読心能力で成り上がれ!

膝からレンコン

読心能力で成り上がれ!

俺__成瀬蓮は特殊な力をもっている。


別に異世界から帰ってきたとかじゃなくて、生まれた時から持っていた力だ。


だが、俺の力は地味で使えない。


所謂、読心能力と言うやつだ。


他になかったのかなぁ。


身体強化とか、魔法とか。


ラノベの読み過ぎか…。


さて!日課の夜ランニング行きますか!


今日は気分を変えて別のコースを走ろう。


◆◆◆

少し走ったとき、クラスメイトの佐藤さんに会った。 


「こんばんは、佐藤さん。」


「こんばんは、成瀬くん。」


(久しぶりに成瀬くんと話すなぁ。)


「そういえば、佐藤さんと話すのは久しぶりだね。」


「確かに!最後に喋ったのって2ヶ月前だから、7月かな。」


(本当は、3ヶ月前何だけど、成瀬くん気づいてくれるかな?)


なぜ嘘をつくのか分からないが、一応訂正しておこう。


「いや、確か3ヶ月前だったよ。」


「へ?あ、あぁ!そうだった!ゴメンね?」


(気づいてくれた!?あまり喋らないから分からないと思ってたのに…。)


「じゃあ、俺こっちだから。」


「え!?ちょっ!」


◆◆◆


さらに、少し走った時、質屋を通り掛かった。


「だ・か・ら!これは偽物の時計ですって!」


「そんなはずないでしょ!これは親父の形見なんですよ!」


「じゃあその親父さんが贋作を掴まされたんじゃないですか?良く出来てますし」


言い争っている声が聞こえた。


こういう時は、無性に読心能力を使用したくなるんだよな。


まずは、依頼人のお兄さん。


(本物のはずだ!親父が嬉しそうにその時計のブランドの本店に行った話とその写真を見せてくれたんだから!)


へぇ〜。


じゃあ時計は本物なのか?


次に質屋の店主に使用する。


(チッ!コイツめんどくさいな!さっさと諦めろよ!

え?偽物なわけない?当たり前だろ。これ本物だからな。

これを偽物として買い取って、他の場所で高く売ってやる。

いったいいくらの利益になるんだか。

ハッハッハ!笑いが止まらんな!)


やっぱり時計は本物だったのか。


「あの、すいません。」


「あん?誰だ?兄ちゃん。」


(チッ!誰だか知らんが邪魔するな!)


「その時計、本物ですよね。」


「え?」


依頼人のお兄さんも驚いている。


「じゃあ、偽物ではないという証拠は?」


質屋の店主が聞いてくる。


「まず、ロゴや文字などの部分の精巧さですね。

偽物の場合は本物と比べてにじんでいるように見えます。

精密な印字をしていく技術がないから差が出てくるんですよ。


次に塗料の塗りの漏れやズレです。

偽物だと、時計の盤や針に塗られた塗料がわずかにずれていたりします。

ルーペ等を使うと違いが良くわかります。


あと、金属部分の研磨の質ですね。

偽物の場合は金属部分の研磨仕上げが粗く、肌触りも違います。」


(な!?この人は時計界で高名なひとなのか!?見ただけで本物かどうかを見抜いたぞ!)


まぁ、店主の心を読んだだけだか…。


「参った。ちゃんと買い取るよ…。」


「本当ですか!」


と、お兄さんは嬉しそうに言った。


というか親父さんの形見売るのか?


まぁ口をだすことじゃないよな。


そう考えて、ジョギングを再開した。


◆◆◆


家に帰る途中に、チンピラに絡まれた。


「オイ、ガキ。今ちょっと金欠なんだわ。金貸してくんね?」


すかさず能力を使用する。


(返すわけねぇだろバーカ!ヒャヒャヒャヒャ!)


うん。


ちょっとイラッとしたけど、それよりもその笑い声。


「ブフッ!」


つい、吹いてしまった。


「ああ!?テメ、何笑ってんだよ!もしかして、怖くておかしくなったか?

ヒ、ヒャヒャヒャヒャゲホゴボゔぇぇ!」


や、やめろ!えづくな!これ以上は…!


「あ?泣いてんのか?俺がちょっと凄んだだけで泣くとか…弱いなお前ぇ!」


そう言って、チンピラが凄んできたが、全然怖くない。


というか、凄んでるつもりで物凄い変顔…ちょっ!ブフッ


「アハハハハッハッハ!!!ヒ〜!も、もうやめ…ブフッ、アハハハゴボ!」


あまりにも顔が変すぎて、俺もえづいてしまったじゃないか!


