第3話 異世界人

「ᛏᚺᛖ ᛟᚢᛏᛋᛁᛞᛖ ᛁᛋ ᚢᛖᚱᚣ ᚾᛖᚨᚱ」


 彼は俺をテントの中まで連れ込むと、テントの中はかなり大きく、成人男性が立ってもまた余裕がある高さだ。

 それでテントの真ん中にある長机に大きな長方形の紙を広げる。多分これ地図だ。


 そして彼は一つの点に指を指して交互に俺と自分を指差し、恐らく自分たちはここにいると伝えているのだろう。

 そうすると次に地図に一本の直線を描き、少し離れた所に大きく丸を描く。


「ᛚᛖᛏ'ᛋ ᚷᚢᛁᛞᛖ ᚣᛟᚢ ᛏᛟ ᚺᛖᚱᛖ」


「ここに、俺と、お前が、行くの?」


 俺は自分と彼を交互に指差し、地図の直線を見て、これから此処に行こうとしているのかを聞いてみる。

 彼は俺に大きく頷いてくれた。

 あぁ、言葉は分からないけど、意思が伝わるって感動……!


「ᛚᛖᛏ'ᛋ ᛋᛚᛖᛖᛈ ᛏᛟᛞᚨᚣ」


 そうして……さぁ、行こうぜ! と俺は意気込むと、彼は突然寝袋を二つ用意して1人すやっと寝てしまった。

 あれ? いくんじゃないの?

 あー! 疲れてるから明日行くってことだなきっと。


 じゃあ俺も用意してくれた寝袋に寝るとするか……。


《セーブされました》


◆◇◆◇◆◇


 翌日の朝。いや森の中だから時間感覚ないから多分一日経ってると思う。


 目を覚ますと既に彼は早くに起きていて、1 一人でジャーキーを食っていた。まさかあの食糧予備じゃなくてメインだったのかよ!


「ᚷᛟᛟᛞ ᛗᛟᚱᚾᛁᚾᚷ」


「おはよう」


 多分挨拶してきたから俺も返した。


 二人でジャーキーを食べ、すこしお腹が膨れた所で彼は立ち上がる。俺も続いて立ち上がればテントの隅っこに置いてあった彼のものであろうリュックサックに必要な物を入れると、勢いよく背負い、掛け声を上げる。


「ᛚᛖᛏ'ᛋ ᚷᛟ!」


「おう!」


 長文では何を言っているかわからないけど、短い言葉なら動きと合わせて何を言おうとしたいのかまで分かるようになった。


 テントを出て二人で歩くこと三十分。遂にやつと出会ってしまった。狼だ。


「ᛒᛖ ᛢᚢᛁᛖᛏ. ᛞᛟ ᚾᛟᛏ ᛗᚨᚲᛖ ᚨ ᛋᛟᚢᚾᛞ!!」


「え! なになに!?」


 きっと何かを命令したかったのだろう。だがそれは俺には伝わらず、気づいた頃には俺の肩に狼が齧り付いていた。


 ショック死無効、光属性無効、刺突耐性0.2%、食らいつき耐性0.3%


 はっと目を覚ますと何故か俺はテントにいた。あれ? 森の中じゃない? ふと隣を見れば彼が一人でジャーキーを食っている。


 もしかしてセーブされた!? なんで? どうして? てか変な所でセーブしたな!

 またジャーキー食わなくちゃいけねぇのかよ!


 俺はジャーキーを食い、テントを出て、30分でまた狼と出会う。あの時彼が言いたかった命令はなんだったのだろう。

 俺は咄嗟に彼の背中に逃げる。武器を持っているのは彼だけだ。何も防具も武器も無い俺を戦闘に出す筈ないだろ!


 俺が彼の背中に隠れると、彼は頷き、巧みな動きで弓矢で狼の頭を一発。

 急所に当たったのか一撃だった。


 すげえええええぇ! あんなのを弓矢で一発撃破できるもんなのか!


 そうすると彼は徐にナイフを取り出し、狼の解体を始め……オエエエエエ!!


 ショック死無効、光属性無効、刺突耐性0.2%、食らいつき耐性0.3%、グロ耐性0.1%


 グロ耐性ってなんだよ! ゲームですら聞いたことねぇ!


 朝起きてジャーキー食って狼倒して、次は解体に目を背ける。これは少し前まで俺が体験した、死なないようにする為の動きを最適化したものだ。

 最早一連の動きとなって、彼も俺の動きに戸惑っているようだが、半ば時間が速く進んでいるように思える。


 当初の狼を懐かせるという目的は達せられなかったが、死ぬよりはマシだ。

 遂に、ついに俺は、森の脱出に成功した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る