6-AI-雷ちゃん癒し

「もーっと私に頼っていいのよ!」


こんにちは。舞鶴鎮守府で憲兵をしている八城です。苗字は言いません。言いたくない。

まぁ、それは些細な事なので無視しましょうか。

ついでに言うと、提督さんと長門さんが本気の殴り合いをして鎮守府の一部が崩壊している事と、電がプラズマになって長門を大破にし入渠ドック二日間以上の治療と提督を入院二週間超の病院送りにした事も些細な問題です。いいね?

本当に問題になっているのは、この鎮守府が現状無法地帯になっている事です。

いえ、ただ単に無法地帯というと語弊があるかな。

具体的には、鎮守府の敷地内で天龍さんを筆頭に近接戦の訓練だったりなど様々な軽い訓練が行われたり、外出届を提出して観光に出かける艦娘が一気に増えたり、海域攻略のサボタージュを行う艦娘が現れたり・・・言うほどそこまでひどくはないか。

それよりももっと深刻で、私が頭を抱えている問題が今ある。

私は鎮守府内の敷地内にある憲兵専用の寮、今風に言うと社宅に住んでいる状態にある。隣人問題とかの問題ではない。部屋が汚いとかいう問題ではない。

ただ・・・艦娘来るな。特に雷。


夏の明朝、目を覚ました私は布団から這い出るように出て、とりあえず冷蔵庫に放り込んだカロリーバーを食べようと冷蔵庫の扉部分に手を掛ける。その時、ピンポンとインターフォンが鳴った。

