素晴らしい出演者達

とにかく、主演の京本大我さんの成長ぶりに驚いた。


2016年『エリザベート』のルドルフで注目したのだが、初見の時は、まだ危うい部分もあり、それがルドルフという役の儚い部分と重なり良かった。


その時はまだ発声も動きも固かったが、舞台慣れすれば大きくなる方だろうと感じた。


そして、2019年の再登場時に、発声も動きも格段に大きくなり、さらに細やかな演技も良く、その成長ぶりに驚いた。


一緒に観劇した人達に、「あの人、ジャニーズだよ」と伝えたら本気で驚いていた。


京本さんの舞台は日生劇場での『少年たち』を観ているだけだと思っていたら、2006年に滝沢秀明さんがこれもまた同じ日生劇場で主演した自伝的ミュージカル『ONE! -the histry of Tacky』にも初舞台で出ていたらしい。


確かに子供の出演者が出ていた、、、という記憶しかないのだが、その1人が京本さんと思うと応援したい気持ちも増す。


そして、『ニュージーズ』だが、もう幕開けの場面から、この人、デカくなったと感じさせる存在感を示す。


私としては、初ルドルフで雛鳥のようだった京本さんが、2演目のルドルフで力強く成長し、この『ニュージーズ』でさらに立派な若鳥へと成長した姿を見せてくれると思っていたら、いきなり大きな翼を広げた親鳥として現れたというような驚きだった。


始まってほんの少しで、舞台にしっかりと根を張った安定した存在感を示しているのがわかる。


セリフもしっかり腹から出て、歌も安定しいる。


座長としての貫禄とそれに負けない実力を見せたのだ。


しかも、骨太の存在感。


ルドルフは繊細な役柄だったし、『少年たち』もSixTONES、Snow Manの中で、可憐(この表現が合うかどうかわからないが)な存在で、私は、気品のある静かな役柄が似合う魅力の人と勝手に考えていたが、この『ニュージーズ』では最初から骨太で男らしい存在感を醸し出している。


これは、驚きで、この座長が牽引するこの作品は成功するだろうという確信を、幕開きのナンバー『サンタフェ』で覚えた。


また、映画版の項で、ディズニー作品の割には華やかさが無いと記したが、ヒロインと対峙する場面では、しっかりプリンスとしての甘さ、華を見せていたのも見事。


歌声が力強いナンバー、甘いナンバーそれぞれに合い、セリフ術もしっかりしている。


私はもう一度ルドルフ役を観てたいと思っていたのだが、本作を観ていると、気品あるフランツ・ヨーゼフも観たい、ルキーニも新たな魅力をみせてくれそう、そして、ゆくゆくはトート閣下と妄想が暴走してしまった。


主役を安定して張れるミュージカル俳優がまた1人増えたのが嬉しい。


クラッチーの松岡広大さん。


この方も、冒頭から成長した存在感を見せた。


私がこの人に注目したのは、同じ小池修一郎さん演出で新橋演舞場で上演された『るろうに剣心』での影の剣心、火村抜刀斎役の時。


クルクルとよく動き身体能力の高い方だなぁと思った。


その動きからダンス畑の方と勝手に思っていたら、今年の春に上演された『スリル・ミー』の“私”役の演技・存在感が見事で、演技もすごい方だったんだと思った。


ご覧になった方はわかると思うが、『スリル・ミー』は出演者2人、ピアノ一台、休憩無しほぼ全編歌で上演される濃密な作品で、松岡さんが作り出した“私”は序盤は大人しく気配を殺しているが、後半に向かいどんどん鬼気迫る存在感を露わにする役作りだった。


私はこの人気作のチケットを追加の補助席販売でどうにか手に入れシアターウェストの一番後方の席から観ていたのだが、終幕近くは最後席なのにその存在感に圧倒されてしまっていた。


