過去への羨望と未来への希望がある場所

 ちょっと疲れている人にこそ読んで欲しい物語です。

 読み進めて行く内に、いつ、誰に聞いたかも思い出せない言葉を思い出しました。

 「いつまでその趣味を続けるのか」という問いに、「情熱という太陽が沈むまで」と答えていた人がおじいさんになった時、もう一度、同じ問いに対し、こう答えた――「情熱という太陽が沈むまでと思っていたが、太陽が沈んだら月が昇り、星が見えた」と。

 それを思い出したのは、主人公が自分はもう自転車で日本一周するのは無理だけど、日本一周を目指す人に相応しい自転車を用意できるというシーンでした。

 太陽のようにギラギラと燃えていた頃ならば日本一周を目指す事もできる。

 その情熱が沈んでも、今度は月のように日本一周に挑む人を見守る事ができ、星のように導く事ができる…そういう風な考えが浮かんだのは、自分も学生だったならば日本一周を目指したかったと思い、自分も自転車を整備できるならばこういう出会いがしたい、という羨望が浮かぶからでしょうか。

 この憧れは、読者がどの年代でも抱くはずです。

 ところで物語の中で、主人公を苛ませていた問題は解決していません。

 しかし書かれていない未来で、この主人公は絶対に解決策を見つけているはずだ、と確信させられるのは、読者に与える羨望のせいでしょうか。

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