異世界転生(超イージーモード)~2度目の人生はノーストレスな優しい異世界生活で~

KT

第1話 異世界転生(超イージーモード)

 ニートに朝はない。仕事を辞めてからというものの、生活習慣は乱れ昼夜は逆転し、眠くなったら寝て眠れなくなったら起きる日々だ。家からは一歩も出ず、ゲームや漫画、アニメやVチューバーの配信を見て一日を過ごす。


 そんな生活を始めて半年が過ぎようとしていた。


 大学卒業後に3年務めた会社で精神を蝕まれ、謎の吐き気と発熱と闘いながらの仕事にギブアップして退職。実家に帰ってアルバイト生活を始めたが、そこでも人付き合いに疲れて一年経たずに辞めてしまった。


 そうして始まった子供部屋生活。月給12万の遣り繰りで貯めたなけなしの貯金を全て突っ込んだ仮想通貨は鳴かず飛ばず。社会復帰も半ば諦めつつある今日この頃。今日も今日とて、夕方の中途半端な時間に眠くなって布団に潜る。


「このまま、異世界転生しねぇかな……」


 なんて呟きながら、眠気に身を任せて瞼を閉じた。





『あなたは死にました』


 いや唐突すぎる。


 気づけば真っ白な空間に居た。目の前には頭の上に輪っかを浮かべた金髪美女。背中からは純白の羽が生えていて、見るからに天使といった感じだ。


「えっと……。なんで俺は死んだんですか?」

『心不全です』

「……そ、そうですか」


 どうやら普通に死んだらしい。最近の生活習慣を考えるとさもありなんという感じもしなくもない。人間、死ぬときはあっけなく死ぬものだ。それはお爺ちゃんがくも膜下出血で死んだ時に思った。


『あなたには3つの選択肢があります。1つ目はこのまま神の元へ行き魂を返上すること。2つ目はこれまでの人生をもう一度やり直すこと。3つ目はまったく別の世界で、新しく人生をやり直すこと』


 天使は俺に3つの選択肢から一つを選ぶように迫った。


 1つ目は論外だ。神に魂を返上するということは、たぶん俺が俺でなくなるということだろう。死んだことはすんなりと受け入れられたが、それとこれとは話が別。それこそ本当の死という感じがして二の足を踏んでしまう。


 残る2つの選択肢は魅力的だが、


「記憶を引き継げますか?」

『あなたがそれを望むのであれば』


 ……つまり、記憶を持ったまま2周目の人生を歩めるということか。


 それはとても大きなアドバンテージだ。さすがにロトの数字を覚えては居ないが、価値が数百倍になる仮想通貨の銘柄は覚えている。他にもヒットする商品や、震災の日付も。これらを利用すれば、今までの人生よりも楽しい日々を送ることが出来るかもしれない。


 ただ、今までの人生を一からやり直した所でたかが知れてるよな……。


 それならいっそ、まったく別の人生を送った方が良いんじゃないか?


「3つ目の選択肢……が、良いです。出来れば、記憶を持ったまま」

『わかりました。それでは難易度をお選びください』

「難易度?」


 天使はどこからともなくタブレット端末を取り出すと、俺に差し出してきた。



〇難易度〈イージー〉

・記憶引き継ぎ可

・言語補正あり

・ステータス補正(大)

・人種選択可

・身分選択可

・スキル選択可能数5(レアリティ制限あり)


〇難易度〈ノーマル〉

・記憶引き継ぎ可

・言語補正あり

・ステータス補正(小)

・人種選択可

・身分選択不可(平民固定)

・スキル選択可能数3(レアリティ制限あり)


〇難易度〈ハード〉

・記憶引き継ぎ可

・言語補正なし

・ステータス補正なし

・人種選択不可(ヒューマン固定)

・身分選択不可(平民固定)

・スキル選択可能数1(レアリティ制限あり)


〇難易度〈ヘル〉

・記憶引き継ぎ不可

・言語補正なし

・ステータス補正(マイナス)

・人種選択不可(ヒューマン固定)

・身分選択不可(奴隷)

・スキル選択不可



「……ゲームかよ」


 シミュレーション仮説はあながち間違いじゃなかったのかもしれない。


 難易度はイージーからヘルまでの4つ。まずヘルは除外だ。記憶が引き継げない上に、ステータスがマイナス補正。身分も奴隷一択でスキルが選べない。どうしてわざわざ人生の難易度を高くしなくちゃいけないんだ。


