十二月十八日  ようがし 上

 杏は本条家に使いに出ていた。いつも手を合わせる地蔵の前も、上の空で通りすぎる。

 そして、勝手口でかぼちゃを抱える克哉に出くわした。


「使いか、アン」


 いつもそればかりだ、アンか、使いか、アンか使いか。アンと使いは切って離せないのだろうか。虫の居所の悪い杏は一礼して、克哉の横をすり抜けた。


「昨日の人はもう大丈夫なのか」


 呼びかけるように言われ、杏は立ち止まった。

 息もおぼつかない様子の空木を布団に運んだのは克哉だ。空木の母はちゃんと治ってないのに仕事するなんて、昔からの変わらないのよねと肩をすくめていた。

 医者を呼ぶからと杏と克哉は帰されて、昨日はそれで終いだ。杏としては、見舞いの品を渡せなかった一番の心残りだ。母がこれで元気になるわと豪語していたので、ぜひ試して欲しかった。

 もちろん、空木は今日も学校を休んだ。空木の代わりにきた教頭先生が気合いが足りん、自己管理ができとらんとお冠だったので、先生は一度も風邪を引いたことがないんですかと聞いたのは辰次だ。よく言ってやったと杏は初めて彼を見直した。


「今日も休みました」

「ひどく強い風邪だな」


 克哉の言葉にこくりと杏は頷き、顔を上げることができなくなってしまった。今の顔を見られたら、きっと笑われてしまう。


「アン。明日は用事があるか?」

「……今の、所は……ないと、思います」


 尻すぼみ言葉だが、満足したように克哉は得心顔で頷く。


「明日、うちに来い。いいものをやる」


 思わず顔を上げていた杏はぱちりと目を瞬いた。

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