「テメェ!笑うなっつただろ!馬鹿にしやがって!オラ!」


そう言って殴りかかってきた。


やべ!


(右腕で顔面を殴る!)


そう聞こえたので、咄嗟にチンピラの左側…つまり自分から見て右に避ける。


「チッ!避けてんじゃねぇ!」


(なんで避けられたんだ!?)


殴る場所がわかっていたら、毎日ランニングして体力づくりしている俺がよけられないはずないだろ?


またチンピラが殴りかかってきた。


(頬、胸、胸、顎、脛、踏みつけ)


それを尽く避けて、避けて、避ける。


チンピラの息が切れてきた。


(な、なんで避けられる…。おかしいだろ!未来でも予測しているのか?)


違う。


未来を予測しているんじゃない。


あんたの、心を読んでいるんだ。


ついに、チンピラが膝をついた。


「何なんだよ!お前!」


「普通の人だよ。」


「はあ?そんなわけ「じゃ!」あ!おい!ちょ!」


面倒臭いので逃げた。


家に帰った俺は、読心能力について真剣に考察してみた。


まず利点を挙げてみよう。


・相手の言ってほしい言葉が分かる。


・俺に嘘は通用しない。


・心を読み、相手の攻撃する大まかな場所を特定出来る。


この位か。


【相手の言ってほしい言葉が分かる】は、相手の機嫌をとったりといったことが出来るかもしれない。


【俺に嘘は通用しない】これは、俺的に一番使える能力だと思う。


この能力を使えば、対人相手では、まず損をしない。


つまり、さっきの質屋のような時の様なことが自分に起こった時、嘘かどうかを見破れる、ということ。


【心を読み、相手の攻撃する大まかな場所を特定出来る】は、チンピラが勘違いしたように、最早未来視の様になっている。


ただ、欠点もある。


複数人におそわれた時だ。


複数人に読心能力を使う事自体は出来るが、攻撃を避けることはできない。


こんな感じか…。


次に、能力のスペック確認だ。


まず、最大で何人の心を同時に読むことができるのか。


検証の結果、10人と分かった。


ただ、同時に心を読むと声が重なって、何と言っているか分からなくなってしまう事も分かった。


次に、読心能力の効果範囲だ。姉からの距離をドンドン離して確認した。


結果は、1.5メートルと言う事が分かった。


ん?おかしいぞ?


1.5メートルなら、質屋の時は範囲外だったはず。


どういうことだ…?


色々試してみてようやく気付いた。


距離ではなく、見ている相手の心を読むことが出来るのだ。


1.5メートルは、壁に阻まれて俺の視界から姉が消えたから心の声が聞こえなかったのだろう。


◆◆◆


改めて考えてみるとかなり使える能力だな。


今までこの能力は、地味で使えないと思っていた。


だが、今やっと気づいた。


この力を使えば、この世界で成り上がれるんじゃないかと。


昔から、いつも夢見てきた。


もっと派手で強力な力があれば、成り上がって幸せになれるのに…と。


だが、読心能力でも成り上がれるのではないだろうか。


むしろ強力な力より、読心能力のほうが楽しそうではないかと。


決めた。


俺は成り上がろう。


この読心能力を武器にして。


「うおおおおお!やってやるぜ!」


「うるさいわよ!近所迷惑でしょ!もう歯磨きして寝なさい!」


「はい…。」


締まらない…。


翌日、高校から下校した俺は、作戦を練ることにした。


俺の目標はこの世界で成り上がることだ。


そのためには、金がいる。


読心能力で金を稼ぐには、やはり商売をするのがいいか?


だが何を商売する?


確か、叔父がPIARっていうIT関連の中小企業の社長だったな。


どうにかして、読心能力が使いやすい営業部で働かせて貰えないだろうか。


親父に相談してみるか。


◆◆◆


俺が親父に相談して、叔父に聞いた結果、やはりだめだった。


ただ、働くのはだめだが、そばで手伝うのは良いと言われた。


そばにいれば、何か学べることがあるかもしれない。


それに、俺は圧倒的な経験不足だ。


そう考え、その話に是非にと飛びついた。


翌日、叔父の会社に行った。


「えぇ、彼は私の甥です。どうやら営業を学びたいらしいので、そばで学ばせてあげて下さい。」


「私は成瀬蓮と申します。若輩者ですが、ご指導ご鞭撻の程どうかよろしくお願い致します。」


(へぇ…。学生にしては出来た言葉遣いだなぁ。)