そして今回の『ニュージーズ』の冒頭。


京本大我さんがドンと構えた静の存在感だとすると、松岡さんは動の存在感で見せる。


片足が不自由な役で大きなダンスを披露する場面はなかったが、松葉杖を使いながらもよく動き、踊り、身体能力の高さを見せた。


二幕の感化院でのソロも胸に染み、この方も今後のミュージカル界を支えていく方だと思う。


ヒロインの咲妃みゆさんは、もう安定のヒロイン像。


『NINE』のルイザ役が最近では印象に残っている。


宝塚の娘役出身の女優さんは、清楚さと上品な色気を持ち、さらに必要以上にしゃしゃらないので、本作のようなアイドル系主演者の相手役に相応しいと思う。


実力も歌、ダンスともに基準点を超えており、客席で安心して楽しむことができる。


これは次章の「映画との相違」で詳細を記すが、このミュージカル版の成否は彼女の演じるキャサリンの出来にかかっているともいってよい重要な役なのだが、気負わずこなしたのは流石だ。


おそらくこの役は、気負って演技されるとかなりのジャジャ馬になってしまい、観客が共感できない危険性もはらんでいるのだが、出るところは出るが、抑えるところは抑え、物語の流れをうまく運ぶことに貢献しているのは、やはり舞台出身の女優さんの強みだろう。


そして特記したいのが、二幕冒頭のタップダンスのナンバー。


ニュージーズ達の楽しいタップダンスの後、彼女が紅一点で加わり盛り上がるのであるが、彼女を先頭にニュージーズ達が三角形のフォーメーションで踊るところが私は大好きだった。


劇場主の霧矢大夢さんもいい。


現役ジェンヌの頃から芸達者な方だったが、退団後も芸の幅を広げている。


『ピピン』のファストラーダも見事だったが、コロナ禍の合間に上演された『悪魔の毒毒モンスター』でのお母さんとやり手の市長との一人二役を早変わりで見せたナンバーが、彼女のコメディセンスと実力全開で客席で見ていて本当に楽しかった。


『悪魔の毒毒モンスター』はコロナに対する危機感が高まりつつある頃に上演が予定され、確か実現した公演回数も変更があったと思う。


私は最初の前売り時に抽選で外れ諦めていたのだが、当日引換券発売の電話がうまく繋がり劇場に足を運ぶことができた。


タイトルの『悪魔の毒毒モンスター』及び原作映画(同名のカルト的なB級映画、なんならC級といっても怒る人はいないはず)から予想されるのを遥かに越えた出来でデヴィッド・ブライアン(ボン・ジョビィのメンバー)のロック調の曲もよく、クッキーさんの美術、実力ある出演者の弾けた演技で、ぜひまた見たい作品である。


話がずれてしまったが、本作の霧矢大夢さんは大人チームで、主人公達を見守る役割。


人生経験が劇場主を貫禄たっぷりに好演していた。


私は常々、ミュージカル俳優を目指す男優達には、宝塚歌劇団の男役さんの所作、姿勢、見せ方を学んで欲しいと思っているのだが、この作品の若いニュージーズ達にとって、彼女との共演は大きい経験ではなかったろうか。



加藤清史郎さん。


久々の舞台登場だ。


ガブローシュ、少年ルドルフの経験者。


やはり舞台経験者だけあり達者だ。


ミュージカルに限らず、これから様々な映像、舞台で活躍していってくれる方だと思う。



そして、松平健さん。


いぶし銀である。


利益追求のためニュージーズ達に厳しい決定をするピューリッツァー役。


いわゆる敵役であるが、敵役が活きてこそ、ニュージーズ達も輝く。


出ていらしただけで、見事な存在感、かつ、人間味である。


そう言えば、今年、オリンピックの開会式でのマツケンサンバ待望論なんてのSNSで盛り上がっていたが、私は今、そのすごい方の演技を見、生歌を聴いているのだと客席で姿勢を正した。


最後に、やはりこの作品の最大の功労者は京本大我さん、松岡広大さん、加藤清史郎さんも含めたニュージーズの面々である。


皆さん、歌に、ダンスに、演技に全力をかけてパフォーマンスをしているのが客席にビンビンと伝わってきた。


皆さん、これから様々な舞台で活躍していってくれるだろうし、見守っていきたい。


そう言えば、観劇後、朝の支度をしているときにテレビを見たら、見覚えある若い出演者。


調べたら、ニュージーズのお一人で、なんだか嬉しくなった。


自分の好きな作品で活躍された方が、その後、様々な分野に羽ばたいていくのを見るのは、演劇ファンの大きな嬉しい楽しみの一つではないだろうか。


次章 「映画との違い」に続く










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『ニュージーズ』ーコロナ禍を越えた快作 奈良原透 @106NARAHARA

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