31 魔人の力。(シャンテ視点)


 愛する彼女のいない世界なんて。

 存在する意味があるのだろうか。

 いっそのこと、滅ぼしてしまおう。


 そんな思考が、何度も巡る。

 ぐるぐるとぐるぐると、回った。


 けれども、諦めない。

 彼女を取り戻す。

 そのためには、この世界は必要だ。

 そして、もっと。もっと力が必要だ。

 何かはわからないが、彼女を蘇生する魔法は弾かれた。

 彼女の魔力が、膨大すぎるせいだろうか。

 それとも弟子が言った通り、アンデット化を阻止する魔法をかけていたのか。

 何にせよ、力がいる。力で勝てばいい話だ。

 彼女に匹敵するほどの力が必要だ。

 そして、思いついた。


 彼女には及ばないが、強力な力がある。


 七年前に、彼女が封じた魔人。

 その魔力。

 あれを取り込めば、きっと。

 彼女を蘇らせることが出来る。

 それだけではない。

 あれほどの魔力ならきっと。

 完璧に蘇らせることも出来るはず。

 魔物のしもべであるアンデットではない。

 きっと死ぬことのない不死身にもなれるかもしれないのだ。

 もう二度と失うことのない命にもなれるはず。

 危険だとはわかっていた。

 あの禍々しさが、封印された今でもなお、あるのならば、どうなるかわからない。

 意識を乗っ取りそうな、あの禍々しさ。

 それでも賭けるしかない。

 あの魔力を全て、蘇生に注ぎ込めば。

 彼女を取り戻せる。


 リリカ様を、取り戻せるはずだ。


 彼女が魔人の封印を見ていた私なら、封印を解くことは不可能ではなかった。

 何日もかけて、彼女が複雑に施した魔法陣を回し、そして鍵を外す。

 途端に、溢れ出したのは、あの禍々しさ。


 呑まれてたまるものか。


 この意識を奪わせない。

 彼女を取り戻すという意志も、奪わせない。

 魔人は七年前と変わらない姿をしていた。

 肉体がないにも関わらず、揺らめく黒い煙のように存在した。

 黒い瞳がこちらを見ているのは、わかる。

 私は手を翳す。

 魔力を吸い取る魔法を発動させて、魔人の魔力を奪う。

 他の者の魔力を直接取り込むのは、危険だとは知っていた。

 この禍々しい魔人の魔力は、なおさらだった。

 徐々に、蝕まれていく。

 当てられた禍々しい気に堪えていたが、魔力を取り込むと意識がぐらついた。


 だめだ。意識を奪われるな。

 呑まれてたまるか。


 私は。

 私は、彼女と取り戻すまで、諦めない。

 それから十年、言えなかったことを。

 言わなかったことを。

 伝えるんだ。


 呑まれてたまるか。


 毒のように徐々に、蝕まれていく。

 それでも、魔力を吸い取ることをやめなかった。


 吞まれてたまるか。

 私は。

 私は、彼女と取り戻すまで、諦めない。

 それから十年、言えなかったことを。

 言わなかったことを。

 伝えるんだ。


 彼女が。

 欲しい。

 欲し、い。

 欲シ、イ……――――。


 ――アノ、女……。


 アノ女ハ、死ンダ。


 ソウダ。

 世界ヲ。

 滅ボシテシマエ。


 破壊シテ、滅ボシテ、シマエバイイ。


 アノ女ハ、モウイナイ。


 イナイ。


 

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