(ただ不安もあるよな。)


(まぁ社長が言うなら仕方ないか。)


どうやら、丁寧な自己紹介が功を奏したらしく、第一印象は悪くはないようだ。


「さて、今日も一日頑張りましょう!」


「「「「はい!!」」」」


その日から、俺の特訓が始まった。


営業は思ったよりかなりきつくて、外回りは体力を使うし、技術的な説明が必要で、正直読心能力があれば余裕だろうと思っていた過去の俺をぶん殴りたい。


でも、必死で食らいついた。


先輩方の雑務や手伝いなどを率先して行い、知識と経験を積んでいった。


将来に活かすために。


◆◆◆

Side叔父


バァン!と、社長室_と言ってもただの小さい部屋だけど_の扉が勢いよく開かれた。


「社長!」


「ど、どうしたんだね?そんなに慌てて。」


「社長の甥っ子さんの話です!」


蓮くん?


「彼がどうしたんだ?ミスでもしたのかね?」


「逆ですよ!優秀過ぎるんです!」


優秀か…。甥が褒められると嬉しいものだな。


「確かに最初の頃は、所々小さなミスが目立っていました。」


まぁ、それは仕方ないだろう。


「ですが今は、社員数人分の雑務をこなし、さらに営業の外回りについて行っているんですよ!?」


「それは…凄いな…。」


「凄いなんて物じゃないですよ」


そうか…。


弟から、息子を私の会社に入れてくれと頼まれた時は、何事かと思ったが…。


「でも一番怖いのが、飲みたいと思った時に彼がコーヒーを持ってきてくれるんですよ!」


ん?なにかおかしいか?


「一度だけなら偶々だと思いましたが、これが毎日ですよ!?」


「ムゥ〜…。確かに怖いな。」


「まぁ、それでも下手な新入社員の5倍は働けますからね。彼。それじゃあ仕事に戻ります。」


そう言って、彼は戻っていった。

◆◆◆


叔父の会社に来てもう一年が経つ。


かなりの知識と経験を積んだし、人間関係も良好だ。


そんなある日、とても大きい仕事が入ってきた。


いろんな分野で活躍していて、今や日本最大規模と呼ばれる程の会社Number Oneが、いろんなIT企業を集めてプレゼンさせ、最も素晴らしいプレゼンをした会社と契約するというのだ。


今俺はその会場に向かっている。


正直に言おう。


緊張している。


何せ日本が誇る大企業なのだ。


他の人がプレゼンするとわかっていても、緊張するだろう。


会場に入ると、そこには沢山の人がいた。


さて、俺達も準備を始めますか。


◆◆◆


数十分後にプレゼンが始まった。


色んな人が色んな物を工夫してプレゼンをしていた。


『次にPIAR様、お願いします。』


遂に俺たちの出番だ。


今日は田中さんがプレゼンをする。


「頑張りましょう、田中さ、え?」


そこに、田中さんがいなかった。


そういえば、トイレに行くって…。


『PIAR様、お願いします。』


「は、はい!」


や、やっちまったぁ!!!


つい返事をしてしまった。


「壇上に上がってください。」


これは上がらないといけないやつだ。


恨みます!田中さん!


そんな事を思っても、田中さんのお腹は治らないわけで。


幸いにも、商品のことは頭に叩き込んである。


程よく紹介して終わろう。


そうして口を開けかけて閉じた。


本当に程々でいいのか?


そんなんで、成り上がれると本気で思ってたのか?


違うだろ!


今までなんの為に頑張ってきた!


落ち着け。


まずは、能力でNumber Oneの人達の俺に対する評価を読んだ。


(ハァ…。駄目だな。覇気もない、やる気もない。なんの為にここに来たんだ。)


その通りだ。


(哀れだな。中途半端な覚悟で壇上に上ったんだろう。)


その通りだ!


中途半端な覚悟で壇上に上った!


だが、それじゃあ駄目だった。


そうだ。


これはチャンスだ。


成り上がりの為のはじめの一歩。


頬を叩いた。


その音で、どよめいた会場に静寂が戻る。


さぁ。


プレゼンを始めよう。


今まで積み上げてきた、知識と経験。


その全てを出し切れ!


