前回の短編で没になった展開

別の展開も面白かったので、とりあえず供養投稿。


―――――

「うんっ!」

元気よく返事をした雷は靴を脱いで部屋に上がる。そのまま居間に向かっていった。

雷の後を追うように私も居間に足を運ぶ。するとそこには、テーブルの上に大量の皿が置かれていた。

「今日は野菜炒めにしてみたのよ!どう?」

「・・・普通だな」

素直な感想を言うと、雷の顔が見る見ると真っ赤に染まっていった。そして、持っていた箸を握りしめたままプルプル震えている。

「あ、あれ?なんかまずかったか?」

「ふ、ふつ―――じゃなくて!!!これでも頑張った方なんだから!!ちょっとくらい褒めなさいよ!!」

突然キレられたんですけど。なんで?俺何か悪い事言った?言ってなくね? 雷はそのままキッチンの方に行って包丁を持って戻ってきた。え、何それ怖いんだけど。

「もう怒ったんだから!覚悟しなさい!!」

「いや待って、それは流石にシャレにならないから止めろ」

「問答無用ぉおおおっ!!!」

雷が振り下ろしてきた包丁を受け止める。危ねぇなおい。殺す気かこいつ。

「ふんぬっ!!」

雷が渾身の力を込めて包丁を押し込もうとする。だがしかし、残念だったな。お前の力など所詮はこの程度なのだよ。

「えいっ!」

私は包丁ごと雷を突き飛ばす。

―――――



ーーーーー

私は仕事を終え、社宅に戻ると部屋の電気がついている事に気が付いた。

消し忘れかと思いつつ扉を開けると、そこには一人の艦娘が立っていた。

「こんばんは、八城さん」

彼女は特型駆逐艦5番艦、叢雲。舞鶴鎮守府に所属する艦娘で、電と同じく初期メンバーの一人だ。

「あれ、叢雲・・・?珍しいな、お前がここに来るなんて」

「ちょっと聞きたいことがあってね」

そう言いながら部屋に入っていく。

私は慌てて扉を閉めて、鍵をかけた。

「それで、話したい事とは?」

「単刀直入に聞くけど、雷ちゃんと何かあったの?」

その言葉に思わず体が硬くなる。

「・・・なんの事かな」

「誤魔化さない方がいいわよ。最近の八城さん、明らかに様子がおかしいからすぐに分かるわ」

「・・・」

「あの子、泣いていたわよ」

その一言を聞いて、心の中で舌打ちをした。

「・・・分かった、話すよ」

それから私が今までの経緯を話すと、叢雲は頭を抱えた。

「まったく、何やってるのよあんたは」

「面目無い」

「で、これからどうするのよ」

「うーむ・・・」

しばらく考え込んでいると、叢雲が顔を上げた。

「ねぇ、提案があるんだけど」

「なんだ?」

「いっそ結婚しちゃえばいいんじゃないかしら」

「はぁ!?」

突拍子もない発言に耳を疑った。

「いやいやいや、話が飛躍しすぎだろ。第一、俺達はそういう関係ではないぞ」

「あら、でも好きあっているんでしょ?なら問題ないじゃない」

「いやまぁそうなんだが、しかしだな・・・」

「それにさ、もし仮によ。雷ちゃんが他の男と結婚したらどう思う?」

雷が誰かと結婚する。そんな光景を思い浮かべてみる。

「・・・嫌だな」

「なら決まりじゃない」

「いや、しかしな」

「もう、じれったいわね」

そう言うと、叢雲は私の首に手を回して抱きついてきた。

柔らかい感触にドキッとする。

そして私の唇にキスをする。

「なっ、何すんだよ!」

突然の事で頭が混乱した。

「ふふん、これで私もあなたのものよ」

そう言ってウインクしてくる。

「おまっ、どういうつもりだよ!」

「言ったでしょう?私もあなたが好きだって」

顔を赤くしながら言う彼女を見て、何も言えなくなった。

「ま、返事は今すぐじゃなくていいわよ。それじゃ、また明日ね」

そう言って彼女は帰って行った。

一人残された私はベッドの上で悶々としていた。

叢雲が私の事を好きだと言った。これは夢なのか? 頬をつねってみたが、普通に痛かった。

翌日、私は仕事中ずっと上の空だった。

叢雲の言葉が何度も頭の中を駆け巡る。

(俺は彼女の事が好きなのか?)

