いてくる。


「はい」


「では続きを――」


異世界に転生して既に5年たつ。

こっちの俺は5歳になり、少し前から色々な習い事が始まっていた。


王族――王位継承権第三位の王子としての教育が。


まあ授業内容は楽勝だった。

それは俺にチートがあるからだ。


俺を転生させた黒髪女神がくれたチートは二つ。


一つは天才。


全てにおける学習能力が桁違いに上がる能力で、文字通り天才になる。

お陰で色んなレッスンで教師連中から大絶賛されまくっていた。


そしてもう一つは、成長倍加である。


これはレベルアップ時に、ステータスの上昇が2倍になるという物だ。

こっちの体ではまだ一度もレベルが上がってはいないが、もう一つの体は魔物を狩ってレベル上げをしているので、その恩恵を享受している。


え?

この体の加護なのに、もう片方の体もその恩恵を受けられるのかだって?


結論から言えば、受けられる。

だから、こっちの体でもサーチや転移は可能だ。


――更に言うなら、成長は両方の体で共通となっていた。


そのため片方が体を鍛えると、もう片方の体にもその効果が出る。

更にレベルアップ時のステータスアップも一緒で、向こうの体でレベルが上がるとこっちの体も強化される様になっている。


レベルアップによる成長が2倍。

しかも、各体ごとにレベルを上げる事が出来。

更に広範囲サーチと転移が可能で。

天才だから何でもすぐに覚えられる。


正にチート!


「本日の授業はここまでとなります」


片メガネをかけた、いかにも堅物そうな歴史の教師が授業の終わりを告げる。


「最後に、何か質問等は御座いますか?」


正直、授業中殆ど上の空だったが、特に問題なく内容は頭に入って来ていた。

何せ天才チート持ちですから。

なので、俺は教師の問いにドヤ顔で答えた。


「いえ、完璧に頭に入っていますので」


「複雑な歴史ですというのに、一度で全て完璧に覚えられるとは……流石は、神童たるアドル王子様だけはあられます。本当に優秀な方だ」


「ははは、大げさですよ」


俺が天才なのはガチだ。

だが余り調子に乗るのもあれなので、謙遜しておく。


「陛下も、きっとアドル王子の将来に期待されている事でしょう。わたくしめも、微力ながらお力添えさせて頂きます」


片メガネの教師の名は、ハーマン・セグス子爵。

このドラグーン王国で権勢を振るう、セグス侯爵家当主の弟だ。


彼の言う、力添えさせていただきますというのは『後継者争いに力を貸すよ』という意味にあたる。


何せ、俺の母親はセグス侯爵の娘だからな。

つまり彼とは親戚同士という事だ。


しかし、アレだよな……5歳の子供に権力闘争の話を匂わせんなっての。


いくら天才とは言え。

いや、まあ天才だから仕方がないのか。


「ありがとうございます」


俺は適当にハーマンに返事しておく。

一国の王ってのも悪くはないんだが、ドロドロした後継者争いとかは、正直勘弁願いたいと言うのが本音だったりする。


……ま、俺が望む望まないに限らず、巻き込まれる事にはなるんだろうけど。


家柄や才能を考えると、それは仕方のない事だった。


「では、僕はこれで」


「ええ、ではまた明後日に……」


ハーマンと別れ、俺は侍女に連れられ庭園へと向かう。

授業の後に、母親とのティータイムがあるからだ。


――ドラグーン王城の敷地はとんでもなく広い。


王宮を中心に7つの巨大な宮が建てられており、その一つ一つに大きな庭園が備わってる程だ。

それ以外にも、多岐に渡る施設が敷地内には立てられていた。

魔法塔――魔法の研究施設――だったり、騎士達の訓練場や宿舎等もある。


「母上、お待たせしました」


既に席につき、紅茶を嗜んでいた母親に俺は礼儀正しく挨拶する。


何せ口うるさいからな。

普通5歳の子供なら甘やかされそうなものだが、残念ながらこの母親にそう言った部分はない。


「授業だったのですから構いません。座りなさい」


「はい」


言われて、俺は侍女がひいた椅子に座る。

母親は赤毛のスレンダーなスタイルをしている美人だ。

身に着けているドレスは赤で、首や腕には、高級そうな宝石類があしらわれたアクセサリーを大量に身に着けている。


ザ、セレブって感じだな。

まあ侯爵家令嬢で、ドラグーン王国国王の第二王妃という正真正銘のセレブなのだから、当たり前だが。


「授業は順調ですか?」


「はい」


「そうですか。その調子で勉学に励みなさい」


会話は、酷く事務的な物だ。

まあ、元日本人の一般人だからそう思うだけで、高位の貴族はどこもこんな感じなのかもしれないが。


因みに、稀に顔を合わす父親とも同じような感じである。


「どうぞ……」


侍女の一人が俺に紅茶を入れてくれる。


「ありがとう」


「……」


頭を下げてから下がる彼女は、心なしか緊張している様に見えた。


見た事のない顔だし、新人だから緊張しているのかな?


そんな事を考えながら、俺はカップに口を付ける。


「ん?」


何だろうか、なんか変な味がした様な?

まあ気のせいか。

俺は気にせずカップを置き、一緒に運ばれて来たケーキに手を伸ばす。


ああ、勿論素手で取ったりはしないぞ。

フォークとナイフを使って上品に……


「くっ……なんだ……」


腹部から違和感を感じる。

それは燃え上がる様な熱へと変わっていく。

まるで、胃が燃えている様だ。


俺はフォークを手から落とし、苦しくてテーブルに手をついて何とか体を支えた。


「うっ……うぅ……」


ぐ……苦しい……


何だ……これは……


「アドル!?」


俺の異変に、母親が驚いて立ち上がって此方へと駆け寄って来る。


返事を返そうとしたが、声が出ない。

体はガタガタと震え、燃える様な腹部の熱に、全身から脂汗が噴き出して来る。

その余りの苦しさに耐えられず、俺はそのままテーブルに突っ伏した。


「ぐ……あぁ……」


視界がチカチカと点滅し――


そしてブラックアウトするかの様に、俺の体から感覚が途絶えた。

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