◆◆◆


気がついたら、俺のプレゼンは終わっていた。


集中しすぎて、俺が行ったプレゼンの内容は覚えていない。


ただ、少しだけわかった気がする。


俺はまだ甘かった。


肝心な所で覚悟がたりず、Number Oneの人達に呆れられた。


悔しかった。


その悔しさを噛み締めながら、帰路につこうとした。


◆◆◆

Side藤ノ瀬凛


私は、藤ノ瀬凛。


Number Oneという会社を経営している。


Number Oneは、私が高校生の頃から役員たちと10年かけて成長させた会社だ。


今日は、Number OneがいろんなIT企業を集めてプレゼンさせ、最も素晴らしいプレゼンをした会社と契約するとしている。


『次にPIAR様、お願いします。』


次の会社が来たみたいだ。


…誰も立たない?


おかしい。


欠席した企業はなかった。


『PIAR様、お願いします。』


二回目の呼びかけで、ようやく一人の男性が立ちあがった。


私より、若い子ね。 


そう思って期待していた。なのに。


壇上に上った彼は、覇気が感じられず、期待外れでがっかりした。


…早くしなさいよ!次がつかえてるのよ!


そう叫びそうになったとき


パチン!


と、音はそこまで大きくないのに、やけに響いた音がした。


先程の彼が頬を叩いた音だった。


その時に見た彼のギラギラとした顔は、一生忘れないだろう。


その後の彼のプレゼンは、さながら烈火のようで、聞いているだけで高揚感が押し寄せてきた。


プレゼンが終わり、少しの喪失感を覚えながら彼を見ると、プレゼンの時ほどではないが、その顔は火炎のように燃え盛っており、その顔を見た瞬間、自分の会社への引き抜きを決めた。

俺が会社に帰る準備をしていると、美人な女性が近づいてきた。


「お疲れ様です。」


「は、はぁ貴方はどなたでしょうか?」


「私はNumber Oneの社長をしているわ。」


「Number …ってえぇ!?こんな若いのに!?」


「あなたが言わないでよ。」


「それで…Number Oneの社長が何の御用でしょうか?」


「あなたをスカウトしにきたわ!」


「え?」


「あなたをスカウトしにきたわ!」


「私をですか?」


「あなたをスカウトしにきたわ!」


「ああ!そんな何回も言わんでいい!はっ!失礼しました!」


「いいわよ別に。それより、どうかしら?Number Oneに来る気ある?あるわね。じゃあ来なさい。」


「ちょっ!俺まだ何も!」


「聞こえなぁい」


白々しい。


というか、この人の目的がわからないんだが。


能力を使うか。


(スカウトしたいスカウトしたいスカウトしたいスカウトしたいスカウトしたいスカウトしたいスカウトしたいスカウトしたいスカウトしたいスカウトしたいスカウトしたいスカウトしたいスカウトしたいスカウトしたいスカウトしたい)


「うわああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」


「ちょっとどうしたのよ?」


それはこっちの台詞だよ!


「とりあえず、立ちなさい。」


「は、はい!」


「?まぁいいわ。ここが社長室よ。さあ、入って。」


「し、失礼いたします。」


促されるまま、高そうなソファーに腰をおろした。


「それで、スカウトとは…」


「そのままの意味よ」


「ですが私にはPIARが」


「PIARの社長にも貴方の両親も承諾済みよ。」


手早すぎだろ!


叔父さんならまだしも親!


本当に恐ろしいわこの人。


「分かりました。Number Oneに入らせて頂きます。」


「じゃあ明日からよろしくね。」


「はい。ん?は?仕事の説明は?」


「……頑張って♥」


「そんなこといわれても…。」


「……頑張って♥」


「でも…。」


「……頑張って♥」

 

「わかりましたよ!」


「じゃ、貴方は総務部ね。」


「え?いや。俺営業部…って聞いてないし。」


「期待しているわ。」


「ハイハイ分かりましたよ。」


次の日から、総務部で働いた。


指示を出し、指示を出しでかなり疲れるが、やり甲斐もある。


時々、営業部に顔を出したりもした。


きっとあのプレゼンのときから、俺は変わったんだ。


◆◆◆


早いもので、Number Oneに引き抜かれた時から2年も経った。


俺も今では、総務部の部長になった。


なぜ部長になったかというと、あれから仕事に打ち込み、時々読心能力を駆使しながら、努力していたら、Number One社員歴代最高収益を獲得したからだ。


そうそう。


俺は、この間社長と結婚した。


プロポーズのときは、読心能力は使わなかった。


無粋だとおもったから。


昔は使えないと言っていたけど、これで良かったんだと思う。


俺の目的である成り上がりも成功だろう。


だって、俺は今…これ以上ないくらい幸せなんだから。

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