正直よく分からない。

確かに彼女の事は嫌いではないが、だからといって恋愛感情を持っているかというと違う気がする。

しかし彼女の気持ちには応えるべきだろう。このままだと、いずれ彼女に迷惑をかけてしまうかもしれない。

私は覚悟を決めた。

その日の夕方、雷がやってきた。

「久しぶりだな」

「えぇ、本当に」

少し気まずい空気が流れる。

それを察してくれたのか、雷の方から話しかけてくれた。

「あの、叢雲さんは元気にしてるかしら」

「あ、ああ。あいつは相変わらずだ」

「そう、よかった」

「それより、どうして急に来る気になったんだ?」雷がキョトンとした表情を浮かべる。

「えっと、それは・・・」

しばらく黙っていたが、意を決したように口を開いた。

「実は昨日、叢雲さんに相談に乗ってもらったの」

「相談?」

「うん。それでね、その時に『いつまでも逃げているわけにもいかない』って言われてね。それで決心がついたというか・・・」

「そうか、分かった」

「それでその・・・」

雷の顔が赤くなる。

「俺達の関係だが、そろそろはっきりさせようと思う」

その言葉を聞いて、雷は驚いたような表情をした。

「八城さん、本気?」

「ああ、もちろんだ」

「そう、なんだ」

しばらく俯いて何かを考えていたが、やがて顔を上げてこう告げた。

「分かったわ。ただ、一つだけお願いがあるの」

「なんだ?」

「最後に、一度だけデートして欲しい」

その言葉を聞いて胸の奥がきゅんとなる。

(これが母性本能というものだろうか)

ーーーーー


ーーーーー前回の蛇足

翌朝、目が覚めると雷の姿は無かった。

朝食の準備をすると言っていたから先に起きているのかと思っていたが、まだ寝ていたようだ。

リビングに行くとテーブルの上に書き置きを見つけた。

『八城さんへ。おはようございます。私は今から朝ごはんを作ってきます。昨日はごちそうさまでした。雷』

律儀に礼を言うところが彼女らしかった。

俺は雷に感謝しつつ、キッチンへと向かった。

雷が作った朝食を食べ終えると、帰ってきた雷が改まった様子で話しかけてきた。

「あのさ、提案があるんだけど」

「何だ?」

「私たち、一緒に住まない?」

「え?」

突然の提案に戸惑ってしまう。

「ほら、やっぱり夫婦になるなら同じ家で暮らした方が良くない?」

「それはそうかもしれないけど・・・でも、急にどうしたんだ?」

俺の質問に雷が顔を赤くする。

「その、私って結構寂しがり屋みたいで、一人でいるのが嫌っていうか、不安というか」

「それで、一緒に住みたいって事なのか?」

「そういうこと」

確かに俺としても雷と一緒に居られるのは嬉しい。

しかし、本当にいいのだろうか。

「俺は別に構わないが、鎮守府の方とかは大丈夫なのか?」

俺の言葉に雷が首を傾げる。

「あれ?提督から聞いてない?」

「何を?」

「私、もう辞めたよ?艦娘」

一瞬思考が停止した。

「え、どういうことだ?」

混乱する頭で何とか言葉を絞り出す。

「私ね、艦娘を辞めることにしたの」

「どゆこと!?」

思わず声を荒げてしまう。

「落ち着いて。ちゃんと説明するから」

そう言って雷が説明してくれた内容によると――

1つ、雷は最初から艦娘の任を解かれる事になっていた。

2つ、この家を買うために貯金していた。

3つ、新しい生活を始めるには資金が必要で、そのためにはお金がいる。

「つまり、こういうこと?」

「簡単に言えばそうなるわね」

「いや、そうなるわねじゃないだろう!」


ーーーーー

ちなみに手紙のところで提督と出ました(八城に修正)。

しっかりと艦隊これくしょんと認識してくれているね。

ところどころ表現を修正する方針は楽でいい。

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