晴臣


人が死んだら悲しいじゃない。彼は手のひらを死体にくっつけてそう言う。若い農奴の、黄白くにごった白目がつるりと水気をとりもどす。あんちゃん、ぼろをまとった少女が叫んで泣いた。


春で、桜が咲いていた。こんな貧しい弱い土地に、なぜこのような男が産まれたのかわからないが、晴臣は何人でも、何百人でも甦らせた。ある人数を生き返らせると、晴臣の体は崩れて砂になり、一夜あけるとそっくりそのまま前夜の晴臣が着物を直している。そしてまた死んだ生き物を甦らせる。なんなのだろう晴臣は。


怪我や病気は治せなかった。だから、脚が切れれば取っておいて、取れたところにくっつけたまま、胸を竹の槍で突いた。疫病で血を、吐き始めたら、動かなくなるまでじっと待った。それでもみんな幸せそうにしていた。死ねば生き返れる。私はその、言葉にできない気味の悪さを、言葉にできないから黙っていた。


この村はいつからあるのだろう。桜を見るのは何度目だろう。いつでも、咲いている気がした。

土の香りがする。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る