「また来たのか・・・」

俺はその犯人を知っている。門前払いしたはずだが、それでも来るのか彼女は。

カロリーバーを貪りながら玄関の扉を開ける。

「こんにちは!八城さん!」

この子は暁型3番艦駆逐艦の雷。舞鶴鎮守府の艦娘です。

ここに懲りずに何度もやってくるその神経だけは誉めよう。それ以外はぶん殴る。

「とりあえず帰れ」

雷を鎮守府に戻そうとすると、彼女は泣きそうな顔で俯いた。

「むぅ、ひどいわ。カロリーバーしか食べてないと思って、せっかく料理を作ってきてあげたのに。」

・・・そう言われると弱い。それにまともな料理なんて三日前に食べたばっかりだからな。

「分かった、上がっていい」


ーここから出力。一部修正ー


「うん!」

嬉しそうにするな、お前のせいでこっちは頭が痛いんだぞ。

「それで、今日は何を作った?」

「カレーよ!」

あぁ、やっぱりカレーか。俺の大好物だもんな。しかも手作りときたか。雷が作った手製のカレーを頬張りながら考える。

最近、この雷が毎日のように朝昼晩と食事を作りに来るのだ。

最初は追い返していたのだが、そのうちこちらが根負けして中に入れるようになった。

どうせなら食費も浮くし一石二鳥だと割り切って。

しかし、ここ最近はそれでは済まない事態になっている。

「はい、お水とお代わりよ」

「ありがとう」

いつも通り食事をしていると、雷がニコニコしながら話しかけてきた。

「ねぇ、美味しい?」

「ああ、うまいよ」

「よかったー」

何だろう、この会話だけ聞いていると恋人同士みたいだな。

そんな事を考えていると、雷がジッと私の顔を覗き込んできた。

近いって。そして胸元が見えてる。谷間が丸見えじゃないか。

目のやり場に困っていると、雷が口を開いた。

「ところでさ、どうしてご飯作らせてくれないの?私じゃ不満?」

少し拗ねたような表情を見せる雷。そういう所が可愛いんだよな。

「別に君に不満があるわけじゃない。むしろ助かっているくらいだよ。でもな、君は女の子なんだろ?年頃の男の部屋に入り浸るのはどうかと思うんだが」

そう言うと雷はキョトンとした顔を見せた後、笑い出した。

「ふっふふ、何を言ってるのかしら。私は艦娘よ?あなたと同じ人間なんかじゃないわ」

「それは分かっている。だけどな・・・」

「それに、私はあなたのお嫁さんになる予定だし、もう家族みたいなものよね」

えへへと笑う雷。確かにこいつは見た目こそ少女だが歴戦の艦娘であり、深海棲艦と戦える数少ない戦力の一つでもある。そして酒を飲める。

しかし、彼女の言う事は正しいかもしれないが、それでも俺は彼女を受け入れられない。理由は単純で彼女が若いからだ。

いくら中身が艦娘とはいえ、外見は普通の女子高校生なのだ。

それが男の一人部屋に出入りしているというのは世間体的によろしくないだろう。

「とにかくダメなものはダメだ。帰ってくれ」

雷を追い出すと、ため息をつく。

こんな事、いつまで続くんだろうか。

雷が来なくなって数日が経ったある日。

その日は珍しく朝から体調が悪く、熱っぽい感じがした。

こういう時は無理せず休むに限ると思い、同僚に仕事を休むことを伝えて布団に潜り込む。

そのまま寝ていると、部屋の扉がノックされた。

「誰だ?」

「私よ!雷が来たわよ!」

雷か。というか、どうやって入ったんだろう。

まぁ、鍵を閉めてなかった俺が悪いか。

「入っていいとは一言も言っていないが?」

「あら、ごめんなさい。勝手に入っちゃったわ」

悪びれもなく言うと、雷は部屋に入って来てベッドの横で正座する。

「どうしたの?風邪かしら。顔色悪いけど」

「ただの体調不良だ。気にしなくていい」

「そう、分かったわ。はい、これ」

そう言って雷が差し出してきたのは、冷えピタシートだった。

「何のつもりだ?」

「看病してあげようと思って」

そう言いながらニコッと微笑む雷。

「大丈夫だ、一人で何とかできる」

身体を起こす。関節がところどころに痛む。

「いいからいいから。大人しく甘えておきなさーい」

そう言って俺を無理やり布団に戻す雷。

抵抗しようとするものの、やはり体が思うように動かない。

「分かった分かった。頼むから勘弁してくれ」

観念しておとなしくなると、雷が嬉しそうな笑みを浮かべた。

「うんうん、素直が一番よ」

そう言って頭を撫でてくる。

まるで子供扱いされているようで恥ずかしいが、何故か振り払う気にはなれなかった。

「はい、あ~ん」

雷がスプーンを差し出して来た。

それを口に入れると優しい味が口に広がっていく。

「どう?美味しい?」

「ああ、うまいよ」

「よかったぁ!」

満面の笑顔を見せる雷。

なんだろう、この気持ち。胸の奥が温かくなっていくような感覚だ。

「他に何かしてほしいことはある?」

雷が聞いてくる。そうだな、特に何も思いつかない。

強いて言えば、もう少しだけそばに居てほしいかな。

そんな事を考えてみるも、言えるはずもない。

「じゃあ、手を握ってくれ」

「こう?」

雷の手がそっと握られる。

その小さな手を握り返すと、不思議と心が落ち着く気がした。

「どう?落ち着いた?」

「ああ、ありがとう」

「うふふ、良かった」

しばらく雷の体温を感じていると、だんだん眠くなってきた。

「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど」

「何だ?」

「あなたって好きな人っているの?」

「いないな」

即答すると、雷の顔がぱあっと明るくなった。

「じゃあさ、私が立候補しても問題ないのね!?」

えっへんと胸を張る雷。何を言っているんだこいつは。

「お前な、自分の立場分かってるのか?」

「艦娘だよ?それにあなただって私の事嫌いじゃないんでしょ?」

「それは・・・」

「それに、私は艦娘だけど、普通の女の子でもあるんだよ。だからさ、もっと優しくして欲しいなって思うんだよね。ほら、私たち夫婦になる予定だし」

えへへと笑う雷。その顔がとても愛らしく思えた。

「分かったよ。でも、後悔するなよ?」

「しないわ。絶対」

雷はそう言うと、ゆっくりと顔を近づけてきた。

そして唇が重なる。その瞬間、頭の中が真っ白になった。

しばらくして雷が離れると、照れくさそうに頬を掻いた。

「えへへ、ファーストキス、貰っちゃった」

はにかみながら笑う雷を見て、思わず見惚れてしまう。

「お、おい、もう満足したろ。出てけよ」

慌てて目を逸らす。

しかし、雷は動かなかった。

「雷?」

雷を見ると耳まで赤くなっていた。

「あの、その、嫌だったら言って欲しいんだけど」

そう前置きしてから雷が続ける。

「もう一回、したいなって思って」

俺は無言で布団を頭から被った。

「ごめんなさい!」

謝りながらも強引に布団を剥ぎ取る雷。

俺の視界に入ってきた彼女は涙目になっていた。

「ごめんなさい、調子に乗りすぎました!本当にごめんなさい!」

土下座せんばかりの勢いで何度も謝罪する雷。

「いや、別にそこまでしなくても」

「いえ、これはケジメです。どうか許してください」

「分かった、分かったから。とりあえず顔を上げてくれ」

雷が恐る恐るという感じで顔を上げる。

「全く、大げさだな。たかが接吻ぐらいで」

わざとぶっきらぼうに言い放つ。

これで雷が怒って出て行くならそれでいいと思ったのだが―――

「そうよね、私なんかとじゃいやって言っても仕方ないものね」

しゅんとした様子で雷が言った。

しまった、また言い方を間違えたらしい。

「そうじゃない」と言っても、「いいのよ無理しなくて」と返されるだけだった。

こうなれば、奥の手を使うしかないか。

「雷」

名前を呼ぶと雷がこちらを見た。

「雷、こっちに来てくれ」

雷が素直に従ってベッドの横に来る。

そして頭を撫でてやる。

雷は最初驚いたようだったが、すぐに嬉しそうな表情を浮かべた。

「もっと褒めてもいいんだよ?」

「偉いな、良い子だ。可愛いぞ」

言いながら雷の髪を手ですく。

サラリとして触っていて気持ちが良い。ずっとこうしていられそうだ。雷の顔がどんどん赤くなっていく。

「そ、そろそろいいかしら?」

「ん?ああ、すまん」

名残惜しかったが、そっと手を離した。

「あーその、なんだ。悪気があったわけじゃ無いんだ。ただ少し恥ずかしくてな」

我ながら情けない弁明だと思う。

だが、これが今の精一杯だ。

そんな俺の心中を知ってか知らずか、雷は笑顔を見せた。

「うん、分かっているわ。だから、そんなに気にしないで」

雷が腕を伸ばしてくる。それを抱き留めると雷が胸に顔を埋めてきた。

「ねぇ、もう一回だけしてもらっても良い?」

「しょうがないな」

雷の頭に手を置いて、そっと引き寄せる。再び唇を重ねると、今度は雷の方からも求めてくれた。

そのまましばらく抱き合っていると、だんだん眠くなってきた。

「あら、疲れちゃった?」

雷の声を聞いて、自分がうとうとしていた事に気づく。

「ああ、ちょっとな」

正直に答えると、雷がクスッと笑みを漏らした。

「今日は色々あったものね。ゆっくり休んで」

そう言うと、雷が優しく抱きしめてくれる。その温もりを感じているうちに瞼が落ちていった。

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