第18話 剣術大会(はじめての名代)

 アリスが家庭教師として屋敷に滞在するようになって二週間が経とうとしている。


「〈クーラー〉の魔法、なかなか難しいですね……。どうしても冷えすぎてしまいます」


「おそらく魔法は攻撃するものという認識が抜けてないんだろうな。もう一度試してみてくれ」


「はい……!」


 いつしか俺がアリスに魔法を教えるようになっていた。と言っても今は、アリスによる魔法の授業が終わった後。アリスが自分から〈クーラー〉の魔法を教えて欲しいと言ってきたために始まった逆授業だ。アリスはちゃんと自分の務めを果たしてくれている。


 そのうえで、将来の夢……飛行魔法の開発のためのヒントになるかもしれないと〈クーラー〉を懸命に覚えようとしているところだった。


 それにしても、教える方も大変だな……。


 〈クーラー〉の魔法は〈創造〉のスキルで作ったために、俺自身も全てを理解しているわけじゃない。自動的に組み立てられたパズルのようなものだ。組み立て方を知らないから、教えるには俺自身も出来上がったパズルを紐解いて組み立て方を理解する必要がある。


 何とか〈魔王〉のスキルのおかげで魔法の組み立てを理解できるし、アリスの高い理解力にも助けられていた。


 そんなこんな俺が四苦八苦しながら〈クーラー〉の魔法をアリスに教えていると、そこへ父上がやって来る。今日はいつもの高原ではなく屋敷の庭先で授業をしていたので、父上が様子を見に来てくれたのだろうか。


「レイン、それとナルカ。少し良いだろうか?」


 どうやら違ったらしい。珍しい組み合わせで呼ばれたことに、俺とナルカは互いの顔を見合わせる。


「実は急な話なのだが、ジオスクで2週間後に剣術大会が開かれることになった。我がロードランド領代表として、ナルカに剣術大会に出場してもらえないだろうか?」


「……私ですか?」


 ナルカは不思議そうに首を傾げる。


「エバンズ様やレイン様の方が強いです」


「う、うむ……。それはそうなのだが、さすがに7歳の息子を剣術大会に出場させるわけにはいかんのでな……。それとエバンズは前回大会で優勝している。あまりにも強すぎたために今回は殿堂入りとされて出場できないのだ」


「なるほど、それでナルカですか……」


 また新たな殿堂入りが生まれてしまいそうだな。


 それにしても、剣術大会か。正直に言えば、あまりナルカの強さは世間に知られたくないというのが俺の本音だ。彼女が名声を望むなら別だが、そうでないなら出場しないに越したことはない。懐刀をわざわざ自慢する必要はないだろう。


「ナルカ、出来れば出場してもらいたい。君はレインの身辺警護を務める騎士だが、同時にロードランド騎士団の一員でもある。ロードランド騎士団は常に王国最強でなければならない。その意味はわかるだろう?」


「…………」


 ナルカはこくりと頷いて、俺の顔を見る。


 ロードランド騎士団はロードランド領、ひいてはリース王国の国防の要だ。ナルカが剣術大会で優勝することは、他の貴族への牽制となる以上に魔族への牽制となる。まあ、魔族は滅多に人の街に立ち入らないらしいが。


 それでも風の噂で魔族の耳には入るだろう。リース王国最強の剣士がロードランド騎士団の一員で、魔族領の目と鼻の先に居る。それだけで魔族の動きを牽制できるのだ。


 ……父上にここまで言われたら、断るわけにもいかないな。


「ナルカ、父上の頼みを引き受けてあげてくれ」

「……わかりました」


 ナルカが小さく頷いて参加の意思を示すと、父上はホッとしたように息を吐いた。


「ありがとう、ナルカ。ロードランドの代表としてぜひ優勝してくれ」


「それにしても父上、2週間後とは随分と急に開かれる剣術大会なんですね」


「ああ、いや……。大会自体は前から決まっていたことなのだ。具体的な日付を知らされたのは今日届いた手紙だったが……。おそらく、手紙の輸送に時間がかかってしまったのだろう」


「なるほど……」


 てっきり前回エバンズが暴れすぎて、損をした連中が故意に知らせを遅らせたのかと思った。エバンズをわざわざ名指しで大会から除外している程だしな。


「ねーねぇ、アリスさまぁ。じおすくぅーってどこにあるの?」

「ジオスクはアルミラ大陸東海岸にある港町ですよ」


「ふぇ?」


「え、えーっと、ここから東の方へずっと行った海の近くにある大きな街です」

「わぁ! うみ!? ニーナうみいってみたい!」


「そうですね。私はここへ来る途中に立ち寄りましたが、とても綺麗で活気のある街でした。新鮮な魚介類が美味しくて……どうしましょう、また食べたくなってきました」


「ニーナもおさかなさんたべたい~!」


 ニーナとアリスがジオスクの話題で盛り上がっている。


 魚介類か……。ロードランド領は海に面していないから、魚はもっぱら川魚でそれも滅多には食べられない。輸送技術が発達していないために、魚介類はすぐ腐ってしまうのだ。


「父上、俺たちもナルカに同行していいですか?」


 新鮮な魚介類を食べるため……もとい、ナルカの応援のため父上に尋ねる。すると父上は俺に目線を合わせるように膝を折る。


「レインよ、実はお前にも頼みがあったのだ。私の名代としてジオスクへ向かってくれはしないだろうか?」


「俺が、父上の……?」


 名代ってことは、父上の代理を務めなければいけないということだ。いったい何がどうなってそういう話になったんだ……?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界転生(超イージーモード)~2度目の人生はノーストレスな優しい異世界生活で~ KT @KT02

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