コロナ禍でミュージカルファンは打撃を受けた

2020年の年明けの頃、世間一般ではオリンピックの開催を待ちわびる声が多かったと思うが、ミュージカルファンたちはその年の豊富なラインナップに胸をときめかせ、そしてチケットを入手することに闘志を燃やしていたのではないか。


2020年のミュージカル作品のラインナップは、それは煌びやかなものであった。


例えば、『キャッツ』・『オペラ座の怪人』の巨匠アンドリュー・ロイド=ウェーバーの作品に関していえば、日本初演(日本語版初演)となる作品が3作品、3月『ホイッスル・ダウン・ザ・ウインド』、4月に『ジョセフ・アンド・テクニカラー・ドリームコート』が日生劇場で連続上演、同時期に『サンセット大通り』を国際フォーラムで上演するホリプロが8~9月に『スクール・オブ・ロック』をブリリアホールで上演予定だった。


ロイド=ウェバーの日本未上演作品(『ジョセフ~』は、来日公演があったため、厳密には日本語版上演)が一年で3作品もあるというのは、稀有なのである。


これだけでも、2020年初頭の私のテンションは上がっていた。


東宝は『エリザベート』、『ミス・サイゴン』という人気作を用意し、しかもそれぞれシングルではなく2人から4人の複数キャスト。


いずれも魅力的なキャスティングで、チケットをどう取るか、そして、チケット代をどう貯めるか、キャスト表を見ながら頭を抱えながら悩んでいた。


それ以外にも、『アナスタシア』の梅田芸術劇場制作版と宝塚歌劇版の連続上演なんて嬉しい企画もあった。


梅田芸術劇場版は、東京公演の前半が中止、再開されるも週末の外出抑制の呼びかけで急遽千秋楽を前倒し、宝塚歌劇版は時期がずれて上演。


私はWキャストの木下晴香さん、葵わかなさんのお二人とも観たくてチケットを2公演分購入していたが、そのうちの1枚が急遽早まった千秋楽の公演で、滑り込みで観劇することができた。


ちなみに木下さんを観たくて取った1枚は公演中止になった公演のもの、そして、その外出抑制が呼びかけられた週末には『サンセット大通り』のチケットを買っていて、両方ともお空に消えてしまった。


そのころから始まるコロナ禍の中で、ようやく手に入れたチケットが何枚お空に消えてしまったろう。


チケットの返金手続きが、こんなにも虚しいものだとは思わなかった。


また、素晴らしい作品が誕生したと喜んだのも束の間、その公演が中止になってしまった作品もあった。


宝塚歌劇団の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』など、私が入手できたチケットが公演が始まってすぐの日程で、素晴らしい作品がまた宝塚歌劇に誕生したと喜び、どうしても、もう一度見たく当日券の列に並ぶ算段をつけかけていたところ、公演中止の一報。


客席に居た一観客ですら空虚感を味わったのだから、出演者・スタッフ・関係者の方々の心は幾ばかりだったろう。


主演の望海風斗さんも見事、演出の小池修一郎さんも見事だっただけに悔しい。


千秋楽がライブ配信されたのでそれを食い入るように見たが、切なく美しい1幕の幕切れを始め、本当に素晴らしい作品で、埋もれさせてしまうには本当にもったいない作品であった。


2020年にはこんな不遇な作品が多く出てしまった。


そして、そんな楽しみにしていたけれど、観ることがかなわなかった作品のうちの一本が、日生劇場で上演予定だったディズニーミュージカル『ニュージーズ』であった。


演出は小池修一郎さんで、ディズニーミュージカルとしては珍しく完全オリジナルの日本演出。


そして、主演はデビューして間もないアイドルグループSixTonesの京本大我さん、帝劇の『エリザベート』のルドルフで急成長した方だ。


本当に楽しみにしていたので、上演中止になったときは、ガックリした。


その『ニュージーズ』が、およそ一年半近い時を超え、予定されていたのと同じ日生劇場で上演されたのである。


それも、コロナ禍で疲れた私たちの気分を晴れやかにしてくれるようなパワーで日本初演を実現させた。


本当にうれしかった。



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