 これはイージー一択だが……、


「あの、超イージーモードとかないんですか?」


 ダメもとで聞いてみる。


『あなたがそれを望むのであれば』


 天使がそう言うと、端末に5つ目の選択肢が表示された。何でも聞いてみるものだなぁ。



〇難易度〈超イージー〉

・記憶引き継ぎ可

・言語補正可

・ステータス補正〈特大〉

・人種選択可

・身分選択可

・スキル選択可能数10(レアリティ制限無し)

・ヘルプ機能あり



 ステータス補正が特大になった上に、スキル選択可能数が10にまで増えた。しかもレアリティの制限も無いらしい。それと最後に追加されたヘルプ機能。よくわからないが、何かと役立ちそうだ。


「それじゃあ、この〈超イージー〉モードで」

『わかりました。続いて人種と身分などを選択してください』


 端末に表示されたのは、西洋風の男性の3Dモデル。性別の項目をタッチすると女性に代わり、肌の色や体型なんかも自由に調節することができた。この画面はいわゆるキャラメイク画面らしい。


 人種を変更するとエルフやドワーフ、獣人にも出来たが無難に人間ヒューマンにしておいた。性別は女にも惹かれたが、男のままにしておく。顔はもちろんイケメンに調整し、体格も良い感じに設定。股間もこっそり大きめにしておいた。


 続いて身分だが、王族から奴隷まで様々に選べるようだ。どちらかと言えば選べるのは自分というより親の身分だな。王族から奴隷まで、選択肢は幅広い。


 王族は何かと面倒そうだし、後継者争いなんかに巻き込まれたらたまったもんじゃない。だからと言って平民だとあまり楽しい人生は送れなさそうだ。一定水準の生活をしようと思えば、出世が絶対条件になってしまう。


 奴隷は論外として、選ぶなら大商人の子供あたりか。商人の息子ならそこそこ裕福な暮らしが出来そうだし、働き口には困らない。ただ、何かと憶えることが多そうだな。それに、人と関わる仕事はやや苦手だ。精神を蝕まれる。


 適度に裕福で、あまり人と関わらなくてよさそうな……。辺境貴族の嫡男なんて良いんじゃないだろうか。貴族社会には詳しくないが、辺境貴族ならめったに社交界に行く機会もないだろうし、領民も少ないだろうからひっそりとした生活が出来そうだ。


『それではスキルをお選びください』


 身分選択を終えると端末の画面が切り替わり、スキル一覧が表示される。その数、N《ノーマル》スキルからSSR《スーパースペシャルレア》スキルまで合計数千。とてもじゃないが、1つ1つ効果を見て選んでいたらキリがない。


「えっと、SSRスキルでおすすめってあります?」


 天使に尋ねると、天使は端末をしばらく操作してから俺に画面を見せてくる。どうやらおすすめのSSRスキルを選んでくれたようだ。



〇魔法攻撃無効

・魔法によるダメージを受けない。


〇攻撃無効

・魔法を除く全てダメージを受けない。


〇全状態異常無効

・状態異常を受けない。


〇千里眼

・望むもの全てを見通すことができる。


〇育成

・他者に経験値やスキルを分け与えることができる。


〇魔王

・聖属性を除く全ての魔法を習得可能。

・魔族を服従させることが出来る。

・全ステータスに成長補正(特大)。


〇勇者

・勇者専用武器&防具を装備可能。

・聖属性魔法を習得可能。

・全ての剣術を習得可能。

・全ステータスに成長補正(特大)。


〇経験値ボーナス(特大)

・経験値を得る量が増加する。


〇レベル上限無効

・レベル上限が無効となり、100を超えてもステータスが成長する。


〇創造

・スキル、魔法、アイテムを新たに作り出す事が出来る。



 ……なるほど、この10個のスキルがおすすめなのか。説明を読んだ感じ、どれか1つだけでもチートスキルだ。


 特に最後がヤバい。


 実質的に10個というスキル選択数の上限を無視してしまっている。これ、神の領域に足を踏み入れてしまってるんじゃないだろうか。天使が選んでくれたスキルだから問題ないんだとは思うが、ちょっと尻込みしてしまうな……。


 とはいえ、遠慮をするつもりはない。せっかくの2周目の人生だ。とことん楽をして生きてやる。


「このスキルでお願いします!」

『わかりました。それでは、よい人生を』


 目の前が光に包まれる。


 こうして俺は、異世界で2度目の人生を送ることになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る